ハンバーガー的な話(3)
「まあ、前置きはこのぐらいにして」
「え、前置き……?」
信じられないような物を見るような顔で、早苗は麻衣を見つめている。
前置きって……、リアルに長すぎ!
もう、お話も後半だっちゆーの!
いや、もう、突っ込む気力も残ってないけどね。
「不幸自慢、ってあるじゃん」
「は? 何それ」
金持ちとかなら自慢するかもしれないけど、不幸な人が自慢したって、痛いだけじゃん。
「早苗は解ってそうだね~」
「えっ? ……あ、でも、私は言葉を聞いたことがあるだけで、説明出来るほど意味はよく知らないよ~。うん、だから、知らないって方かな」
ビクッとして表情を改める早苗。
早苗ってば、この間の知ったかぶり批判がトラウマっぽい。
麻衣に振り回されっぱなしで、可哀想な子。
「何だよー、全滅かよー。早苗も聞いたことあるんなら、知ってる、って言えばいいんだよー。少しは話盛り上げようよ」
「えー、だってぇ……」
早苗は、この世の終わり見たいな顔をして、最後の方はブツブツ言いながら、下を向いてしまった。
ああ、こういうやつが、夜道で刺されるんだな。
私は、麻衣の行く末を少しだけ心配した。
「あのさ、テスト前に、男子とかが『やっべー、俺全然勉強してねぇ』とか言ってんじゃん。あと、なんの修行か知らないけど、『土曜日から何も食べてない』とか。だから? みたいな」
「ああ、あるねー」
確かに。
何のメリットがあるか知らないけど、自分の失敗談とかを話したがる人がいるのも事実。
成功自慢も面倒くさいけど、失敗自慢も同じかな。
まあ、限度問題?
「ま、そういうことだよ」
「なるほどー……、って、全く意味不明だけど」
まさか、不幸自慢の説明だけで終わりじゃないよね?
「だーかーらー、不幸自慢ってのをやってみようって話」
私の不満げな表情に気づいたのか、麻衣は手をぱたぱたさせて補足する。
はあ、それで……。
「っで、何するの?」
「おっ、やっと話が噛み合ってきた」
いや、麻衣と出会ってから、一度たりとも話が噛み合ったことなんかないから。
「ハンバーガーばっかり食べるとお腹壊すって、ママとか言うじゃん」
おお、話も終わりがけで、やっとハンバーガー来たよ。
「あー、言うねー。美味しいのに」
「あっ、うちでも言われる~」
どうやら早苗が復活した模様。
「3人でさ、これから毎日ハンバーガーを食べ続けたらどうなるか研究会、どう?」
「いやいや、嫌な予感しかしないし、第一、お小遣いそんなに無いし」
しかも、これも何処かで見たような……。
「ふっふっふ。お金の件なら心配無用。……じゃ~ん」
引き気味の私達に構わず、麻衣はポケットから紙の束を取り出して、机の上に置く。
もはや、私達は、麻衣の流れから逃れられない罠。
全く、この強靭な精神力、あやかりたい。
「えっと……、ハンバーガーSセット……引き換え券?」
首を傾げながら、早苗。
確かにハンバーガー引き換え券だ。
20枚以上あるんだけど。
「どうしたの? これ」
「うちの兄ちゃんにもらった。何か、カブヌシユウタイ? てのでもらえるらしいよ」
「へー、お兄ちゃんそんなのやってるんだー」
そんなの、が、どんなのか知らないけど。
あっ、麻衣のお兄ちゃんはだいぶ歳が離れていて、確かもう23歳? 働いてる。
「うん、兄ちゃんが『これからはフロウショトクの時代だよ』って言ってた」
「ふーん」
よくわからないけど、麻衣家のことだし、ろくな事じゃないに違いない。
「まっ、これで準備はできたし、今日から研究開始ね」
『えー』
やること確定の話かよっ!




