第29話 杉並消防署高円寺出張所
「モトキぃ? 飯はまだかー?」
「腹減ったまま出動とかゴメンだからな? 早くしてくれよ!」
杉並消防署高円寺出張所で、当直での出動を終えた救急隊員だけでなく火災の出動がなかった消防隊員の先輩に催促されながら朝食を作っていた。
「はい、お待たせしました。」
元紀はここに配属されてからというもの、自分が一番の年少者ということもあって当直明けのシフトの際は朝食を作る係になっていた。
米飯、味噌汁、干物。玉子焼のこれといった変哲のない朝食ではあったが、人数が週休要員を入れると11名とそれなりにいるので大わらわである。
出張所には、柏木さくらという元紀の2つ上の女性機関員がいてたまにシフトが重なると手伝ってくれるのだが、今日は一人で作らねばならなかった。
「感謝!」
消防隊の隊長である後藤田が一言唱えると、全員が「感謝」といって食事を始めた。
話は自然と慎一の話になる。
後藤田が、救急隊長の山﨑に、
「モトキに瓜二つだったんだって? 要救護者。」
「ああ、目を疑ったさ。しかもチャンピオンライダーだったんだぜ?」
山崎が応える。
「まあ色々モトキには驚かさせるよな、ヤマ。」
「まあな。」
なにが、と放水長の亀石が聞く。
「カメさんは、ここはまだ短いから知らなかったか。コイツは、オレがコイツの友達を応急処置したのを見て救急隊員になったんだってよ。コイツが配属されてきたときは顔なんて忘れてたがな。」
笑いながら山﨑が説明する。
沢田が、
「いや、俺もあまりに似てるんで暫く呆けてしまって、隊長に怒鳴られて。」
と頭を掻きながらつづける。
ようやく元紀も、
「似てたっす。」とボソッと呟く。
「しかし、あの婚約者の娘、気の毒だったな。こんなことさえなければ、幸せになれていたんだろうに。」
沢田が有紀の事を慮った。
「モトキ、お前ずっとあの娘のこと見てだろ?」
と沢田が雰囲気を変えようと茶化すと、
「えっ? いや、そ、そんなんじゃないっすよ!」
しどろもどろになる元紀。
「おー、まんざらでもなさそうだが、さくらちゃんが悲しむな、おい?」
「ちょっとサワ、それオフレコだぜ?」
と後藤田。
「あ、ヤベつ。」
元紀もさくらの気持ちを知らないでもない。誤魔化すように、
「でも、似てたな。あの人。なんか他人のような気がしないっすよ。」
「俺は岡谷選手ファンだけど、風戸選手が亡くなったなんてなんか信じられないな。」
岡谷ファンでモトキを仇扱いしていた週休要員の榊原も慎一を悼んでいた。
そんな彼らのやり取りを、慎一、ロク、咲の三人が見つめていた。
元紀の居場所がわかったのは、母敬子が病院に慎一を搬送した救急隊員の事を聞いていたからだ。
「やっと見つけた。ホント、よく似てるな。笑えるぜ。」