第30話 慎一と元紀
「なるほど、似ているわい。」
元紀をまじまじと見ながらロクは感心したように呟いた。
「俺もビックリしてるさ。他人の空似っていうのは本当にあるんだな。」
慎一も、他人事のように感心している。
「シン兄、この人本当にシン兄の弟とかじゃないの?」
やはり目を丸くして驚きを禁じ得ないサキが慎一に聞く。
「俺、兄弟いない。」
「へー。そうなんだ。」
ようやく元紀を探し当てた慎一だが、何をしたいのか自分でも分からなくなっていた。
ロクが見透かしたように、
「お前さん、勢いでこやつを見つけ出したのはいいが、何をしたら良いか見当がついておらんようじゃな。」
「ああ、なんだかどうでもよくなってきた。」
投げやりに慎一が答える。
「何て言うか、その、この人に、有紀の面倒を見てもらいてえなってちょっと思ったんだよ。」
少し驚いて顔を見合わせるロクとサキ。
サキは少し怒って、
「シン兄、バカじゃないの?そんなこと女の人が喜ぶわけないよ? 誰でもいいわけじゃないじゃん。この人はシン兄の代わりにはならないんだよ?」
と強い口調で言う。
慎一もバツが悪そうな顔をしながら、
「うまく気持ちっていうか、考えがまとまってないんだ。今の取り消すよ。」
と絞り出すように話した。
「俺が勝手に死んじまって有紀を遺してしまったから、なんとかしてやりてえんだけど、声も伝わらない、抱きしめてもやれない。護るなんてもってのほかなんだよ? こんな無力なんてやってられねえ。」
どこまでも自己嫌悪に陥ってしまう。
ロクが助け舟を出す。
「お主、こやつに乗り移るか?」
「え?今なんて?」
「乗り移ったらどうじゃ?」
「そんな事が出来るのか?」
「できるぞよ。」
「それを早く言えよ!クソ猫!」
「随分な口の聞き方じゃな。さっきもこの話はしたじゃろうに。忘れたのか。お主。まあ、いいだろう。ワシがこの事にあまり乗り気がしなかったのはな…」