第46話 櫛名田比売(くしなだひめ)
「櫛名田比売じゃ」
ロクは勝ち誇ったような顔をしてそう言った。
「くしだなひめ?何だそれ?」
「八岐大蛇はな、山津見神の子の足名椎命という夫婦のところに毎年来ては八人いた娘を一人ずつ食っておったのじゃ」
「ネコちゃん?なにを言ってるの?」
「八番目の娘、櫛名田比売は須佐之男命が守って自分の妻にしてしまった。八人目の娘を八岐大蛇は食っておらん。八番目の蛇は腹をすかせておるじゃろうて」
「ロク、おまえまさかサキを囮に使うつもりか?」
「左様」
「いやよー! ネコちゃん酷いわ! ぜーったいいやよ!」
「ロク、流石にサキが気の毒だよ。俺だってサキの立場なら嫌だよ」
「では、お前さんならどうやって中に入るんじゃ?」
「そ、それは…」
「無策か。他に手立てもあるまい?」
「アタシはいやよ。絶対にお断り!」
「サキよ、大丈夫じゃ。お前さんを見殺しにはせんから安心しろ」
「そんなの信じられるわけないでしょ!」
「ロク、どんな作戦かちゃんと説明しないと流石にサキも納得できないだろう?」
「須佐之男命はどうやって八岐大蛇を退治たか、知っておるか?」
「いや、神話のことはよく知らない」
「神話ではないぞ、現にここに八岐大蛇がいるにもかかわらずお前さんは神話として片付けようとしておる。嘆かわしい事じゃ。まあいいじゃろう。須佐之男命は、蛇達に酒を飲ませた。あやつらは女も好物じゃが、酒には滅法目がない。」
「酒を、酒飲ませるってことか?」
「そうじゃ」
「でも、酒なんてどこに…」
「見ておれ」
とロクは言うと、両方の前脚を空中にかざし、何やら唱え始めた。
するとロクの両方の前脚が作った空間の真ん中に液体がー 強い香りのする酒が湧き上がってきた。
「八塩折之酒じゃ。サキを囮に使い、中に入る。これを八つの桶に入れ、八つの蛇に酒を飲ます。蛇は酒で寝る。その間に奴の体の中にある草薙剣を取り出しトドメを刺す」
「簡単に言うけど、そんなのうまくいくのかよ?」
「分からん。しかし他に手はない」
「ネコちゃん、そうすれば有紀さんは助けられる?」
「お前次第じゃ。うまく立ち回れるか?」
「頑張ってみるよ」
「サキ、良いのか?お前」
「シン兄のためだもん、アタシ、頑張るよ」
「サキ、すまない」
「お主、お前が草薙剣で八岐大蛇を退治るのじゃ。できるか?」
「当たり前だ。サキが頑張るって言ってるんだ。俺がやらなくてどうする」
「よし。では早速やるぞ」
ロクは、八岐大蛇に向かって叫んだ。
「八岐大蛇よ! 八番目の娘じゃ! シカト見よ!」
八岐大蛇の八つの頭は一斉に振り向いてロクと、サキを見た。
「ほう、八番目の娘か。美味そうだ」
八つの頭の一つが舌なめずりをしながら言った。