第40話 閻魔大王
漆黒の翼、三本の脚を持つ姿の八咫烏だが、実のところは賀茂建角身命と言う名を持つ神である。
しかしながら、今の奈良県に当たる葛城国造の、祖とされており神話上の神ならず現世に続く賀茂、又は鴨姓の始祖だとされる。
神武東征の際に神武天皇を長髄彦との戦いのために瀬戸内海から近畿地方へ攻め入る道案内をしたとされ、元は金色に輝く鳶の姿をしていたが、どういう訳かカラスに姿を変えた。
「閻魔とはな、簡単に語れる間柄ではないのだ。」
八咫烏は閻魔大王について語り出した。
「閻魔は、黄泉の国と現を行き来出来る稀有な存在だ。私は太陽神だの、導きの神だなどと言われているようだが、現の存在だ。何故この時代にいるかと問われれば、閻魔によって時空を超えさせられてしまったからなのだ」
「要するに貴様は、閻魔と何かしらの取引をして、今は奴に従っている、そう言う訳じゃな?」
と、ロク。
「私の娘、玉依姫が閻魔の手下、忽那によって囚われている。」
「忽那って、あの忽那か?ロク?」と慎一が聞くと、
「そのようじゃな。」
とロク。
続けて、
「八咫烏よ、何故閻魔がお前の娘をさらうんじゃ?」
と聞くと、八咫烏の表情は少し曇って、
「少しばかり喋り過ぎたようだ。これ以上貴様らに話すようなことではない。」
と、幾ばくか力なく言った。
「そんなことないよ!」
サキが割って入る。
「カラスさん、誰かを助けたいって気持ち、アタシたちは一番わかるよ。この慎ニイは、この中にいる有紀さんを助けたいって物凄く心配してるし、ネコちゃんは、閻魔大王を裏切ってまでシン兄のこと助けたいって思ってる。アタシは、玉依姫さんを助けたいって今思った」
サキの言葉を聴いても、八咫烏の表情は変わらない。
「そこの娘よ。我が娘を助けたいだと?随分と、軽々しく言う。」
「軽々しくなんて言ってないよ! アタシ達、力を合わせて立ち向かえば…」
サキが言い返そうとする刹那、八咫烏は怒鳴った。
「ふざけるな! お前らごときが忽那に勝てるとでも思っているのか! 雑魚を相手に少しばかり勝ったからといって、のぼせ上がるのも大概にせよ!」
「ひっ、ひっ」
サキは八咫烏の怒号に気圧され、また自分の思いを否定された事に悔しさを覚えて泣き始めた。
「八咫烏よ。ワシも簡単に忽那に勝てるとは思ってはおらんよ。しかし、このサキの思いはもう少し汲んでやってはくれぬかのう? ワシはサキほど優しい他人思いの娘をあまり知らぬ。」
ロクは八咫烏に言った。
「優しさや思いだけで勝てる相手ではないぞ」
「分かっておる。しかし思いと言うヤツは、思わぬ力を発揮するとは思わんか?」
そうロクが言うと、八咫烏の漆黒の瞳の奥に、柔らかい焔の様なものが宿った。