第22話 戦慄
サキは集中治療室で、自分の亡骸と対峙した。
頸部には首を絞められた痕が残っていた。
まだ、両親は到着していない。
登校時に衣服に着けていた名札はそのままだったので、連絡はついているはずだ。
「パパとママ、大丈夫かな。私が死んじゃってショックで自殺したりしないかな。」
慎一とロクが遅れて現れた。
「なんと惨たらしいことを。」
「ロク、なんとかしてやってくれ!」
「簡単な話ではないんじゃ。サキの霊魂がサキの身体に戻っても、身体がその後生きるに堪える必要がある。残念ながらお前さんの場合は、お前が戻っても無理じゃ。」
「分かってはいたけど、改めて戻らないと聞くと厳しい現実なんだな。」
「サキの身体は半々じゃな。なんとかなるかもしれぬ。」
「それだったら、早くやってやってくれ。」
「もう一つ条件がある。言いづらいんじゃが。」
「勿体つけるな!なんなんだ?」
「誰かの命を犠牲にせねばならぬ。入れ替わりじゃ。」
「誰かを殺すって事か?」
「そうじゃ。誰かを殺めねばならない。または、」
「または、なんだ?」
「霊魂の地獄送り。」
「何だ…と?」
つまり、死者を生き返らせるには、生きている者の命または死者の魂との交換が必要だという事だ。
「くそぉ!誰かを犠牲にしなきゃいけねえって、そんな!そんな!」
慎一は壁を殴って悔しがった。
「ワシが…サキの命と引き換えに地獄に落ちよう。」
ロクが覚悟を決めて言った。
「ワシはもう300年は生きた。もう十分じゃ。」
「だけどよ、オレ一人だけ取り残されたら、オレも結局使者に狩られて地獄に行っちまう。オレにしてくれ。」
「おお、そうしてくれるか♪」
慎一はロクの頭を殴った。
「いたたた、じ、冗談じゃよ」
涙目で慎一を見るロク。
「オレの一大決心を茶化すな。まあいい。しかしとんだ条件だな、そりゃ。」
ロクも慎一も妙案が浮かばぬまま、刻々と時間が過ぎる。このままではもう一つの条件、戻るに値する身体も損なわれてしまう。
究極の選択を迫られた二人。
同時に、
「オレが!」
「ワシが!」
と、意を決して叫んだ刹那、男女が集中治療室に飛び込んできた。
「咲ぃー!」
女がサキの名を呼びながら泣き叫んでいる。
サキの両親のようであった。
しかし、集中治療室の外にもう一人の男が待機している。その男を見て、サキは硬直した。
「サキ、どうしたんじゃ?」
「ご両親、やっときてくれたな。」
サキの表情は硬い。
いや、無表情に近い。
身体は小刻みに震えているように見えた。
慎一はこれに気がつき、
「おい、サキ、どうした?お父さんお母さん来てくれただろ。」
サキは応えない。
「もしやあいつが?」
部屋の外にいる男・・・髪をオールバックにし、革のジャケットに身体を包んだ痩せ男・・・サキの首を締めて逃げた男だ。
サキは訳が分からなくなった。何故両親とかの男が一緒に居るのか…