勇者くんVSマザー
勇者くんの母でございます。
息子が大変お世話になっております。
息子はまだ幼いのに家の仕事を手伝ってくれる、大変心優しい子でごさいます。
不平や不満を口にせず、一日中草むしりをしてくれています。
うちは宿屋を営んでいるのですが、辺鄙な立地のせいか客足が遠く、経営は苦しい状態です。
栄養のある物を食べさせてあげたいのですがなかなかそうもいかず…
ですが、最近始めたアルバイトで昼食をご馳走して頂けているそうで、毎日嬉しそうに話してくれます。お母さんにも貰って来てあげるねなんて嬉しい事も言ってくれました。いいえ、良いのよ。勇くんがママの分も食べて来てくれると嬉しいななんて…うえへへへ…
そんな自慢の息子なのですが、最近ちょっと変わった格好をするようになりまして…
「あ、Mother(良い発音)!」
「ヤッホー勇くん!今日も精が出ますなぁ〜」
「うん!うちの周りには一本たりとも草は生えさせないよ!」
「奥さん、こんにちは」
「あらあらスライムさんこんにちは。今日も息子を手伝ってくれてありがとうございます。いつもすみません。」
「いえいえとんでもない。彼の才能は素晴らしい。私が勉強させて貰っているんですよ。」
「あら〜うふふ、そう言って貰えると嬉しいですわ。ところであの…」
「なんです奥さん?」
「…気になりませんか?」
「…気になりますなあ。」
やっぱりスライムさんも気になってた!
勇くんの格好マジヤバイ!
「あんなに高品質な装備をどこで手に入れたのやら?」
え、そっち?
ちょっと、男の人の感性には付いていけないんですけど!
勇くんの姿は覆面とマントが一体化した謎の頭巾と、パンツだけと、まるで山賊の様な有様。
いや、山賊だってもう少し布に包まれてるわ。激ヤバ!
「ね、ねぇ勇くん。その格好なんだけど…」
「ほほう〜さすがマザーお目が高い!この格好に目を付けるとはっ!」
この服に目を付けるとは、さすがお母さん分かっている!
この服は魔王の姉ちゃんに貰った高機能農作業服で通気性と放熱性が素晴らしい。炎天下でも作業を続けられる。しかも有難い事に虫除け機能も付いているらしく、この服にしてから虫刺されは皆無!
一緒のスライム先輩の方がいっぱい刺されてるくらいだ。
初めてこの服を着た時は、魔王の姉ちゃんは気でも狂ったか?と思ったものだがなかなかどうして、さすが魔王になるだけはある。一流のなんたるかを知っていた。
これからも一流の品に触れる機会があれば、積極的に関わっていきたい。
丁寧に仕上げられたこの服は、高級な素材で作られているらしく、なめらかな手触りがする。
サラサラとした質感をしていて、光を受けたときはキラキラと輝く。かといって眩しく光るわけでもなく、いったい何で出来ているんだろうか。
端々に見られる薔薇の刺繍は見た目がエレガントになるだけでなく、身に付ける者の心構えにまで影響がある様だ。
気がつくと背筋もシャンと伸びて優雅な佇まいになってくるから不思議だ。
この服は全編、本返し縫い…しっかりと縫える代わりに糸の消費が二倍になる禁断の技…で縫われており、一切妥協を感じさせない匠の技を感じる。仕事にはかくある姿勢で臨みたいものだ。
「…といった、素晴らしい服なんだよ!」
「へ、へ〜、そうなんだ〜…でもほら、お腹が丸見えだし…」
「!…ふっふっふ…さすがマザー、お目が高い…」
この服のチャームポイントに気が付くとは。
これが女子力というものか。
一見無防備に見えるお腹。しかし、この服は謎の力場が発生しているらしく、草が当たっても肌が切れる事はない。
しかも、その効果は全身に及んでいるらしく、転んだ時も膝を擦りむいたりしなかった。
もうぼくに、この服を手放すという選択肢は無い。
「…ありがとう、魔王の姉ちゃん…」
「え?え?勇くん、誰?魔王の姉ちゃんって…」
女狐が息子を誑かした!マジチョーあり得ない!遺憾の意を表明せざるを得ないんですけどっ!
突っ返してやろうとマントを掴むと背筋にゾクゾクとした感覚が走り、その場にへたり込んでしまった。超最悪!
「何これ…オリハルコン?」
神様の金属オリハルコン。高硬度で高い靭性も兼ね備えるこの金属は普通の人には扱えない。
三日三晩酢に漬け込む事で柔らかくなるものの、金属である訳で、これで服を作ろうとか考える感性が分からない。
オリハルコンを細〜く長〜く伸ばして織られた布は、一針縫うのに何日掛かるのか、考えただけで気が遠くなる。
なんで、そんな逸品で覆面マントとパンツを作るのよ!Tシャツでいいじゃない!
マザーの秘密
・対魔王用女神。勇者に祝福したりする