表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生まれ変わり --Renato リナート--  作者: Tohna
第5章 No mercy (容赦なし)
37/81

第37話 忙中閑あり、そして

 同じ日に命を落とした慎一とサキの葬儀は、奇しくも同じ斎場で同じ日に、隣り合った会場で営まれた。

 両親が逮捕されたサキの葬儀は、サキの祖父、那須野 幸雄が喪主となって執り行われた。


 対照的だったのは、慎一の葬儀にはかつてのヒーローの葬儀という事もあり多くの参列者が居たが、サキの葬儀には、事件の社会的な影響もあり、学校関係者や限られた親族しか居ない寂しいものだった。


 慎一、ロク、サキの三人は自分たちが火葬され立ち昇って行く煙を黙って見ていた。


 陽射しが柔らかく、小春日和な冬の日だった。



 三人は共に行動し、時折現れる妖を倒しつつ都内を徘徊していた。


 様々な形態の妖が出現したが、玉藻前の様な強力なチカラを持った妖はあれ以来出てこない。


 豚の顔を持つ者はロクの爪で串刺しにされ、火の鳥はサキの瑠璃光で勢いを消されて墜落、石神井の池ではタガメの妖に慎一が水中へ引きずり込まれたが、甘露軍陀利真言で霧散させた。誰かが傷ついても、サキが癒し、三人が連携すれば無敵にすら思えた。


 それでもロクは、


「あの女狐にワシらは追い詰められたことを忘れてはならん。女狐よりよっぽど強い奴はまだまだおるんじゃ。用心せねばならん」

 と言って警戒を解かないが残りの二人は少々間違った強気に支配されつつあった。


 一方で慎一の憑依を許した元紀だが、あの日以来有紀に再び相見える事もなく、日々救急の現場に出場し、命を救い続けていた。そして救えなかった時、慎一を救えなかった時と同じように苦悩した。


 そして有紀は、善福寺のアパルトマンを引き払って、日野の実家に戻っていた。


 会社には葬儀から一週間ほどで一度復帰したが、四十九日の法要が終わった頃から時折激しい絶望感に支配されて人前で涙が止まらなくなった事から、人事より休職を勧められ、休職、両親は一人だと何をするか分からないという理由で一人暮らしを止めさせたわけだ。


 今は夜眠れず、昼間は夢現を彷徨い、体重は二週間で6kg落ち、遂には起き上がることすら億劫になりかけていた。


 命をつなぐ程度の食事しか取れず、誰とも話せない。


 両親も懸命に有紀を支えた。

 

 父哲朗は、春になり桜が咲くと車であきる野の小峰公園まで有紀を車に乗せて出かけ、行政書士の仕事の一部を教えて悲しい記憶から遠ざけ、夏には多摩川の花火を見に行き、秋には秩父の山まで紅葉狩りに連れて行った。


 有紀に笑顔が戻ったのは、街にクリスマスソングが聞こえ始めた11月の半ば。職場への復帰を少し考え始めた頃だ。


 三人はその間にも時折有紀の様子を見守り、何もできない事に絶望し、そして戦った。

 

 慎一はロクから闘柛を二つ譲り受け、技を磨き、妖を次々と破っていった。

 

 そして鼻が伸びきっていた。


 ある日、会社に復帰しようと中央快速に乗った有紀は、列車が新宿に差し掛かる頃、中空に開いた漆黒の闇を見た。

 

 周りの乗客も、気がつき、大騒動となった。

 

 すると闇は巨大化し、新宿の街を呑み込んだ。

 

 有紀の乗る列車もろとも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ