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生まれ変わり --Renato リナート--  作者: Tohna
第3章 The Aliance(運命共同体)
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第24話 不退転

「やめて!」


 絶叫と共に、サキが戻ってきて、鋭く尖った爪を振りかざしているロクの前に両親を庇うように立ちはだかった。


「ネコちゃん、パパとママを殺さないで!」


「お前を売ったやつらじゃぞ?良いのか?」


「良くないけど、良いの! お願いだから、やめて!」


 ロクは爪を納めた。


「ネコちゃん、パパとママに私の言葉を伝えて。」

 ロクは、祐輔と未知留に言った。


「お前らには、見えぬかもしれぬが、わしの目の前にサキがおる。サキはお前らに殺されたようなものじゃが、サキはお前らを殺すなと言っている。」


「さ、咲がっ!? そこにいるのか?」


「サキはお前らに何か言いたいらしいが、直接は伝えられない。ワシが代わりにサキの言うことを代弁してやる。」

 サキはロクを通じて語り始めた。


「パパはいつの日からかあまり家に帰ってこなくなって、ママはいつも暗い目をしていつも楽しかった毎日が楽しくなくなった」

 ロクはこみ上げてくるものを感じたが続けた。


「たまにパパが帰ってくると、ママと喧嘩ばかりして、私は居場所がなかったよ。」

 未知留は眼を見開いてロクの語るサキの言葉を聞いていた。


「パパの会社が大変なんだな、って何となくだけどわかっていたよ。私はなにもできなくてごめんね、パパ。ママ。」

 祐輔は俯いて頭を振るばかりである。


「私はさっきの知らない男の人に首を絞められて殺されたの。パパとママとお別れするのはつらいけど、このネコちゃんに生き返らせてもらえるってさっき言われたけど」

 少し無言になるサキ。


「でも、私はこのまま死んだままでいることにするよ。」


「いやよ!咲、なんで?生き返られせてもらえるんでしょ?」

 と未知留は懇願する。


 慎一もサキに言った。

「お前のお母さんの言うとおりだ。今なら間に合うんだぞ?」

 サキは目を瞑って言った。


「いや、私はもうパパとママに殺されたの。また生き返ってまた殺されるのは嫌よ。」


 ロクは、


「お前ら、サキはお前らにまた殺される心配をしているぞ。サキが生き返ったとしたらどうするんだ?」


「もちろん、しっかりとやり直します!この命に懸けて!」

 祐輔は絞り出すような声で言った。

 未知留も、


「もうこんな思いはさせないわ!咲、戻ってきて!」

 と言った。


「どうしようかな。でも毎日私はいつ殺されるかびくびくしながら過ごさないといけないかもしれないのよね。」


「お父さん、約束するよ!もう、こんなことはしないから!」


「そうよ、咲、お母さんが今度は守るわ!」


「よく考えてみるわ。」

 サキはまた消えていった。


 慎一がサキを追った。


「お前、よく考えるって言ったって時間がないんだぞ。早く戻らないと、戻る身体がなくなっちまう。」

 サキは慎一の方に振り返って、


「わたし、決めたの。もう、戻らないって。」


「なんだって?どういう・・」


「もう、パパが借金のために苦しまないだろうし、そもそも私を殺してもらうことにした時点でパパの中で私の存在は邪魔で仕方なかったのよ」

 サキの目には涙が溢れていた。


「戻ってももう、元通りの親子には戻れないでしょ?」

 慎一はサキの言葉に返答ができずにいた。


「でも、学校とか友達とか、なにか未練はないのかよ?」


「うん、私、学校でもあまり居場所がなかった。いじめられてもいたの。」


「お前、それじゃああまりにも可哀そうな一生じゃねえか。」


「そうかもね。でも、パパとママが仲が良かったころは本当に幸せだったよ。」


「サキ・・」


「でも、これからは、シン兄とネコちゃんと一緒だから大丈夫よ」

 ロクはまだサキの両親の前にいた。


「サキは、お主らのもとには戻らないと決めたらしい。お主らがこの後どうするかは勝手じゃが、死ねば地獄に落ちることは間違いない」

祐輔の顔は地獄、と聞いて引きつっている。どこまでも自分本位な男だ。


「その日まで、一生償うんじゃ。そうでなければ、ワシは、いつでもお前らをこの爪で殺してやる」


「何を間違ったんだろうか」

 祐輔が遠くを見ながら未知留に聞いた。


「幸せがなんなのか、見誤ったのかもしれないね、私たち。」

 未知留が答える。


 祐輔は自分が数年間の間に起こしたことを思い返していた。

「あの時、取引先の不動産会社の芹沢って男が投資を持ち掛けてきたんだ。北海道のリゾート地にまだ売りに出ていないいい土地があるって。」

 慎一は、そんなのに引っかかるなよ、という顔をひている。


「そこを手に入れれば、外国人相手に色々といい商売ができるだろうって、それで無借金経営だった親父から継いだの会社の土地を担保に銀行から金を借りたんだ」

祐輔はなおも続けた。


「そのころ会社は順調だったが、少し伸び悩んでいたのも事実だ。うまく行けば咲に何でも好きなものを買ってやれるし、好きなことを習わせてやることもできる」

サキは首を横に振っている。


「そんな風に俺は思っていたんだ。でも、その土地は森林地目ですぐに開発できなかった。簡単にできるって話だったんだが、地目変更がそもそも無理だったんだ。」

 ロクは何だかよくわからない顔をしている。


「時間だけが過ぎ、資金は底をついた。返済がせまり、損切ができなかった俺は銀行に再度借り入れに行ったんだが、逆に返済を迫られた」

 慎一は黙って聞いている。


「ある程度資金を使ったから、もう後には引けなかった。仕方なく、芹沢が紹介した、吉祥会から闇金を借りることになった。」

 

「他に手はなかったのか?」

 ロクが口を挟む。


「実は芹沢の会社の裏の顔は、吉祥会だったってことを知ったのはついこの間のことだ」


「愚かという言葉を人で表すとお主のような者じや。」

 いささか厳しいロクの言葉に反論すらできない祐輔。


「資金繰りで苦しくなり、未知留と口論ばかりしていた俺はいつのまにか未知留や咲のことを思いやることなどできない同省もない父親になってしまった」

 その通りだ。慎一は思った。


「悔やんでも悔やみきれない。今頃遅いが俺が間違っていた」


「これからはお前さん次第だ。客が来たぞ」

 刑事が2人、待合室に入ってきた。


 事情聴取をするつもりだったのだろう。娘を亡くした両親に同情をした様子で近寄り、


「この度はご愁傷様でした。さぞ、お力をお落としのことと思いますが、すこし経緯を教えていただけませんか。もし、今が無理なのであれば場所を変えて・・」

 と一人が言うと、祐輔は、


「私が殺させたのです」


「なにっ、どういう事だ?」


「借金の方に、娘を吉祥会の雄島という男に殺させたんです。保険金目的で」


 刑事の一人、沢渡は、


「なんと惨いことを・・」

と言いながら、祐輔の手に手錠をかけた。


「奥さんにも同行願いますよ。」

 サキはロクと慎一とその様子を眺めていた。


「私は、今日から二人の仲間よ。よろしくね。」

サキは寂しそうな顔をして、無理に明るく言ったのだった。

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