第21話 チカラ
「ロク、サキをなんとか生き返らせてやってくれ!お前なら何かできるんだろ?」
慎一はサキに同情してなんとかしてやりたかった。
(オレだって有紀に会えずに逝ってしまった。しかしサキはまだ子供だ。お父さんとお母さんにもう一度合わせてやれるなら何でもしてやりたい。)
ロクはそんな慎一を見て、
(ワシにもこやつのような時があったわい。)
と、目を細めて呟いた。
「慎一よ、さあ、サキの亡骸のところに行くぞ。さっきの牛車はどこに行ったか探れるか?」
「ああ、あの先の搬送先なんて大体決まってる。
荻窪中央メディカルセンターだろう。」
三人は荻窪中央メディカルセンターへ向かった。
ロクは慎一の肩に乗り、サキは慎一に掴まって地上1mくらいの高さを進む。
なぜ慎一が宙に浮くことができるのか。
人の霊は、空気より軽い、との説がある。
その説明ではロクが地を駆けるしかないことの説明にはなっていないが。
前に進む推進力も謎だ。
「慎一よ、お前に良いものをくれてやろう。」
「何をくれるんだ?」
「闘神じゃ。ワシの持っている九つの闘神を三分の一だけお前にくれてやる。ガシャ髑髏くらいのザコとは、渡り合えるはずじゃ。」
「それはありがたいが、ロクは大丈夫なのか?」
「大丈夫なわけないじゃろ。しかし、一人が九つを持つより、二人で分け合ったほうが上手く行く、と、ワシは思っておるんじゃ。」
「つまり、オレは闘神を三つ持つって事か」
「その通りじゃ。その代わり一人でザコの追っ手は倒すんじゃぞ?いいな?」
「オレはバイク、いや鉄の馬なら上手く操れるが喧嘩はからっきしなんだよな。」
「闘神は、経験を凌駕するのじゃ。自然と体が動き、そして相手の弱点を突くことが容易にできるようになる。」
「相手の闘神が上回ったらどうなる?」
「強いほうが勝ちそうだが、話はそう簡単ではない。知神は闘神に勝る敵に活路を見出す知恵が湧いてくる。闘神を補うチカラじゃ。」
慎一は興味深く聞いている。
「そして精神じゃが、この二つの力を何倍にもする心の強を意味する。お前は見たところ精神が十九ある。闘神はワシが今くれてやるから、三つじゃ。お互いを組み合わせるのじゃ。上手く組み合わすことで、闘神は百にも二百にもなる事がある。」
「ロクは闘神を百持ってるやつを見たことがあるのか?」
「ああ、あるぞ。」
「一体どんなに強えんだろうな?」
「閻魔じゃ。奴は闘神が百、知神が百、精神も百という化け物じゃ。闘神と知神の和を精神の値で乗じてやる。その答えが全部のチカラという訳じゃ。つまり閻魔は百に百を加えて百を乗じた訳だから、奴の全能力は二万ってことだ。」
「と言うことは、オレの全能力は少なくとも3×19で57って事か。そして闘神は分け与えることができる、って事なのか。」
「まあ、感覚的なものじゃよ。きっちり数値で表されるものでもない。」
「お前にはチカラがどれだけあるのか分かるみたいだが、オレには分からねえ。どうしたら分かるようになる?」
「それはお前さんに闘神が無いからじゃ。闘神を得れば自然と分かるようになる。」
「なるほど、ところでサキはどうなんだ?」
「サキの、知神は五十六じゃ。闘神はお前と同じ零。サキが仮に闘神を一つでも得た場合、いきなり闘神は五十七。つまりお前さんと同じになる。」
ロクは注意も付け加えた。
「しかし闘神が零の時、知神も精神も役には立たない。」
「だから最初のガイコツにやられたとき、俺は何もできなかったのか。だけどオレにも知神はあるんだろう?一体いくつあるんだ?」
「あるんじゃが、どれだけのものなのか分からんのじゃ。見たところ、増えたり減ったりする。そんな奴を見たのは初めてじゃ。お前さんには得体の知れない潜在力がある。」
「へえ、オレってすごいみたいな」
「馬鹿者!ガシャ髑髏にも勝てなかった奴がわらわせるな!」
「へいへい。」
慎一は首をすくめて笑いながら答えた。
「あっちの部屋かな。」
サキは自分が搬送されたICUの前で止まっていた。
受付のナースに呼びかける。
「あのう…」
しかし答えは帰ってこない。
やはりサキの声は聴こえないようだ。
仕方なくサキは一人で中に入っていった。