第11話 義弟
光輝が日野駅を降りたときは既に午前零時を回っていた。
慎一と有紀の結婚の二次会の打ち合わせに顔を出していて遅くなり、終電が迫っていたので慎一に高円寺の駅まで送ってもらったのだった。
荻窪あたりで降り始めた雪は本降りになり、光輝の自宅へ続く坂道をうっすらと覆い隠してしまっていた。
自分のほかに二、三本坂の上に続いている足跡を辿るようにして、一歩一歩坂を登ってゆく。息が白い。
ふと振り返ると、日野の市内の灯りが滲んで見えた。
白石家は門燈は点いていたが、家の中の灯りはすべて落ちていた。父哲朗も母淑子も就寝してしまったようだ。
光輝は玄関で靴を脱ぐとすぐにリビングのシャンデリアを模した蛍光灯を点け、そこらへんに着ていたダッフルコートを無造作に脱ぎ捨てた。
脱衣所でうがいをすると、バスタオルで雪で濡れた頭を拭きながらドラマ「あすなろ白書」のビデオを巻き直した。
オープニングで筒井道隆が大映りした刹那、電話が鳴った。
「こんな時間に誰だよ」
と舌打ちしながら電話に出た。有紀だった。
「光輝なの?」
「あ、ねえちゃん?」
「慎ちゃんは?」
「何言ってるんだよ。 慎一さんとは高円寺で別れたよ?」
そう光輝が言うと、有紀は絶句したままになってしまった。
「慎一さん、まだ戻らないの?」
有紀は涙声で
「慎ちゃんまだ帰ってこないの。 何か、何かあったのかな..」
もう1時間半は経っている。
高円寺の駅から善福寺までは10分もかからないだろう。明らかに帰っていないのはおかしい。それでも姉を落ち着かせるために、
「慎一さんなら大丈夫だって。 気にしすぎだよ」
そう光輝は言った。
「そうだよね?そうだよね?」
有紀は何度も自分を納得させるように繰り返す。
電話を切った光輝は、急に不安になった。それでも
「慎一さんに限って、そんなことはないよな」
と、自分を納得させようとした。
「だって、慎一さんはチャンピオンなんだぜ?」




