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悪魔は召喚される事もある訳ですが

 こんばんは。

 僕は悪魔の弟子なんかをやっていたりする者です。頼りない悪魔の親方の下で、日々悪魔の所業を手伝っているのですが、今晩は何故だか召喚されてある母子の所に現れていたりなんかしています。

 “何故だか”、と言うか、親方から

 「お前も悪魔の仕事を手伝って長い。そろそろ召喚される仕事もやってみないとな」

 なんて言われて、親方の代わりに召喚されたのですがね。

 因みに親方はその時、炬燵でミカンを食べながらネトゲ―をやっていたので、単に面倒くさくて僕に押し付けただけだと思われます。

 

 さて。

 召喚されてみると、そこは日本の一般家庭の部屋で、僕の目の前には先にも述べた通り、母子がいました。驚愕のあまり固まった表情で二人とも僕を見ています。多分、ダメ元で試しに悪魔召喚をやってみて本当に成功してしまって驚いているのだろうと思います。普通は成功するなんて思わないでしょうから。

 ざっと見渡してみた限りでは、あまり裕福な家には思えませんでした。と言うか、けっこーな貧乏っぽく思えます。

 そして何故か机の上にはパチパチと薪が燃えていました。まさか、これで暖を取っているのでしょうか? よく分かりませんが、とにかく不自然です。

 「あなたが悪魔様ですか?」

 と、3分ほど凝固してから、まるで糸が一気にほどけるように動いて母親が言いました。多分、その間でなんとか現実を受け入れられたのでしょう。まだ30代くらいに思えますが、苦労しているだろう雰囲気がにじみ出ています。子供はまだ幼くて、小学校の低学年くらいに思えます。

 「はぁ、悪魔(仮)ってところですかね? 代理みたいなもんなので」

 僕がそう応えると子供が言いました。

 「ママ、“だいり”ってなーに?」

 その子供の言葉を無視して、母親は僕に縋りつくようにしながらこう訴えてきました。

 「(仮)でも、代理でも何でも良いんです。悪魔様はいくらお金をくれるのですか? それが無理ならば貸してください。できれば無利子で。魂を担保にすればそれくらいできますでしょう? お願いします。お願いしますー

 諸々の……、諸々の事情があるのですー!!」

 僕はその勢いに思わず気圧されてしまいました。

 「ハハハ…… お金に、困っているのですかね?」

 まぁ、なんとなく予想はつきますが。

 

 今日の日本では、労働賃金が上がらず、男親の収入だけでは暮らせない家庭が増えているのだそうです。ところが女性の労働環境は決して良いとは言えない状態なのです。しかも家事もこなさければいけなかったり、年老いた親達の介護などもしなくてはいけなかったりで、女性の労働時間の長さは、世界でもトップ級。

 はっきり言って、超過酷です。

 このままでは出産も育児も儘なりません。

 これを放置すれば、やがては社会全体が衰退していくでしょう。

 ですが、そんな状態であるにも拘わらず国のトップの方々の中には、「女性の社会進出を認めると、我慢強さがなくなる」などといった現状をさっぱり理解していない上に非常に偏っている古臭い思想に染まりまくった発言をしている人もいるのだとか。

 本人はそれで愛国心があるつもりだから、始末に負えない……

 

 あっと、話が逸れました。

 とにかく、そんな現状に日本はあるのだそうですから、きっとこの母親も苦労しているのでしょう。

 「まぁ、どれくらい集められるかは分かりませんが、やってみましょうか?」

 僕がそう言うと、母親は期待に満ちた表情を浮かべました。祈るような仕草で、「お金をくれるのでしょうかー! いくらくらいくれるのでしょうかー?」とそう訴えてきました。

 「ですから、それはやってみないと分かりません」

 そう僕は応えると「ネズミ達よ、落ちているお金を集めて来ぉい! ハーベストォ!」とそう叫びました。すると、その声に反応して、近くにいたネズミ達が騒ぎ始め、それから直ぐに拡散していきます。

 しばらくが経つと、ネズミ達がたくさんのお金を持って戻ってきました。大体は小銭ですが、中には札も混ざっています。驚いている母子に向けて僕は言いました。

 「ここから半径10キロくらいの場所から、誰かが落としたお金を集めさせたんですよ。けっこー、馬鹿にできない額になると思います。本来は違法かもしれませんが、落とし主を探すのも不可能ですし、罪になる事はないと思います」

 それを見て母親は涙を流して喜びました。

 「あ、あ、お金……、お金…。ありがとうございます。これで助かります」

 僕はそれを受けると、うんうんと頷いてからこう言います。

 「それで、お代は…… えっと、確か魂をくれるのでしたっけ?」

 それにビクンッと母親は反応しました。それから、こう言います。

 「もちろん、魂は払います。払いますが、少々お待ちください」

 「はぁ…… どれくらい待ちましょうか?」

 それを聞くと、母親は机の上に燃えている薪を指さしながらこう言いました。

 「この薪が燃え尽きるまでです!」

 僕はそれを聞くと首を傾げました。

 「えっと……、なんででしょう?」

 母親は固まります。

 その間で、子供が燃えている薪にチラシなんかをくべて遊んでいました。僕はそれを「危ないからやめなさい」と注意します。

 母親はもう一度言いました。

 「この薪が燃え尽きるまで待って欲しいのです!」

 「はぁ……、ですから、何ででしょう?」

 それから「何でも……」と言って、母親は目を伏せてしまいます。

 なんか変な空気です。そこで僕は部屋の片隅に西洋の昔話の本が置いてあるのに気が付いたのでした。

 それで思い出します。

 確か「薪(松明だったかも)が燃え尽きる間まで連れ去るのを待って欲しい」とかそんな事を悪魔に言い、悪魔がそれを了承するなり薪の火を消して永遠に燃え尽きない状態にして難から逃れるとかって、そんなような悪魔を騙す昔話があったはずです。

 この母親は、きっとそれを実践しようとしているのでしょう。

 僕は頭をかき、ため息を漏らすとこう言いました。

 「分かりました。それくらいの間なら待ちましょう」

 仕方ないと思って。

 すると母親は顔をパァッと明るくします。そして案の定、直ぐに薪の火を消しました。そしてこう言います。

 「さぁ、もうこれで薪が燃え尽きる事はありません! だから、あなたに魂を払う必要もありません」

 僕はそれに「そうですねぇ」と返しました。

 微妙な白々しい空気。

 どうも母親も僕がわざと騙された事を分かっているようで、ぎこちない表情で僕を見ていました。

 それから

 「それでは用は済んだようなので、僕はこれで……」

 と、そう言って僕は帰ろうとしました。きっと親方から馬鹿にされるだろうな、と思いつつ。まぁ、もし親方が出ていたら、きっと素で騙されているだろうと思いますが。

 ところが、そうして帰ろうとする僕を「お待ちください」と母親は引き止めるのです。

 「なんでしょう?」

 「このままでは子供の教育に悪いので、なんか人を騙すのは駄目だってな言葉を一言お願いします!」

 

 ……人の善意に(悪魔だけど)ちょっとばっかり頼り過ぎじゃないでしょうか? この母親。

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