第44話 E.G.o.I.S.T.
マリー=テレーズは20cmの直径、45cm程の長さをもつ、アルミの筒状の筐体を取り出した。アタッチメントのカングリップと、スコープのようなものを本体に取り付けた。
頼りない短砲身のロケットランチャーのような出で立ちだ。
「マリー=テレーズ。何よこれ。あなたの趣味丸出しじゃないの」
「先生。私の趣味のことはさておき、電源車の確保をお願いします」
マリー=テレーズはミリタリー趣味について否定しなかった。
「ようやくこの、…そう言えば名前をつけてなかったわね」
「先生、そこは抜かりございません。E.G.o.I.S.T.エゴイストです」
道足は、眉毛の端を釣り上げて聞いた。
「エゴイストですって? 一体全体何の略よ」
「Electromagnetic Ghost or Intelligence Sensing Teach-deviceですわ。先生」
「マリー=テレーズ。電磁霊的知的生命体検知装置、って訳ね。最後、エゴイストって読みにこだわって《デバイス》で良いところを《テックデバイス》に変えたわね?」
「さすが先生。私のことは何でもお見通し。」
「貴方のことは大体分かるわ」
「先生」
「何よ」
「電源車」
道足は自分で言い出したにも関わらず態度を変えた。
「ねえ、マリー=テレーズ。良い勉強だから電源車も自分で何とかしてみない?」
「はあ? 先生。私はその手の交渉大嫌いなので」
「はあ? じゃないわよ。自分でなさい!」
「ほらほら、先生。結界が小さくなってきましたよ」
「えっえっ? 本当?」
「言い合っている場合ではないようですね? 私、まだこのエゴイストの調整が残ってますから宜しくお願い致します」
道足は仕方なく自分たちの警護にあたってくれていた機動隊員に電源車を直ぐに配備してもらうように要請した。
しかし、対応に当たった隊員は、
「あの、隊長からは『何もするな』と命令が出てまして…」
「その隊長さんに合わせてくれるかしら?」
「隊長との面会も断るように、と!」
「ほう、この道足 恭代に安い喧嘩を売ってくれるわね。」
と独りごちると、おもむろに隊員の無線機をひったくった。
「おい。誰か聞いているか? 私は東京科学工科大の道足だ。責任者を出せ」
第六機動隊の隊長、山下 蒼一郎はこの無線を聞いていた。
「あちゃー、やっこさん怒らせちゃったな。仕方ない。俺が出るか」
山下は無線機のマイクを取り、
「道足助教授、第六機動隊隊長の山下であります」
「隊長さん、この仕打ちはどういうことかしら」
「上の指示であります」
「上、とは?」
「上とは、警視総監であります」
「選択肢を二つあげる。山下隊長。一つ、上を説得しなさい。二つ、黙って電源車を一台差し向けなさい。三十分以内よ!」
「両方とも承知できなければ?」
「隊長さん。警視庁の監督官庁はどこ?」
「警察庁でありますが、それがなにか」
「山下隊長さん。前警察庁長官の名前を言ってごらんなさい」
「み、道足 健彦…」
「分かったらどちらか選びなさい!」
「はっ!電源車を用意致します!」
道足はそう言うと、マイクを隊員に返し、
「ありがとう。わたしからマイクを取り返すことなど造作もないはずなのに。あなたにお咎めがないと良いけれど」
「助教授、その節にはどうか前長官にご慈悲を頂きますようお伝えいただければ」
道足は、軽くウインクをした。
「先生、どうやって恫喝してきたんですか?」
「あら失礼ね。マリー=テレーズ。私、前警察庁長官の名前を言ってごらんなさい、しか言ってないわよ」
巧妙に話を振ったが、実のところ道足の父は、政治家でも警察官僚でもない。
「またやりましたか。さすがエゴ…いえ」
「マリー=テレーズ。やっぱり名前の由来はそれかしら?」
果たして電源車はやってきた。
マリー=テレーズは三相電源のワイヤを舌なめずりしながらE.G.o.I.S.T本体に繋いだ。