裏金問題的な話(2)
「でさー、パパがニュース見ながら言ってたんだけどさ、クリーンな政治なんかあり得ないんだよ。だってさー」
あれ?
何か政治とかシビアな話出てるけど、書いてる人大丈夫? 炎上とかコッカケンリョクとか、シャカイテキチイとか、色々。
「へー」
よくわからないので、適当な相づち。
いいね! ボタンも、そうだね! ボタンも押さない。
後で、肯定したでしょって言われても困るし。
「何か、日本人は、その人の実績や将来性よりも、人どなりとか、過去にやったスキャンダルを重視する揚げ足取りが多い。だからこの国はあかん、とか言ってた」
「ふーん」
あ、それは少しわかるかも。
クラスでもそんな感じで、帰りの会で、学級委員が皆に責められて泣いちゃうって事があった。
普段、クラスのために一生懸命に頑張ってて、朝も早いし帰りも遅いのに、「学級委員なのに、この間コンビニに寄り道してました。いけないと思います」みたいな。
で、怖いのが、セイギって名の下に、皆で悪い悪いって責め立てるのね。
どうでもいいじゃんって思ってる子は多かったと思う。
確かに校則違反かもだけど、それで学級委員辞めろとか、少しおかしいと思う。
ぶっちゃけ、正義の名を借りたいじめだよ。
てか、皆やってるでしょ、それぐらい。
「やり手の人も、そうやって辞めさせられる事があるんだって。キトクケンエキがどうのとか言ってたけど、その後の話はよくわからなかったわ」
「そうなんだー」
ああ、まさにこの間の学級委員事件だ。
キトクケンエキとかは関係あるか知らないけど。
「でさ、考えたんだけど」
「うん」
「選挙で、公約とかやるじゃん」
ああ、社会の時、先生が言ってたね。
「そこで、『私は裏金も受け取ります、賄賂ももらいます。お金くれたらベンギだって図っちゃいます』って言っちゃうの」
「いや、流石にそれはまずいんじゃ……」
突っ込む私に、麻衣はチッチッと指を振る。
そんな仕草久々に見たよ。
「だーかーらー、『そういうこともやるけど、私はトータルで国のためになるように、具体的にこう言う事を実行します。その実績で判断してください』って宣言するのよ」
「なるほどー」
一理あるかも。
大人が納得するかは知らないけど……。
「『たった5億円ぐらいのつまみ食いで怒らないでください。あなた達の給料は倍々ゲームで増えたし、この国は豊かになったでしょ』みたいな」
あー、そんな政治家いたね、昔。
「でもさー、裏金受け取って国のためとかいうけど、それで本当に国が得したかわからないじゃん」
「いい質問ですねぇ~」
再び突っ込む私に、待ってましたとばかりに、麻衣。
って、それも怒られるってば。
「裏金収支報告書とか作ればいいのよ」
「何それ、意味不明だし」
わかってないなぁ、という感じで、ため息をつく麻衣。
あれ?
私がおかしいのかな?
裏金って、報告しないから裏金なんじゃ……。
「だから、賄賂とか受けとったとするじゃん。それを収入として、それでやった活動を書いて、それでどれだけ国が得したかってのを書くの」
「うん……」
「っで、トータルで国の得した方が多かったらセーフで、少なかったら死刑」
「えー」
死刑はやりすぎじゃ……。
「……は冗談だけど、まあ、その時に初めて逮捕とか、そうすればいいんじゃないかなー」
「あー」
やばい、要所要所は理にかなってるけど、トータルで破綻してる。
麻衣っぽいわ。
「でさ、今、一つの疑問が湧いたわけだけど」
「うん」
ほら、自己突っ込み来た!
「あと1分でチャイム鳴るのに、何で皆帰ってこないかな」
そっちか!
裏金問題終了かよ!
「そう言えば……」
でも、確かに言われてみれば、今は10時29分。
なのに、教室には私たち以外誰もいない。
「あの、愛理ちゃん、……ま、麻衣ちゃん」
あ、早苗復活。
さっきのが応えたのか、麻衣を呼ぶ声が震えている。
「おっ、どうしたの? 早苗。てか、今日全く喋ってないじゃん」
麻衣は早苗に微笑みかける。
さっきのことなんか、完全に忘れてるってか、元々気にもしてないんだろうね。
対して、トラウマなのか、何故か涙を浮かべて、今にも泣きそうな顔の早苗。
「あの、……先生が言ってたんだけど、……さ、3時間目は視聴覚室だって」
『えーーーー!』
私と麻衣は慌てて立ち上がる。
「ちょっとっ! そう言う重要な話は早く言おうよ! 私たちの下らない話なんか遮っても良いんだよっ! 速攻中断させろよっ!」
「だってぇ……」
「お前が言うなあっ! 早苗も後で慰めてあげるからっ、へこむのは後っ!」
私は、持っていたノートで麻衣をはたくと、早苗を引っ張り、ダッシュで教室を後にした。
おしまい




