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目は口ほどにものを言う的な話(4)

「ちょっと」

「……」

「麻衣ってば」

「……」


 にっこりと微笑みながら私を見る麻衣。

 私はため息をつく。

 もう、果てしなく多いよ、今日のため息の数。


「てか、私まで巻き添えくっちゃったじゃないのよ」

「……」

 麻衣は、眉根を寄せて私を見つめた。

 ……あ、今は何となく判った。

 ごめんねって言いたいんだろうな。

 はぁぁ……。

 私達をにこやかにチラ見していく用務員の人に曖昧な会釈をしながら、私はまたため息をついた。


 そう、今の状況を一言で言うなれば、「廊下に立たされ中」ってやつ。

「何よ、麻衣。本日の言い訳は締め切りましたけど?」

 トントンと肩を叩かれ、私は鬱陶しそうなそぶりを見せながら振り向いた。

「……」

 麻衣は、口の端を上げて、私を見つめている。

「!」

 これまた何となく判った。

 でも、マジでむかつくし。

 私は、麻衣の頬を思いっきりつねった。

「いらららっ、いらいっれ、はい~」

「なによっ、これも『目は口ほどにものを言う』通信で言えばいいじゃないのよっ!」

 麻衣は、私の手をつかんで引きはがそうとする。

「はかっはの?」

「判るわよ! 『まあ、気を落とさないで』とか、言いたいんでしょ!」

 麻衣は、目を輝かせた。

「へーはいひゃに、はふひゅっ」

「うるさいっ!」

「上山さんっ! 何してるのっ! 静かにしなさいっ!」

 ガラガラって音の直後に、先生の怒鳴り声。

 ありえないし。

 理不尽な怒られ方って言うんだよね、これ。

「すみません」

 まあでも、こういう時は素直に謝らないと、お説教の時間が上乗せってやつだし。

「そうだよ~、愛は反省がっ――!!」

 先生に判らないように、麻衣の足を踏みつける。

「次注意したら、職員室に来てもらいますからね」

 先生は、もう一度私たちを睨むと、教室の中に消えていった。

 はぁぁああああああ……。


「でさ、今朝のは何が言いたかったのよ。もう怒られたくないから、『目は口ほどにものを言う』通信は無しだよ」

「え~、つまんな――」

 私が怒りを込めて睨むと、麻衣は口をつぐんだ。

 ああ、これがいわゆる『目は口ほどにものを言う』って奴だね。


「……あのさ」

「なによ」

 麻衣は私を上目遣いにちらりと見ると、床に視線を落とした。

 あれ、急に麻衣らしくないなぁ。

「……あのね、怒らないって約束してくれる?」

 私はまたまたため息をついた。

「怒るって……。もう、今日は怒り疲れたわよ。てか、これ以上怒る事なんて想像出来ないし」

 ホント、今の私をこれ以上怒らせるネタを持っているとしたら、ノーベル賞物だよ。

 麻衣は、胸に手を当てて深呼吸していたが、何かを決心したかのように、私をきっと見つめた。


「あのね。昨日さ、麻衣の事待ってたじゃん? 麻衣ん家でさ」

「まあ、ごめんね。委員会があんなに遅くなるとは思わなかったし」

「うん、それはいいんだけど」

 そう言われてみれば、昨日さんざん待たせたのに、いつもなら「おっそ~い!」とか怒るのに、昨日は麻衣ってばニコニコしてたっけ。

 麻衣らしくなく「ジュース買ってきたけど飲む?」とか、サービス満点だったし。

「あのね……」

「うん」

 ひっぱるなぁ。

 埋蔵金の特番かよっ!

「あの、マジ……を……きしちゃったの」


 え?

 今なんて?


「えっ?」

 私の声に、麻衣はびくっとなった。

 ホント、いつもの麻衣らしくない。

 ……いやいやいや、

 そんな事より、

 今、ものすごく嫌な事を言ったような……。

「今なんて?」

「だからさ、マジカルの愛のデータ上書きしちゃった」

 えへっ、って感じで、麻衣は舌を出した。


 それって、ど、どういう……。


 マジカルって、あれだよね。

 うん、私が今ハマってるゲームだよ。

 説明したよね。

 たしか、もう1週間ぐらいやり続けてて、結構良いところまで行ってて、あと少しでラスボスって感じ。

 何で急にその話が出てきたんだっけ。

 あ、そうか、今は4時間目で、外に立たされてて……。

 いやいや、そうじゃなくって。

 あれ? おかしいな。

 頭が回らないよ。


「愛さ~ん。生きてますか~?」

 気付くと、麻衣が私の目の前で手をぱたぱたやっている。

 そうか! わかった。

 つまり、愛が私がやっていたゲームを待っている間にやっていて、ついでに私のデータ消しちゃったんだ。

 なーんだ。

 って、

 ええええええええええええええええええええええええ?


「……てくれるのよ」

 自分でも判るぐらい、声が震えている。

 今まで1週間の日々が、共に冒険した仲間との思い出が、走馬燈のように私の頭の中を駆け巡る。

「あの、愛理さん?」

 麻衣が困ったような顔で、私をのぞき込む。

「ちょっと! どうしてくれるのよっ! 1週間もかかったのよ!」

「だから、ごめんって」

 私の剣幕に、麻衣は一歩後ずさる。

「ごめんで済んだら警察は要らないのよっ!」

 身体の奥底からふつふつとわき出る何か。

「いや~、別に警察関係ない――」

 その言葉に、私の中で何かが切れた。

「う・る・さーーーーーーーーーい! もー、あったま来た! 大体、麻衣はいつ――」

「上山さんっっ! 静かにしなさいっ! 結城さんも、あとで職員室に来なさいっ!」

 がらっと言う音と共に、第4進化ぐらいした先生が、私達を睨んだ。


 その後、昼休み中お説教になったことは、わざわざ言うまでもないよね。

 はぁ~、お腹空いたなぁ。



 はい、おしまいっと。


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