第20話 那須野 咲
「お、お前、俺たちのことが見えるのか?」
「はい」
「お前は、誰じゃ?」
「わたしは、サキ。那須野 咲」
「こんな所で何をしておるんじゃ?」
まだロクは警戒を解いていない。
「あの、そっちのお兄さんがさっき私の乗ってた救急車に入ってきたでしょ?」
「なに?」
慎一は驚いた。
「あの時、私死んだみたい」
慎一もロクも、機関員と救命士の事しか眼中になかった。
あの救急車で運ばれていたのは、サキだったのだ。
「嬢ちゃんよ。お主はどうして死んだんじゃ?」
「…」
サキは黙ってしまった。
身長から大体10歳くらいだろうか、ボブヘアーの似合うタレ目の可愛らしい女の子だ。
「言いたくなければ言わなくとも良い。」
「あ、ああ、そうだ。言わなくても良いんだぜ?」
「ありがとう」
サキは少し涙ぐみ、頷いた。
「でも、言うね。私、知らない男の人にさっき登校途中に路地に連れ込まれて、抵抗したら首を絞められたの。」
慎一とロクは衝撃に息を呑んだ
「大声を出していたから、気絶した私を近くの人が見つけてくれて、救急車を呼んでくれたみたい」
「なんと…」
ロクは首を振りながら絶句した。
「お、おい、それじゃあ、お前…」
「お主と同じじゃ。成仏できない魂なんじゃな」
「サキも地獄に堕ちるのか?」
「いや、ワシの髭にはなんの反応もなかった。サキはおそらく極楽行きじゃな。お主と違って」
「ここでそれを持ち出すか?ふつう?」
「わはは、そ、それよりじゃ、お主の首を絞めたという輩は分かっているのか?」
「忘れるわけないよ。」
「どこにいるとか、わかるのか?」
「ううん、分からない。逃げたから」
「許せねえな、そいつ。オレがぶっ殺してやる」
「ありがとう、でも、無理だと思うよ。私もこんな体になって、その男をやっつけようとしたんだけど、触れもしなかったわ」
確かにそうだ。慎一も有紀の身体を抱きしめるのに失敗している。声も届かない。
ロクは、
「サキの闘神も零か。知神がずば抜けて高いのぉ。精神は普通並みじゃな」
と、サキの能力の値踏みをした。
「ワシの闘神は九つ、ガシャ髑髏が三つじゃから、慎一に三つだけ分けてやるとするか。雑魚程度でワシが手を貸すのは面倒じゃしな。」
目を瞑り思考をフル回転させるロク。
「あとは慎一の知神と精神でなんとかしてもらわねば。サキは地獄の使者に狩られる心配はないが、何かと心配じゃ。さて、どうするかのう」
「おい、ネコ。なにブツブツ言ってやがる。こいつを殺したって男を退治するぞ!」
「ネコではないっ!ちゃんと名前で呼べ!このヌケサクが!」
また喧嘩が始まった。
「お兄さん、なんて名前なの?」
「オレか?オレは風戸慎一」
「シン兄って呼んでもいいかな?」
「え、あ、いいぞ。お前のことはサキって呼んでもいいか?」
「いいよ、じゃあ宜しく。シン兄」
「ワシはロクでええぞ」
「はーい。ロクさん。いいえ、ロクちゃん」
「や、やめんか! 恥ずかしいじゃろうが!」
二人ともサキの朗らかさに心が和んだ。
しかし、サキは直ぐに遠い目をして泣いた。
「パパと、ママに会えずに私死んじゃった。パパとママが可哀想。私も可哀想」
慎一はシリアスな顔に戻って、
「なあ、ロク。なんとかサキを生き返らせることは出来ないのか?」
「できぬ。自然の摂理に背くことは、出来ないんじゃ」
「じゃあ摂理に背けば生き返らせられるって事か?」
はっ、とした顔をしている。
ロクはなかなか正直な化け猫かもしれない。