ハンバーガー的な話(2)
「ママとパパが喧嘩中でね。もうヤバイかも。離婚するかもしれない」
厳かな声で、って言うのが似合う感じで、麻衣。
『えー!』
あ、ハモったし。
てか、麻衣史上初の、超シリアスな話じゃん!
パクった挨拶披露してる場合じゃないじゃん!
「で、今悩んでてさー」
ああ、それで……。
「どうしたの? 原因は何なの?」
「麻衣ちゃんは、お父さんとお母さんのどっちについて行くの?」
……いや、早苗ってば、気が早いし。
「んー、原因はわかってるんだ。多分、犯人は私。あと、ついていくならパパの方かな」
『えー?』
今日はよくハモるなぁ。
早苗の「えー」が、どっちの方にかは知らないけど。
「で、麻衣は一体何したのよ」
気を取り直して、私。
「んー、何したって言うか、まあ、パパに……援交? みたいな――」
『えーーー!!』
え? うそ!
えっと、……麻衣が、え、援交で、麻衣のお父さんが離婚?
もう小6だもん。
エンコウの意味ぐらいわかるよ。
警察24時でも毎回やってるし。
でも、小学生にはまだ早いって言うか、そういうのって、もう少し大きくなってからするものじゃないのかな。
……いやいや、大きくなってからでも駄目だと思うけど。
っで、麻衣が援交?
麻衣のお父さんと?
つまり……
え?
まさか?
ちょっ! それって!
きっ、禁だ……
えええええええええええーーー!?
「あのー、2人とも、妄想してるとこ申し訳ないんだけど……。ごめん、ちょっと省略しすぎたわ。てか、最後まで人の話聞こうよ」
麻衣の声に顔を上げると、早苗も顔を真っ赤にしながら「麻衣ちゃん、そんな……、麻衣ちゃん」とかつぶやきながら、麻衣を見つめていた。
「んー、話すと長いんだけど……」
「いいよっ! 麻衣ちゃん。んっ、……長くっても!」
まだ妄想中なのか、やや興奮気味な早苗。
「ラインでさ、このみちゃんのアカ使って、パパに『この間の夜は楽しかったよ。また支援よろしくね』って感じで、援交みたいないたずらメッセ送っただけ。そしたら、先にママに見られちゃったとゆー」
意外に短く説明出来たじゃん。
ああ、いつもの悪ふざけね。
ちなみに、このみちゃんって言うのは、私のお姉ちゃんの事ね。
言わなくても判るか。
後でお父さんに種明かしして終わらせるつもりが、先にお母さんに見られたという計算ミス。
算数が苦手な麻衣らしいわ。
計算ミスだけにね。
……って!
「ちょっとっ!」
私は、悲鳴に近い声を上げ、ガタガタと音を立てて立ち上がる。
クラス中の注目を浴びるが、そんな事気にしてる余裕なし。
「私のお姉ちゃん巻き込まないでよっっ!」
「いやー、その件は大変遺憾に思ってます」
「なに政治家みたいな事言ってるのよっ!」
「でも、このみちゃん結構ノリノリだったけどなー」
「嘘つくなーーーっ!」
「愛理ちゃん落ち着いて~」
麻衣に掴みかかろうとする私を、必死に止める早苗。
これが落ち着いていられるかっ!
「だ~か~ら~、悩んでんじゃん。てか、こんな大事になるとはなー」
「全くー、いつかこういうことやらかすと思っていたわ」
いつになく、テンション低めで、申し訳なさそうな麻衣に、私の怒りメーターも、安全ゾーンまで下がったわけで……。
「それでー、麻衣ちゃんは何を悩んでるの~?」
あれ、早苗ってば、何故かガッカリな感じに見えるけど?
まあ、いっか。
「パパとママにほんとの事言って、種明かしすべきかどう――」
「言うに決まってるでしょっ!! てか、今言え! すぐ言え! さあ言え!」
私の声に驚いたのか、ベランダから鳩が3羽バサバサと飛び立って行った。
……って、ハンバーガーどこいったのよっ!




