第19話 得意不得意
夜が明けた。
慎一がこの世界に召された頃、雪がチラついていた事など微塵も感じさせないような青空が拡がっていた。
慎一は宙をふわふわと浮きながら進み、ロクは地に足をつけて歩いていた。
「おい、どこに行くんだよ?」
慎一はロクに訊いた。
「お主にそっくりな若者に会いに行こうと思ってのう」
「どこにいるのか知っているのか?」
「お主も頭の悪いやつじゃなあ。鉄の馬から落ちて頭でも打ったか?」
「打ったんだけど。それで死んだんだけど。誰かさんのせいで」
慎一は渋い顔をして目一杯の皮肉を言ってやった。
「し、失言じゃ。と、取り消す。お主を運んだ奴だと言ったであろう?その牛なしの牛車を探せば…」
と言いかけた刹那、救急車が通りかかった。
「アレじゃ!!」
ロクは一目散に救急車を追いかけ始めた。
慎一は瞬間に救急車に追いついて、そのまま車内に侵入したが、機関員も救命士も、川上元紀ではなかった。
「おーい、オレっぽい奴は居ないみたいだぞ」
「お主だけ楽しやがって!年寄りを走らせてどういう了見じゃ!このクソッタレのヌケサクが!」
ロクは息も絶え絶えに慎一に文句を言った。
「お前、空飛べないの?化け猫だし飛べるんじゃないのか?」
「ワシにはそのような能力はないっ!」
「そうか、そりゃ残念だったな。」
と言って、慎一はロクをひょい、と持ち上げた。
「これからはオレがお前を運んでやるよ」
「な、なにをする!」
「この方が楽だろう?」
「お、おう」
慎一の肩にちょこんと座りながらロクもバツが悪そうに答えたが、満更でもなかった。
「さあて、近くの消防署を当たればいいってことか」
と慎一は考えたが、ここは西荻窪駅の近くだ。慎一の事故った場所から少し離れている。
「杉並区って結構たくさん消防署あるのな」
と電話ボックスのタウンページをめくりながら呟いた。どうやら現世の物体には触れられるようだ。
通勤や通学する人々が増えてきた。
慎一は試しにそばを歩いている中年サラリーマンに声をかけてみた。
「あのお、すみません」
サラリーマンは見向きもしない。
「そりゃそうじゃ。お主の声は、生きている人間には伝わらんよ」
「えー、そうなのかよ。じゃあそいつと会っても何もできないじゃんか」
「いやいや、方法はある」
「どうやって?」
「それはじゃな、」
と、ロクが言いかけると、
「あのお、もし、」
と、声が背後から聞こえてきた。
新たな追っ手か?と二人が身構えて振り返ると、そこには少女が佇んでいた。