目は口ほどにものを言う的な話(2)
「実験?」
「そ、実験」
シャープペンを走らせながら、麻衣。
ただ今コピー中、30/100%てやつね。
先ほどとは場所を変えて、私と早苗が麻衣の机を取り囲んでいる。
「実験かぁ~」
実験……ねぇ。
「ちゃんと説明してよ。さっきので判ったでしょ? 麻衣以外誰も解らないって。どんな実験なの?」
麻衣は手を止めると、シャープペンの頭を私の方に向けた。
「だからぁ~、ホントに『目は口ほどにものを言う』のかどうかの実験」
あ~、なるほど~。
早苗も判ったようだ。
「ああ、だから麻衣ちゃん何も言わずに、じっと愛理ちゃんのこと見てたんだね~」
「正解者に拍手っ!」
するかっ!
そのネタも古すぎるよっ!
「……っで、当ててみろって訳ね」
「……」
返事の代わりに、麻衣は私をじっと見た。
「ちょっ。きょ、今日中に考えておくわよ」
急に気恥ずかしさを感じて、私は麻衣から目を反らした。
何か、今日は朝から嫌な汗をかく日だよ。
「でもでも~、愛理ちゃんと麻衣ちゃんは幼なじみだから、本当に通じるかもね~」
麻衣の机にあごを乗せて、私と麻衣を交互に見ながら、早苗。
「……」
ここで麻衣は、早苗をじっと見る。
早苗と麻衣の目が合った。
「あ~、わかった~。はいっ」
早苗はスカートのポケットから消しゴムを取り出すと、麻衣に渡した。
「正解者に拍手っ!」
それは、もう良いからっ。
でも、すごいよ早苗。
「今ね~、何となくわかったんだぁ~」
「早苗は『目は口ほどにものを言う』研究会副会長ね」
ウサギ型の消しゴムで消しながら、麻衣。
ちょっと、も~、そんな簡単な文字間違えないでよ。
「えっ、本当~?」
嬉しそうに笑う早苗。
いや、早苗。それ、全然うれしがる事じゃないから。
「愛も早くしないと、締め切っちゃうわよ」
「いえいえ、お構いなく。別に研究会とか入りたくないし」
「もー、友達甲斐がないなぁ」
「愛理ちゃんも入ろうよ~。楽しいよ~」
残念ながら、早苗は、すぐに世の中の厳しさってやつを思い知ることになるね。
「ん? どうしたの? 早苗」
急に早苗が顔を上げ、私をじっと見る。
「……」
ちょっ! まさか!
「えっと、もしかして、『目は口ほどにものを言う』通信中?」
「……」
返事の代わりに、早苗はにっこりと微笑む。
私は小さくため息をついた。
「ねぇねぇ、愛ってば~」
「今度は何よ、麻衣」
私は、ぞんざいな視線を麻衣に向ける。
「……」
「ちょっ!」
麻衣は口元に笑みを浮かべたまま、私をじっと見ている。
救いを求めて、早苗を……
「!」
ああ、早苗も通信中だったっけ。
最悪!
「ちょっとっ! 2人ともやめてよねっ」
「……」
「……」
なんなのよ、一体!
「いいからっ! は、早く宿題写しなさいよっ。もう先生来ちゃうわよ」
「……」
「……」
微笑みを浮かべながら私を見つめる麻衣と早苗から逃げるように、私は慌てて立ち上がった。




