第38話 新宿地獄
新宿伊勢丹のある辺りを中心に、半径約500mほどが漆黒の闇に覆われた。
そして、闇の中では刻が止まったようであった。
有紀が乗っていた中央快速も動きを止め、先ほど漆黒の闇を見つけて大騒ぎしていた乗客達も目を見開き、叫び声をあげるために口を開いた状態で動きを止めていた。
また、ある者は恐怖におののき、頭を抱えたまま、またある者は腰を抜かして今まさに膝から崩れ落ちようとしている態勢のまま止まっていた。
一方、《闇》の外の世界ではほどなく警察と消防が駆けつける騒ぎになっていて、《闇》に近づいた警官が消えていなくなり、突入を試みた警察車両がやはり消えてなくなった。
慎一たちは、出社する有紀についていくために電車に乗っていたが、闇に包まれた瞬間、弾き飛ばされたのだった。この《闇》は一種の結界であろうか。3人は、西武新宿駅のあたりに放り出されたのであった。
「くそう!なんだこれは! 入れねえじゃないか!」
慎一が怒鳴る。
「これは、《辻切》じゃ」
ロクが答える。
「《辻斬り》だと?あの、斬り捨て御免のアレか?」
「いや、違う。《辻切》じゃ。よく見てみろ。上に大蛇がおって、こちらをにらんでいる。これは道に蛇を遣わして結界を張るものじゃ。問題はだれがこれを張ったか、ということじゃな」
「中はどうなっている?」
「おそらく刻が止まっておるのじゃろう。誰が何をしようとしているのか」
「いずれにしても、有紀が中にいるんだ。間違いなく俺たちに何かさせようってことだけはわかる」
するとサキが言った。
「『辻切』って、あたし聞いたことがあるよ。おじいちゃんから」
「サキ、どんなことだ?じいちゃんはなんて言ってた?」
「うん、おじいちゃんは千葉県に住んでてね、伊弉諾尊を追いかけてきた黄泉醜女を遮るために投げた杖から出た神様で、塞ノ神って言われているんだって。」
「おいおい、それじゃあ俺たちが災厄ってことかよ?」
「まあ、そういうことになるのう」
「のんきなこと言ってんじゃねえ!」
「まあそう怒るな。要するに塞ノ神を取り込んでわしたちをくぎ付けにしようとしている曲者がおるということじゃな」
ロクは続けて、
「心当たりは、ある。すぐに奴は出てくるじゃろうて」
そして騒然としている西武新宿駅の交差点の真ん中に、漆黒の翼と、3本の脚を持つ鳥が舞い降りた。