第35話 サキのチカラ
九尾の狐は容赦なく慎一への攻撃を続けている。
容れ物である元紀の身体も既にズタボロである。
サキは念を送ってきたロクに近づいた。
「さあ、コレを受け取るんじゃ!」
ロクはそう言うと、結界の中から腕を伸ばし、サキの口の中に一つ、赤く光る一寸ほどの玉を押し込んだ。
刹那、ロクの腕は結界によって弾き飛ばされた。
「うぐぅ!」
呻きながらロクは。
「闘神じゃ。あやつを助けてやってくれ。」
とサキに伝え、この場に倒れこんだ。
「ネコちゃん!」
サキは九尾の狐の方に振り向くと、
「もう許さない。絶対にあんたなんかに負けないんだから!」
というと、サキの指先から、眩い光が発せられ、慎一の入った元紀の身体に当てられた。
「馬鹿め! 同士討ちか? 未熟者めがっ! ァハハハハハ!」
九尾の狐は小馬鹿にして笑った。
「馬鹿はどちらかしら?」
サキは不敵な笑みを浮かべて言い返した。
「馬鹿はお前だ!」
慎一は途中で止まった軍荼利明王への変化を終えていたのだ。
「そんな! 何故そんな!」
九尾の狐は狼狽し、逃げようとした。
「甘いわよ、こんなもので済むと思って?」
サキは追撃の手を緩めない。
今度はロクを閉じ込めた結界に向かって光を当てた。
すると結界は、いとも簡単に破れた。
ロクは忽ち化け猫に変化した。
そして九尾の狐の尻尾から発せられる光の玉を素早くかわして、鋭い、四寸程ある爪を九尾の狐の腹に突き立てた。
「ブギャァァア!」
腹から大量のどす黒い体液を撒き散らす九尾の狐の断末魔が聞こえる。勝負は決したようだった。
「サキ、なんだ、そのワザは?」
「分かんないけど、ネコちゃんになんか飲まされた。」
「ワシが闘神を分けたんじゃよ。これでサキも、戦える」
「でも戦ってないよ、シン兄とネコちゃんを助けただけじゃない?」
「おお、そうじゃ、サキの出した光は瑠璃光に違いない。薬師瑠璃光如来様の出す治癒の光なんじゃ」
慎一は感心したように言った。
「結界まで破るとはね」
「病や怪我は負の気の流れから起こるんじゃ。瑠璃光はその負の流れを正に変える。結界も、張った者の気の流れが負であれば同様。瑠璃光によって破れる、そんなところじゃろうて」
慎一が
「なるほど、」
と言いかけると、
「馬鹿はお前たちよ!」
と言って、断末魔を上げていた九尾の狐が尻尾をサキに一つ投げつけた。
「これで瑠璃光はでない!アハハハハハ!」