第47話 突破
「やっぱりイヤよ!」
舌舐めずりしている八岐大蛇を目の前にしてサキは流石に躊躇った。元々、は虫類は苦手な方である。
それを見て慎一も、無理強いはできないと思った。
「なあ、ロク、サキもこう言っているんだし、他の方法はねえのかな?」
「おい、お主。何を戯けた事を申すか。サキ以外に突破口は作れぬ。サキよ。ワシは鬼になる。悪いがワシを信じてくれぬか。この状況を打破できるのはお前しか居らぬのじゃ」
「でも、どうしても鳥肌が立っちゃうの。絶対にイヤ!」
「仕方あるまい」
ロクはそう言うと、サキの鳩尾に手拳を見舞った。
「ゔっ」
「すまぬ、サキ」
「ロク!お前サキに何を!」
ロクはニヤリとして言った。
「まあ、見ておれ」
ロクは両の前足を合わせ、念じた。
すると、ロクの姿はサキに吸い込まれ、消えていった。
「おい、ロク!」
「なんじゃ?」
サキの姿で皺枯れた声が出ているミスマッチに慎一は爆笑を禁じ得なかった。
「お前、サキに後で怒られるぞ?」
「ワシとてやりたいと思っていた訳ではないぞ。サキが蛇嫌いとはのう」
「これくらいの女の子ならそれが普通だろ」
「ワシが生きておった頃は、童は蛇を捕まえて遊んでおったもんじゃ」
「知るか!そんな話聞いたことないぞ」
「とにかくこれで結界の突破の条件は揃った。もう一つの課題はお主がどうやって一緒に入るか、じゃな」
「俺も自動的に入れるんじゃないのか?」
「お主も相当うつけ者よのう。わはは。そんな事があるはずなかろう?」
「お前一人で何とかなるのか?」
「いや、ならんな。サキに憑依していても、サキ以上の力は出せんのじゃよ」
「それじゃあ意味なくないか?ただ単にサキとお前が喰われてお終い、ってことにはならねえだろうな」
「このままではそうなるであろう。そこでじゃ」
「なんだよ?」
「お主、軍荼利明王に変化できるな?」
「お、おお。」
「お主、実は他のものにも変化できるのではないかな?」
「えっ?」
「お主には自覚はないようじゃが、お前さんの『精神』の値がデタラメに上がり下がりする理由は、そこにあるとワシは思っておる」
「つまり?」
「お主はいくつかの明王に変化するチカラがあるのではないかとワシは睨んでおる。もし、ワシの考えが正しいならば、この陀羅尼を唱えてみよ」
ロクはそういうと、陀羅尼を唱え始めた。
「のうもぼたや・のうもたらまや・のうもそうきゃ・たにやた ・ごごごごごご・のうがれいれい・だばれいれい・ごやごや ・びじややびじやや・とそとそ・ろーろ・ひいらめら ・ちりめら・いりみたり・ちりみたり・いずちりみたり ・だめ・そだめ・とそてい・くらべいら・さばら ・びばら・いちり・びちりりちり・びちり・のうもそとはぼたなん ・そくりきし・くどきやうか・のうもらかたん・ごらだら ・ばらしやとにば・さんまんていのう・なしやそにしやそ ・のうまくはたなん・そわか」
「覚えきれねえ!」
「一緒にじゃ。一区切りずつ反復せよ」
「わかった」
ロクと慎一は、一つ一つ丁寧に陀羅尼を唱え始めた。
「のうもぼたや・のうもたらまや・のうもそうきゃ・たにやた ・ごごごごごご・のうがれいれい・だばれいれい・ごやごや ・びじややびじやや・とそとそ・ろーろ・ひいらめら ・ちりめら・いりみたり・ちりみたり・いずちりみたり ・だめ・そだめ・とそてい・くらべいら・さばら ・びばら・いちり・びちりりちり・びちり・のうもそとはぼたなん ・そくりきし・くどきやうか・のうもらかたん・ごらだら ・ばらしやとにば・さんまんていのう・なしやそにしやそ ・のうまくはたなん・そわか!」
すると慎一の身体に変化が起こり始めた。
腕は四本。孔雀に乗り、軍荼利明王とは違う、慈悲の表情をした女性の明王がここに現れた。