第26話 軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)
半年以上ぶりの更新となりました。
まもなく慎一の身体は変化が始まった。
強い苦痛を伴うもので、慎一は絶望的な咆哮を上げ、それに耐えた。
まず、慎一の腕は八臂に増えた。
すると、どこからやってきたのか、首、腕、足に全部で12の蛇が巻き付いた。
身体は薄暗い緑色に徐々に変わった。
そして最後に、額の心眼がひらく。
「軍荼利明王なのか?」
ロクが唖然として姿を変えた慎一を見上げている。
宝来如来の化身として、様々な障害を取り除く五大明王の一つである軍荼利明王に慎一は変化した。
「ヴェエエえええっ!!」
生き地獄とはこのことか。
変化といえば聞こえはよいが、体そのものが異形に変化するには想像を絶する痛みを同時に体験しなければならなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
慎一は肩で息をしながら小鬼たちを睨みつける。
「不細工ども、来いよ。ぶっ飛ばしてやりゅ」
「シン兄、噛んだよね?ネコちゃん。」
と、サキがいたずらっぽい目をしながら言った。
「噛んだ?ああ、言い間違いのことか。」
とロクが応える。
慎一は二人のほうを向いて、
「う、うるせぇ!今そんなこと言ってる場合か!」
と怒鳴った刹那、小鬼三匹が同時に襲い掛かった。
「ワシらを前に余所見とはいい度胸だ!後悔するがよい!」
「オン アミリテイ ウン ハッタ」
すると、軍荼利明王となった慎一は甘露軍荼利真言~「帰命したてまつる、甘露尊よ、祓いたまえ、浄めたまえ」というマントラを唱えた。
「ぎええええええぇっ!」
小鬼達は断末魔をあげながら霧散霧消した。
すると、慎一の体は見る見るうちに元に戻った。
「有紀とお袋は?」
慎一は周りに居たはずの有紀と、母を案じたが、異空間で何が起こっても、実世界では何も起こらないようだった。
そして、慎一の変化を目の当たりにした、ロクもサキも目を丸くして固まっていた。
ロクが生唾を飲み込みながら言う。
「実世界にはお主と雑魚妖怪どもの戦いは影響を与えん。心配するな。しあし、お主、なんじゃそれは。軍荼利明王になれるのか?」
「軍荼利明王だぁ?なんだそのぐんだり妙なやつってのは」
「うつけものめ!軍荼利明王様を知らんのか!」
「知らん」
「しかし、こやつに軍荼利明王様が宿るとは。これからの戦い、捨てたものではなさそうじゃな。一発で複数の敵を霧散できるマントラは実に頼もしい。」
慎一は元の体に戻ってからも肩で息をしている。
「ただ、消耗が激しいようじゃ。この程度の雑魚にいちいち変身していては身が持たぬ・・・使いどころを考えさせねばならんようじゃ。」
そう呟くロクの目には、策士としての光が宿っていた。