第25話 覚醒
「そろそろ、オレの本体のところに戻っていいか?」
慎一は気まずそうにロクとサキに言った。
「そろそろお袋とか、有紀とか来てると思うし。」
「お前に似たやつに会わんでいいのか?その、有紀とやらは、お前の嫁か?」
「えー、シン兄結婚してたの?ざーんねん。」
「ああ、結婚するはずだったんだ。」
ロクとサキは黙った。
「婚約者を置いて逝くなんて最悪だなぁ、オレは。悲しんでるんだろうな。きっと。」
「ワシの、せいじゃ。」
「まあ今更恨んじゃいねえよ。避けれなかった俺が悪いんだ。」
「じゃがわしに出来ることはないか?」
「有紀を守ってやりたい。でも、姿も見せられない、声もかけてやらない。触れることも出来ないなんて。」
サキは少しばかり涙ぐんでいる。
「シン兄も辛い思いをしてるんだね。それなのに私のこと気遣おうなんて人が良すぎるよ…」
「誰かのために生きてみたいってこのところずっと考えていたんだ。それが叶わなくなって、それでサキが現れたんだ。」
サキは黙って聞いている。
「お前のために俺の存在を投げ捨てたって構わない、そう思ったんだ。」
「お主が有紀とやらを守るために、誰かに憑依する、という手もあるにはあるんじゃが…」
言いにくそうにロクは呟いた。
「問題はその誰かと有紀とやらが出会わねばならんし、有紀がその者を受け入れねばならん。かなり敷居が高い方法ではあるんじゃ。」
「憑依してる間、本人の意識はどうなっている?」
「憑依した者の意識に抑え込まれて表面には発現しては来ぬのじゃ」
ロクは続ける。
「見るもの聞くもの、触るもの。全て意識はあるのだが、自分の意のままに何もできぬうえ、生殺しみたいな状態じゃな」
「それは気の毒な。人格を乗っ取る、そんな感じなんだな?」
「まあそうじゃな。」
「まあ、まずは急ごうよ。シン兄の身体のところに。」
ロクは慎一の肩に乗り、サキは慎一の少し後ろを飛んで松庵労災病院に戻った。
慎一の遺体は既に霊安室にあり、有紀と慎一の母、敬子の二人が佇んでいた。
「有紀さん本当にごめんなさい。まさかこんな事になるなんて。」
「いいえ、義母さま私が悪いのです。弟を駅まで送ってもらわなければこんな事には…」
「そうじゃないわ。弟さんに何もなくて良かった。あの子の気の緩みでしょう。あなたにこんな悲しい思いをさせるなんて。」
「やり切れない気分だ。」
慎一はそのやり取りを見ながら呟いた。
その時である。
虎柄を纏った小鬼が三体躍り出た。
「クックックッ、ロクよ、ワシらが潜んでいたのに気がつかなかったとは貴様も耄碌したようだな!」
「迂闊じゃったわ。確かに慎一本体に近づけばそれだけお前らのような刺客に出会う確率が高いのにワシとしたことが。」
「覚悟しろ!」
小鬼は長く細い鉄槌を振り上げて襲ってきた。
慎一は動くことなくその場で硬直している。
躊躇することなく小鬼、天邪鬼は慎一に殴りかかり、制圧にかかった、
振りかざした鉄槌が慎一の身体にかかる掛からないのタイミングで慎一の身体は眩い光を放ち、鉄槌を曲がるまでに硬化した。
「なんだと?俺の鉄槌が!」
「よし、今度は俺に任せろ!」
もう一つの天邪鬼が薙刀で襲いかかる。
慎一は手刀で応戦する。
(何だこれ、勝手に体が動きやがる。ロクの奴、何か俺にしたのか?)
目でロクに訴えかけたが、ロクは頭を振り、
「わしは何もしておらんぞ!お主に闘神を三つやろうとしていたがまだ渡せておらん!」
「でも勝手に身体が動くんだ。」
3体目の天邪鬼は網を使って慎一を捕獲しようとした。
「これでお前もおしまいだ!ウェヘヘへぇーっ!」
君の悪い笑い声を出しながら慎一に向かって網を投げた。
慎一は捕らえられた。
「くそっ!」
そう言うと、手刀で網を裂き始めた。
「おりゃああああああっ!」
網はバラバラになった。
「どうしてくれようか?この不細工ども!」
慎一は吠えた。
天邪鬼達の表情に焦りが滲み出ていた。