ゴンドリエーレの唄・Ⅱ
老人のゴンドリエーレの船に、今日も一組のお客さんが乗っている。
仲睦まじい老夫婦で、なんでも今年、結婚40年目だそうだ。その記念ということで、ハネムーンの時に訪れたこの街に再び訪れたようだ。
「ほらあなた、あそこが あの橋ですよ」
「あの箸?」
「もう、お箸じゃなくて橋ですよ、あなたが私にキスしてくた」
「おおう、そうじゃったかい」
「ええ、そうですよ。あなたが私にプロポーズしてくれた橋ですよ」
「…なあ、ばあさん、わしは今でも、お前を愛しているぞ」
「フフフ、もう聞き飽きましたよ」
「そうかいのぉ、しかしわしは何度でも言うぞ」
「もう、あなたったら、ボケてもそればっかり」
「わしはお前を愛しているぞ」
おじいさんの声は町中に響き渡った。
「ちょっと、もう、やめてください。恥ずかしい」
街の人達や他のゴンドラに乗っている観光客はそんな二人を微笑ましく眺めている。
ゴンドリエーレの老人は、何処からかアコーディオンを取り出し、音楽を奏で始めた。
二人の長年の愛を象徴するような、そんな音楽だった。
「あら、船頭さん、とっても上手になったわね」
おばあさんが手を合わしながら言った。
老人のゴンドリエーレは、二人を始めて乗せた時の事を思い出す。
「あらあら、船頭さんは船の操縦は上手だけど、楽器は苦手なようね」
「こら、船頭さんをからかうんじゃないよ」
「うふふ、頑張ってね。若いゴンドリエーレさん」
「そうね、あれからもう、40年も経つのよね」
「ばあさん、わしはお前を幸せにするぞ」
「もう、あなたったら。大丈夫ですよ。私はあなたに出会えてすっかり幸せになりましたよ」
いつの間にか、二人の乗っているゴンドラの回りに、他のゴンドラ達が集まり、それぞれのゴンドリエーレ達が楽器を取りだし、歌を唄っていた。
他の観光客は、老夫婦を羨望の眼差しで眺め、その様子に将来の自分を重ねていた。
二人が積み重ねてきた永久の愛がそこにはあったのだ。
ゴンドリエーレの老人はそれを嬉しそうに称え、唄っていた。