第28話 救命士
ユウジは段上から飛び降りた勢いを生かして、先日締め上げたという男を蹴倒すと、振り向きざまに背の高い、目つきの凶悪な男に掴みかかった。
男はいとも簡単にユウジを捕まえて、投げ飛ばすと、馬乗りになって上から殴りつけた。
「うぐっ」
声にならない声を上げて、苦痛に耐えるユウジ。
元紀は助けようと階段を駆け下り、ユウジに馬乗りになっている男をユウジから剥がそうとしたが、他の二人に羽交い締めされ、ユウジに蹴倒された男に殴られた。
「コラ、立てや!」
ユウジを立たせた背の高い男は、弱ったユウジを好きなように殴り、蹴り倒した。
「ユウジーっ! 逃げろ! お前マジで死ぬぞ」
「モトキてめえ何でこっちに来た! 馬鹿野郎が!」
「お前らグチャグチャうるせえな?」
しばらく傍観していた最後の一人が致命的な一撃をユウジに見舞った。
ハイキックが、ユウジの頸部にまともに入ったのだ。
ユウジはそのまま倒れ、少し痙攣しているように見えた。
今度は自分の番か。
元紀は羽交い締めされたまま身構えた。
すると何処からか男がやってきて、
「お前ら! そこまでだ! 人殺ししたいのか!」
と走りながら怒鳴っている。
五人の男はその男の勢いと、人殺し、という言葉に怖気付いたか散り散りに逃げ出した。
男はユウジに駆け寄り、
「おい! 大丈夫か?」
と声をかけ、さらに元紀に、
「君! 歩けるか? もし歩けるなら、あそこの公衆電話で119番に通報してくれ! このままじゃマズい!」
「は、はい!」
元紀は走って公衆電話に行き、119番通報した。
男はユウジが頭に強い衝撃を受けたのを理解して適切な処置を行ったようだ。
駆けつけた救急隊員から感謝されていた。
元紀は、男に
「ユウジを、救ってくれてありがとうございました!」と涙ながらに言った。
男は「とにかく良かった」と一言言って去っていった。
ユウジに付き添い、日赤病院に救急車で同行し、集中治療室の前で待っていると、救急隊員の一人がやってきて、
「あの人も救急隊員だったみたいだ。非番だったのであまり身分を明かしたくなかったみたいだ。しっかり応急処置してくれてたから、きっと、助かるよ。君の友達。」
と告げた。
この瞬間に元紀の中で何かが芽生えた。
「人の役に立つことって、こういう事なんじゃないか」
そう思い始めたのだった。