第16話 謀反
慎一がレーサーから地獄の使者と闘うに至るまでのエピソードは前回までで完結しました。
この話からは、長い地獄の使者との闘い描いてゆきます。
この空想世界には、闘神、知神、精神という三つの能力があり、その保持している能力レベルによって闘いの行方が左右されます。
「ふう、危ういところじゃった」
髑髏を振り切り、慎一の《意識》を匿うことができたロクは、安堵の表情を浮かべた。
「おまえ、あの時のネコだよな? なんであんな所に居た? お陰で俺は!」
慎一はネコが喋る事などお構いなしに非難した。
「すまなんだ。実はあまりに寒いもんでちと持病の腰痛が出てしまっての。…動けなくなってしまったんじゃ」
慎一は呆気にとられ、笑うしかなかった。
「で、お前は何者だ?」
「ワシか? まあ世の中で言うところの化け猫じゃな」
「名前は?」
「ロク、という。お主は?」
「俺は風戸慎一だ」
「化け猫が腰抜かしたってか。笑えねえな」
「まあそう言うな。お前をこんな目に遭わせてしまった事は謝る。」
慎一は少し落ち着いた。ロクは続ける。
「しかし、お主はこのままで居ると、さっきのように地獄からの使者に狙われて連れていかれてしまうんじゃ」
「なんだって? じゃあ、どうしたらいいんだ?」
「まあ、地獄へ堕ちるような事をしたって事じゃ。 地獄に堕ちるのはしかたあるまい。お主、何をやらかした?」
「地獄に堕ちるような事…多分、」
「多分、なんじゃ?」
「お袋に嘘をついてバイクのレースやったことかな」
慎一はロクに、
「なんだ、そんな事か、それはなんかの間違いじゃないのか」
くらいの返答を期待したのだが、ロクは、
「それは致命的じゃ。嘘つきは舌を抜かれて針の山に放り投げられることに決まっておる」
「マジか…」
慎一は蒼ざめた。
「で、俺はどうすれば地獄に行かなくて済むんだ?」
「逃げるんじゃ」
「えええ? 逃げるって、さっきみたいなのがまたやってくるって事か?」
「そうじゃ。さっきのは雑魚に過ぎん。お主は幸運だったんじゃ。もし、彼奴が」
ロクはため息を一つついて、
「忽那という使者がお主を捉えに来たら、先程のようには行かぬぞ?」
「クツナだかなんだか知らないが、迷惑な話だな。 逃げられるのか?」
「今のお主一人では無理じゃろう。闘神、闘う力のことじゃがこれが足りぬ」
「どうやったら闘神が身につく?」
「戦うしかないのじゃ」
「鎖で体を縛られたとき、力が、力が全く入らなかった。 あれでは戦えない。 何かないのか。特別な力とか一撃必殺の剣とか?」
慎一は勉強の息抜きに楽しんでいたRPGの事を思い出していた。
「そんなもんはない。 戦うしかないんじゃ」
「だけどよ、闘神がないオレがあの雑魚でさえ手こずったのにどうしたら?」
「お主には闘神は宿って居らぬが、知神、考える力が宿っているようじゃ。」
「ほう、それで?」
「そして、精神、まあ、気合いとでもいうものかのう。それもズバ抜けて高い。それをうまく使いこなすことが大切じゃ」
慎一は疑問を呈した。
「しかしお前、いや、ロクは『一人では勝てない』って言ったじゃないか?」
「そうじゃ。この龍造寺又六郎、わが主又七郎の母、たつの怨み晴らすため化け猫となり、今まで生き延びてきたのよ。」
「それで?」
「あの世も世知辛く、生き延びるためには地獄の閻魔と手を組むしか無かったんじゃがそれはワシの信条にもとる。」
「だからなんだ」
「これも何かの縁じゃろう。ワシは閻魔に謀反を起こす事にした。お主を護ってやる」
慎一は少し嬉しかったが信用したわけではなかった。
「信じがたいな。それにヤケになってるんじゃないよな?」
「ああ、ワシにも良心のカケラくらい残っておるわい」
「しかし、逃げ続けるのは結局無理なんじゃないのか?」
「いいや、手はある」
「それは、それはなんだ!?」
ロクが答えようとした時、既に二人の周囲は先程の髑髏、ガシャ髑髏が取り囲んでいた。
冷えた空には、月が高く上がっていた。