魔王ちゃんVSハンバーグタワー
「あははははははは、まおっち!お昼ご飯だぜ!」
手際良くちゃぶ台を設置し、今日のランチメニュー『ハンバーグタワー』を配膳する女給さん。輝く笑顔が眩しい魔王ちゃんのお友達、米斗王里さんであった。
魔王ちゃんは流れるように着席し、いただきますを宣言すると同時に一段、また一段と消えていくハンバーグ。魔王ちゃんの頬袋はパンパンだ。
「ヒュー♪相変わらず惚れ惚れする食べっぷりだねぇ」
「あああああ…夢にまで見たハンバーグが…」
沈痛な面持ちでフラフラとちゃぶ台に近づいていく勇者くんを片手で制する米斗さん。
「待ちな坊主!不用意に近づくんじゃあない!」
そう言って冷奴をちゃぶ台から少し離れた場所に置く。
「一体何を…?」
「よーく見てみな」
勇者くんが目を離した一瞬の隙に、冷奴は魔王ちゃんの食卓に加わっていた。
「魔王の結界…テリトリーに近づいたものは容赦なく食卓に並べられちまうのさ」
「なっなんてことだ…我々にはただ蹂躙されゆくエルドラドを見守る事しか出来ないのか…!」
力なくその場に崩れ落ちる勇者くん。
「…いや、そうとも限らないぜ?」
ふと魔王ちゃんを見ると明らかにペースが落ちていた。
「はっ…そうか!お腹いっぱいだ!」
「ふっ…冷奴を食べたからな」
ニヤリと微笑む米斗さん。なんという恐ろしい戦略であろうか。
困惑する魔王ちゃん。このままでは最後のハンバーグを美味しくいただく事が出来ない!
しかし、魔王ちゃんに残すという選択肢はなかった。残してしまっては料理を作ってくれた米斗さんに、お百姓さんに、そして何より散っていった牛さんに対して顔向け出来ない!
…このままでは恐らく無事に帰っては来れないだろう。口から何かが漏れ出ずるかもしてない。それでも成し遂げなければならないのだ!
繰り出されるチョップスティック!これが夢ならもう食べられないと言っているところだ!
「待ちな!」
決死の覚悟を決めた魔王ちゃんを制止する米斗さん。
「ご飯は美味しく食べるもんだろう?それにまおっちは独りじゃない」
勇者くんがキメ顔でしゃしゃりでてきた。
「一人一人の力は小さくとも、みんなの力を合わせれば強大な敵にだって立ち向えるんだ!」
頷きあう三人。
「一人は皆の為に!」
米斗さんが手早くハンバーグを半分に切って食べた。
「皆は一人の為に!」
魔王ちゃんが頑張って止めを刺した。
勇者くんはそれはそれは見事なorzになったとさ。めでたしめでたし。
勇者くんの秘密
・ハンバーグ(牛肉)を食べた事がない