カッターナイフ的な話(2)
「それで~、麻衣ちゃん。何の話?」
早苗が小首を傾げながら、麻衣に聞く。
そうそう、本題に移らないと。
麻衣は、私と早苗を交互に見たあと、軽く深呼吸をすると、
「これ見てよっ! この一大事をどうするかって話!」
脇から青色のカッターナイフを取り出した。
「え?」
「え~と……」
何が一大事って?
私は困ったような視線を送る早苗に微笑みかけた。
「なんだよっ!
その『だから?』みたいな醒めた反応はっ!
それでも友達かっっ!」
ばんっと机を叩き、大声を上げる麻衣。
教室の男子が2、3人こちらを振り返る。
「いや、カッターナイフ出されて『一大事』とか訳解らないし
……って、危ないからっ!」
チキチキチキと勢いよくカッターナイフの刃を出す麻衣。
私は、慌てて早苗を引き寄せて避難させた。
こういう予測不可能な行動は、結構困る。
「ほら、ここ見てみて」
対してお構いなしの麻衣は、刃の先を指さした。
「あ~」
「へ~」
麻衣の指さす先を見ると、カッターナイフの刃が欠けている。
なるほど。
「はぁ? そんなこと? 別に、新しいのを買ったらいいじゃん」
「え……」
私の答えに顔面蒼白になる麻衣。
よろよろとカッターナイフが宙をさまよって……って!
「危ないって! だから、カッター振り回さないでっ!」
私の頬をカッターナイフの刃がかすめる。
「ひどい、ひどいよ、愛……」
カッターナイフを私に向けながら、麻衣。
さながら、『おとっつぁんの敵!』って、
悪人を殺そうとする村娘ってところ。
「えーと、うん、多分私の言い方も冷たかったかな。
あと、悪かったから、出来れば刃を引っ込めてよ」
「新しいのを買えって!
そうやって、要らなくなったら捨てればいいって考えが、
地球温暖化を招くのよっ!」
何故か涙目の麻衣。
そっちか。
てか、さっき、温暖化なんてどうでも良いって言ってなかったっけ?
「ま~ま~、麻衣ちゃん。先が欠けたなら、
先だけ変えれば良いんじゃない?」
「おお、早苗ってば賢いし。
どこかの、社員使い捨てブラック企業の社長みたいな
思考の愛とは大違いだよ。うん。
……実は、私も前から思ってたんだけどさ~」
途端に機嫌を直した麻衣は、カッターナイフの刃を指差して見せた。
あれ? 今、ものすごくひどいこと言われなかった? 私。
「……ここにさ、線がついてるじゃん。
ここで切り取れると思うんだよね~」
確かに、カッターナイフの刃に線がついていて、
まるでここで切ってくださいって感じだ。
「ホントだ。じゃあ、先だけ取れればいいって事だね」
私を見て麻衣は頷くと、いきなり真顔になる。
「っで、これ、どうやって切り取るの?」
いや、知らないし。
「歯でかみ切るんじゃないかな~。刃だけに~」
クスクス笑いながら、早苗。
自分で言ってツボにはまってる。
「じゃあ、やってもらおうかっ。早苗っ!」
「悪かったよ~。やめてよ~。愛理ちゃん、助けて~」
「麻衣っ! 危ないから、刺さると痛いからっ。
ほら、早苗は早く逃げる!」
私は、カッターナイフを早苗の口に入れようとする麻衣を
羽交い締めにすると、あごを廊下の方に向けた。
「はなせっ! 言葉で言って判らない奴には、身体で解らせるんだっ!」
……いや、全く意味不明だし。




