第45話 八岐大蛇(ヤマタノオロチ)
マリー=テレーズは、E.G.o.I.S.T.を電源車につなぎ、カートリッジの様な筒状の物体を本体に収めた。
また、一方ではE.G.o.I.S.T.はケーブルでモニタにも接続されており、記録媒体としてベータカムがさらに接続されていた。
「先生、強い電磁波が出ますよ。そこに電磁波をカットするジャケットがありますから着用して下さい」
「マリー=テレーズ。ありがとう」
道足は早速ジャケットを着込んだ。
「でも、このジャケットもマリー=テレーズのデザインでしょう? 本当にセンスがイマイチよね」
「聞こえてますわよ。先生」
「あら、聞こえるように言ったのよ。ほほほ」
先ほどの機動隊員が、
「助教授、一体この機械は何なんですか?武器だとすると、私たち先生達を逮捕しないといけないもので…」
「武器?あなたにはこれが武器に見えるの?」
「ええ、いわゆるロケットランチャーと言うものに見えます」
「マリー=テレーズ! 良かったわね! これ、武器にみえるらしいわよ!!」
「で、これは何なんです?」
「これは霊体を電磁波を使って感知する装置よ。武器の類ではないわ」
「そうでしたか。それなら安心…」
と言った刹那、凄まじい音が出て、E.G.o.I.S.T.から光線が《闇》に向かって放射された。
「じ、助教授?本当に武器じゃないんでしょうね?」
「ほら、ごらんなさい」
道足が顎でしゃくった先には、《闇》が ー 闇の内部が可視化されていた。
ほらごらんなさい、と言いながら、自分でもビックリして、道足はまたあの台詞を吐いた。
「なによ、これ」
道足の両目には、八つの頭を持つ大蛇が映っていた。
「ほら! 先生! 私の言った通りでしょう? しかし先生の驚き方ってワンパターンですね?」
「マリー=テレーズ! 凄いじゃない! あなたが言った通り、本当に居たのね! ワンパターンは余計なお世話だけど!」
「先生、先生がスポンサーを見つけてきてくださったからE.G.o.I.S.T.が作れたんですよ」
「ちゃんと映像は撮れているかしら?」
「後でチェックします!」
二十世紀も末になったが、これは、世紀の発明ともいえる。
その横で、慎一達三人がこれをみていた。
「この装置、俺たちのことを普通の人達に見えるようにしちまう奴らしい」
「コレは気ををつけねばならん」
「俺たちの存在が知られるのはマズイってことか?」
「そうじゃ。ワシらは妖。人間と出会った時は、「死」、「憑依」しか無いのじゃ」
「でも、サキの両親はお前を見たんだろ?」
ロクは口ごもって、しどろもどろに、
「何にでも例外はあるのじゃ」
と答えた。
慎一は少しニヤっとした顔をした。
「そうだな。サキの両親も今は罪を償ってるんだし」
「まだ、あの雄島って男はまだ捕まって無いのよ」
サキは思わぬことを呟いた。
「俺たちで見つけて警察に差し出すとかできるんじゃ無いか?」
「お主、それはご法度じゃ」
「なんでだよ。」
「我々の世界にも不文律はある。それをやれば、やがて我が身に報いが降りかかるであろう」
慎一は何かを言いかけたがグッと堪えて、
「わかった。さて、この面倒臭い状況であの蛇野郎をなんとかしないとな」
古事記によれば、八岐大蛇は、出雲国に入った須佐之男命に退治された。頭と尾が八本ずつある。
「とにかく中に入らないことには仕方ねえな。どうする? ロク?」
「ワシにはちょっと考えがある」
「どんな?」
「サキじゃ」
サキは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして言った。
「え? ネコちゃん、アタシ??」