第七話 吸血少女の非日常
ある日の夜、レミが眠ったころを見計らって、リヴィアはレミの布団に手を突っ込んだ。
「むにゃ……もう食べられないよぉ~」
そっと布団からレミの横で眠っていたリヴァイアサンを取り出す。
「む……姫君か?どうした、こんな時分に…?」
「しーっ、レミィがおきちゃうよ。」
リヴィアは口元で人さし指を立てる。そして、リヴァイアサンを抱えたまま、そっと部屋を後にした。
「…よーし、だれもいないね?」
「全く…そんなに警戒することか?」
部屋を出てすぐ、周囲をチラチラと窺うリヴィアに、リヴァイアサンは声をかける。
「………すぐわかりますよ?」
「まさか、また勝手に出歩くのではないだろうな?……図星か。」
流石の神獣も悪戯っ子のように笑うリヴィアを止める気にはなれないようだ。
リヴィアは誰も使っていない部屋の窓から飛び降り、ゆっくりと着地した。
「よーし」
「窓から飛ぶでない!危ないであろうが!」
リヴァイアサンの叱責にも、舌をペロッと出すだけで答える。
「…で、どうするつもりなのだ?門番を突破せねば城下町に出ることすら叶わぬぞ?」
以前の無断外出により、夕方以降の警備がいつもより厳しくなったことを言っているようだが、リヴィアはいたって平然としている。
「だいじょうぶ、ひじょーじようのぬけみちがあるんです。」
リヴィアが指を指した先に、小さな扉がある。もちろん、鍵はかかっているが。
「…どうするのだ?仮に鍵をあけられたとしても見張りがいる。連れて帰られるのがオチだと思うぞ。」
「しんぱいごむようですよ♪」
そう言って、リヴィアは鞄から小さな鍵と、薬瓶を取り出す。
「それは……?」
「としょかんのひとがかしてくれたんです。」
(ニーズホッグ…魔王に知られたらどうするつもりなのだ…。)
そして、さらに鞄から、スコーンと小さなジャムの瓶を取り出す。
「姫君、まさか…」
にこりと笑って、リヴィア薬瓶の中の液体をほんの少しジャムに混ぜた。
「じゅっぷんくらいていってたかなあ?」
「ひ、姫君、流石にそれはまずいと思うのだが…」
「としょかんのひとも、『僕の命がかかってるんだから、薬と鍵の事だけはバレないように頼むよ?』っていってました。どこかですてちゃいましょう。」
リヴァイアサンはリヴィアの(決していい方向ではないが)成長を見守るしかないと悟るのだった。
「こんにちはーっ」
リヴァイアサンが息を吐く間もなく、リヴィアは見張りの兵士の元へ、とてとてと近づいて行く。
「おや、お嬢様ではありませんか、こんなところで何を?」
「レミィとジャムつくったの!でね、いろんなひとにくばってね、いろんなところまわってね、えと、あの……ここ、どこかなーって。」
「それは災難でしたね……ここから引き返して、分かれてるところで右に行けばいつもの入り口ですよ。」
リヴィアは、満面の笑みを浮かべ、兵士にジャムの小瓶と紙袋に入ったスコーンを差し出した。
「ありがとう!あの、これ、よかったらたべてねっ。」
「お、お嬢様から物を頂くなんてそんなっ!」
「……いらないの?いっしょうけんめい、つくったのに?」
涙目になるリヴィアを見て、兵士は慌てて小瓶とスコーンを受け取る。
「あ、ありがたく頂きます!お、おいしそうだなあアハハ…。」
そういって、スコーンにジャムをたっぷりと塗って食べているのを見て、ニコニコするリヴィア。もちろん、兵士はその笑顔の真意に気づいていない。
「おいしい?」
「はい!とてもおいしいですよ。流石はお嬢様ですね。」
「よかったあ。あ、あの、みちおしえてくれてありがとう。おしごと、がんばってね。」
そういって笑う兵士に手を振り、リヴィアはとことことその場を後にする。
「策士だな…」
「くぁ……。なんか、今日は…眠い、な。寝不足…かな……」
そう呟き、兵士はその場にどさりと横たわった。
首尾よく城の外に出ることができたリヴィアは、楽しそうに野原を駆け回っている。
「…姫君、また魔王に叱られるぞ?」
「だいじょうぶ、すぐにもどりますから…あっ、ようせいさんだぁ!」
「姫君?あまり城から離れると…聞いておるのか?姫君!?」
小さな妖精を追いかけて、城から少しずつ離れてリヴィアを制止しようと声をかけるが、妖精を追うのに集中してしまっているようで、リヴァイアサンの声は届かない。
「……ようせいさんいなくなっちゃった。」
「姫君、城の場所だけは見失うでないぞ?」
「はーい。」
そう言いつつも、リヴィアは更に遠くへ遠くへ行こうとする。
「姫君!」
「わかってますよぉ。うーん、それにしてもいいてんきですね!」
リヴィアが満月を見上げながら伸びをしていると、ちょうど何かの影が見えた。
「……あれ?なにかがこっちにむかってとんできてますよ?」
「あれは……!ここから逃げるぞ、姫君!」
「え?ええっ?」
「あとで説明する、急げ!」
急かされるままにリヴィアは城に向かって走り出すが、『何か』は凄まじい速さでリヴィアに迫ってきている。
「きゃあっ!」
『何か』とは、巨大な竜だったのだ。
リヴィアは竜の大きな手に容易に持ち上げられ、そのまま何処かに連れていかれてしまった。
そんな事とはつゆ知らず、図書館ではニーズホッグは悠々と本を読んでいた。
「あー、今日はいい事したなあ。」
「何処がだ?」
「外に出たいって言ってる姫ちゃんに作戦を授けてあげるだなんてさ♪」
ニーズホッグは、傍らに置いてある本から半透明の身体を覗かせている男性と会話をしているようだ。
彼は先代の魔王で、ニーズホッグの友人である。
「全く、万が一の事態になってからじゃあ遅いんだ、変なことをするもんじゃない。」
「あのくらいの年の子は、外が怖いところだということを少しは知ってないと駄目だと思うよ?憧れだけで外の世界に行くことはできないってことから教えてあげないと。」
「…仮にも私の孫、なんだが?」
ニーズホッグは、バツが悪そうに男から目を背けた。
「いちいち細かいなあ、ネーベルは。そんな事言ってるから神経質だとか、石頭だとか言われるんだよ?」
「全く、何かあったら責任とるんだよな?」
「…か、考えておくよ。」
しばらく飛んだあと神殿のような場所にリヴィアを降ろすと、竜はまた何処かへ飛び去ってしまった。
「…なん、だったんでしょう?」
「…解らぬな。だが、あまり良いところに連れてこられたようではなさそうだ。」
辺りを見回すと、暗闇の中に光る眼が多数見える。今にも飛びかかってきそうだ。
「…こっちへ来い」
「ひゃっ!?」
不意に腕を掴まれ、バランスを崩すリヴィア。黒髪の少年がリヴィアの腕を掴んでいた。。
「な、ななななんですかいったい!」
「主様にお前を逃がすなと言われている。悪いがしばらくじっとしておいてもらうぞ。」
そう言って、少年はリヴィアを神殿の奥まで引っ張り込む。神殿内はかなり入り組んだ構造になっていた。
「あ、あの…」
「余計な話は無用だ。」
少年は有無を言わさずリヴィアを小部屋の中に押し込むと、鉄格子の扉を閉める。
「ちょ、ちょっと、だしてください!」
リヴィアが鉄格子を揺すっても、反応は無い。
「騒ぐな。」
それだけ言って、壁の蝋燭をつけてから少年は去っていってしまった。
「…どうしよう。」
「姫君…」
「おとーさぁん……」
ポロポロと涙を流すリヴィア。
「こわいよぉ、おとーさん…レミィ…」
「姫君……取りあえず泣き止んでくれ。どうにかして脱出する方法を探そうではないか。泣いていたらそれもできぬぞ。」
リヴァイアサンは慰めようとリヴィアの首に巻きついて涙をペロペロと舐めとった。
「あ、ありがとう…ございます。」
「落ち着いたか。で、姫君を攫った者についてだが…」
と、言いかけたところで、靴の音が響く。
「!姫君、しばし我慢してくれ。」
「ひゃぅ?」
近づいてくる靴音から隠れるように、リヴィアの服の中に隠れるリヴァイアサン。
「お前が魔王の娘か。」
現れたのは、長髪の男だった。手足には鱗が見える。
「…しらないひとにはなすことはなにもありません!」
リヴィアが反抗的な態度を取ると、男は小部屋の中に入り、リヴィアの顎を持ち上げた。
「小娘、リヴァイアサンは何処に居る?」
「そ、そんなひとしりません!」
「……そうか、じゃあ魔王に聞こうか。」
「そ、そんなことしてもむだですよ!」
リヴィアが男の手を払いのけようとすると、男はリヴィアの手を掴む。
「いっ……」
「無駄だと言うなら試してみるか?お前の手首でも魔王に送りつけてな。」
「…だからっ!むだだって、いってるじゃないですか!」
護身用のナイフを取り出し、リヴィアは男に斬りかかった。が、気配を察したのか、男は後ろに飛びのき、ナイフは虚空を切る。
「……。」
男は溜息をつくと、部屋から出ていってしまった。
「……はぅぅ」
男が見えなくなったことを確認して、ヘタヘタと座り込む。
「姫君!大丈夫か!?…話がややこしくなりそうで、出るに出られなかった、済まない。」
「は、はい…」
「…恐ろしい目に遭わせてしまったな。…あれは我の旧友だ…最も、長らく会っていないが。」
「おともだち、だったんですか。」
リヴァイアサンは俯きながら続けた。
「最近、人間の領地に侵攻したという噂を聞いた。以前はそんな事はしなかったのだが…人間を嫌ってはいたが、滅ぼそうと考えるような奴では無かった。」
「いつから、かわっちゃったんですか?」
「我が、魔王に下ってからだ。」
「!」
リヴィアはぐっと拳を握り締める。
「魔王のせいではない。…人間を嫌う仲間であったはずの我が、人間との共存を目指している魔王の元に下ったことが許せなかったのだろう。」
項垂れるリヴァイアサンの頭を、リヴィアはぐりぐりと撫でまわした。
「何をするか!」
「しょぼんとしてるリヴァイアさんなんてらしくないですよ。」
「……それもそうだな。とにかく、一緒に此処から出なくてはな。」
「はやくかえって、みんなでごはんたべましょうね!」
「フフッ…そうだな。」
それから、リヴィアは小部屋の中をくまなく見て回り、隙間や扉のガタつきがないかを調べていた。
「うーん…まったくだめですね。」
「そうか…我が本来の力を出せればこんな物、鉄屑同然なのだが…」
「ほんとですかあ?」
そんな話をしながら壁をコツコツと叩いたりしていると、先ほどリヴィアを閉じ込めた少年がやってきた。
「…なんですかいったい」
リヴァイアサンを背後に隠しながらリヴィアは少年を睨みつける。
「…蝋燭を、換えにきた。」
蝋燭を換えている魔物をひたすら睨みつける。
「あまり睨みつけないでくれ。」
「とじこめておいてそういうこというんですか?わたしはなんじかんもずーっとここでひとりぼっちなんですよ!」
「…脱走されても困るしな、主様の気が済むまで話し相手にでもなってやろうか?」
リヴィアは一瞬「しまった」という顔をしたが、すぐに頷いた。
(姫君?どうするのだ?)
(じょーほーしゅうしゅうですよ。レミィもゲーム?ではだいじっていってました。)
リヴァイアサンとひそひそやっていると、少年は怪訝そうな顔をする。
「な、なんでもないですよ?」
「そうか…ぃしょっと。」
リヴィアに背を向けて座る少年。気まずい雰囲気が流れる。
「……。」
「……あ、あのっ!その、えっと……。」
「整理してから言ってくれないか?」
「え、えっと、あの、お、おなまえを、きいても?」
「名前……?コール、だけど。」
名前を聞く事が出来て、少し満足げなリヴィア。
「あ、わたしはリヴィアです。あの…」
「お前の素姓については、あえて聞く気はない、安心しろ。」
「そうですか…あ、それじゃあ、ひとつきいてもいいですか?」
リヴィアは少し考えた後、おずおずと尋ねた。
「あの、わたしをさらったのは、コールさんのしゅじん、なんですか?」
「…ああ。主様はかつての友人を探しているんだ。」
「そのおともだちって、リヴァイアサンってひと、ですか?」
コールは無言で頷いた。
「主様は、変わってしまった。…魔王がリヴァイアサンを鎮めてしまってから、な。」
「まおう、さまが?」
「…ああ。でも、俺は魔王が間違っているとは思っていない。でも、主様にはそう映らなかったんだ。」
少し、悲しげな声音だった。
「お前が本当に魔王の娘じゃないかどうかなんて、俺には分からない。でも、こんな事、間違ってる。無関係な女の子を攫って、魔王を脅そうとするなんて…。」
「!」
そう言うや否や、コールは立ち上がって、鉄格子の鍵を手にとり、鍵を開けた。しかし、音もなくあらわれた男に腕を掴まれる。
「何をしている、コール。」
「あ…主、様……っ」
男は冷たい目をしてコールを見つめた後、コールの首を掴んでゆっくりと持ち上げ、ギリギリと首を絞める。
「あ…く……っ」
「私は逃がすなと言ったんだ、そんな簡単なこともわからないのか?」
「や、やめてあげてくださいっ!」
リヴィアが必死に呼びかけるが、男は聞く耳をもたない。
「少しは言葉の解る奴だと思っていたが…まあいい、一瞬で殺してやる。」
男が更に指に力を込めた時、大きな音を立てて鉄格子が吹っ飛んだ。リヴィアが蹴り飛ばしたのだ。
「やめてって、いったじゃないですか」
「……小娘が私に指図か?」
「コールさんをはなしてください。」
リヴィアは静かにナイフを構える。
「少しは楽しませてくれそうじゃあないか?」
男はコールを床に叩きつけた。
「こむすめでも、おこらせたらこわいんですよ?」
「その自信、親の七光でないといいがな。」
夜が明けても、いまだにリヴィアが見つからないため、魔王は苛立ちを隠せないでいた。
「……ハァ。リヴィアは一体どこに居るのやら…」
「お嬢様のお転婆には困ったものです…しかし、何処から城外に出たのやら。」
「朝までとなるとまさか誰かに攫われてやいないかと心配で心配で…」
そう言って、魔王が溜息をついたとき、大慌てで兵士が駆け込んで来た。
「魔王様!大変です!」
「何ですかこんな時に。」
兵士が恭しく差し出した手紙を受け取り、綺麗に封を開く。
「竜王から…?」
手紙に目を通してすぐ、魔王の顔が強張った。
『娘は預かった。貴様の元に居るリヴァイアサンを引き渡せば無傷で返す。』
「ふざけたことを…」
玉座から立ち上がろうとした魔王を、側近は慌てて押しとどめる。
「魔王様、危険です!罠かもしれないでしょう!」
「こんな舐めた真似をされて、行かないなんて選択肢はないでしょう。」
必死で魔王を説得しようとする部下たちだが、魔王は譲る気はないようだ。
「離して下さい!」
「魔王様に何かあってはお嬢様に顔向けできません!お願いですから魔王様はここに居て下さい!」
そんな事を言ってもみ合いになっていると、魔王を背後から羽交い締めにする人影があった。
「はーいはい、そこまでだよ、魔王。」
「…ニーズホッグ、その手を離しなさい。」
「離す訳ないじゃないか。全く、仮にも一国の主でしょ?もっと自覚を持ってって言ってるんだよ僕は。」
「娘より国を優先しろと?」
魔王が低い声色で言う。が、ニーズホッグには全く効いていないようだ。
「姫ちゃんを見殺しにしろとは言ってない。ただ、ちょっと落ち着けってこと。」
「これが落ち着いていられるか!?……私は今すぐにでも竜王を殺す。」
「だから落ち着いてって…言ってるだろ!」
ニーズホッグは壁に向かって魔王の背中を蹴り飛ばした。
「っ…何を。」
「いいかい?仮に君が竜王を殺しきれたとして、それで向こうは黙ると思ってるのか?そんなわけないだろ!むしろ竜王が姫ちゃんを攫ったことを知らない奴らにまで君は恨まれることになるし、何より君一人で僕以外の竜族全てを敵に回して無事で済むと思ってる?」
「そ、それは…。」
「奴らの結束を甘く見ない方が良い。余計な被害を出したくないんだったら、君はこの件には関わるな。」
吐き捨てるように言うニーズホッグ。
「でも…っ」
「何のために僕やレミちゃんがいると思ってるのさ。君はここで姫ちゃんが帰ってくるのをどっしり構えて待ってるんだね。」
魔王はしばらく考え込む。
「…解りました。リヴィアの好きなケーキを作らせておきます。もちろん、リヴァイアサンや、レミさんの分も。」
魔王が諦めたように言うと、ニーズホッグは珍しくにこやかに笑う。
「わかってもらえたようで、よかった。穏便に済ませてくるよ。」
部屋から出ていこうとしたところで、ニーズホッグの動きが止まる。
「…結局、リヴァイアサンは何処にいるんだろう?」
リヴィアは考えていた。実力差は明白、それどころか相手は余裕の表情を浮かべている。
「どうした?威勢が良いのは初めだけか。」
「…どうりょーりしてあげようか、かんがえていたところです。」
「ほう、じゃあそれを見せてもらいたいものだ。」
男は何処からか現れた槍をリヴィアに向ける。
「吸血鬼風情が、舐めた口を聞くものだッ!」
「きゃあっ!?」
男は槍をリヴィアに向かって投げる。しかし、その槍はリヴィアの額に突き刺さる寸前でぴたりと止まった。
「…無茶をするでない、姫君。」
リヴィアの額と槍の間に、小さな氷が現れていた。
「リヴァイア、さん…。」
リヴァイアサンはリヴィアの方をちらっと見て、少し寂しそうな顔をする。
「魔王には、姫君から言ってくれ。我は此処に残る、とな。」
「え?リヴァイアさん、そんなのやだよ、いっしょにかえろう?」
「これ以上姫君を危険に晒す訳にはいかないのでな。…さよならだ。」
『さよなら』という言葉を聞いたリヴィアの目から、一筋の涙が零れる。
「もう…いっしょにおでかけできないの?…いっしょにおとうさんのたんじょうびプレゼントえらんだり…レミィといっしょにおはなししたり…おとうさんと、レミィと、ニーズホッグさんと、みんなで、いっしょに…ごはんたべようって…やだっ…リヴァイアさんっ…いかないで…」
泣きながら呟くリヴィアの言葉を聞かないようにと、リヴァイアサンは何度も首を振った。
「バハムート、…我はこうして出てきたのだ、姫君を、家に帰してやってくれぬか。」
(バハムート…あのひと、りゅうのおうさまだったんだ…やっぱりかてるわけ……なかったのかな。)
リヴィアはナイフの柄を強く握り締めた。
「リヴァイアサン…本当に、本物、なのか?」
「お前は盟友の顔を忘れられるのか?」
「リヴァイアサン…!」
リヴァイアサンをそっと抱え上げ、愛おしそうに何度も頭を撫でるバハムートを見ながら、複雑そうな顔をするリヴィア。
「話は後だ、早く姫君を家に」
「いやです」
「!?姫君、一体何を言って…」
「たしかにあなたにとって、リヴァイアさんはたいせつなともだちかもしれません。でも、わたしやレミィにとってもそれはおなじです。」
「姫君!こいつは敵に回していい奴じゃあない!」
リヴィアの目はまっすぐにバハムートを見つめている。
「わたしはせいしきに、あなたにけっとうをもうしこみます!」
「ほう?」
「わたしがかったら、あなたとリヴァイアさんをつれてかえります!それなら文句は無いでしょう!」
リヴィアはあくまで本気のようだ。
「面白い、許可する。」
「待て、姫君に何かあっt#%&*;+@」
「決闘を持ちかけたのは魔王の娘だ。」
バハムートは槍を拾い上げ、指を鳴らす。すると、広間に瞬間移動したようだ。
「こういうのは、広い場所でやるのが礼儀という奴だ。」
「姫君、まさか本当にやる気では…」
「やります。リヴァイアさんだってなっとくしてないでしょ!」
図星をつかれたのか、リヴァイアサンは俯いてしまう。
「魔王の娘、お前の勇気に免じて、ハンデをやる。」
「はんで?」
「私に膝を付かせてみろ、そうしたら負けを認めてやろう。」
「…まあ、いいです。そうでもしないとかてませんからね、まだ。」
リヴィアがそう言うと、お互いに武器を構える。
「来い、魔王の娘。」
「ひざぐらい、つかせてやりますよっ!《腕力強化》!」
一足飛びで距離を詰め、バハムートに向かってナイフを振り下ろす。
「《強化》使いか…。」
「《強化》だけだと思わないでください!《硬度弱化》!」
バハムートの足元の地面が柔らかくなり、両足が沈み込む。
「チッ……離れろっ!」
バハムートが槍を大きく振り、リヴィアを弾き飛ばす。
「後悔するといい、小娘!」
体勢を崩したリヴィアに向かって勢いよく槍を突き出す。
「《脚力強化》!」
槍を素早くかわし、左手に持ったナイフを投げる。
「遅いな。」
少し首を曲げただけでかわされた。
「間合いに踏み込みすぎたな。」
槍をかわしつつ投げナイフを当てに行けるようにと斜め前に踏み込んだことで、槍の間合いに重なってしまったようだ。
「!」
ヒュン
「いっ……!」
槍の先端がリヴィアの胸を翳める。
「…こういう怪我は初めてか?」
「…そう、ですね。でも…このていどでびーびーいってられないです!」
「フン、良い心がけだ。だが!」
横に槍を薙ぎはらい、リヴィアを壁に叩きつける。
「きゃっ!」
「さて、続けるか?小娘よ。」
「まっ…まだ…こんなのかすりきず…です。」
ヨロヨロと立ちあがるリヴィア。
「死んでも知らんぞ。」
煽りはするものの、バハムートはその場から動こうとしない。
「それも、はんでですか?」
「そういうことだ。」
「ずいぶんとちょうしにのってますね!そのはな、へしおってやりますよっ!」
相手を指差しながら力強く言ったものの、足はふらつき、とても万全の状態では無い。
深夜、ふと目を覚ますと、傍で寝ていたはずのリヴァイアさんがいない。
「…え?あれ?リヴァイアさん?」
まずい。まさか潰しちゃった?
「リヴァイアさん、どこですか?リヴァイアさん!?」
どこにもいない。ベットの下にも、引き出しの中にも、クローゼットの中にも。
「あれ…?あれ…??」
いつも一緒に寝て、一緒に起きてるのに。
「羨ましいなあ、見た目が可愛いからって女の子とおんなじベットで寝るなんてさっ。」
いつの間にドアを開けたのか、司書さんがいる。
「ちょっと、勝手に開けないでくださいよ!」
「リヴァイアサンだって入ってるんだろ?別にいいじゃないか。」
「乙女の部屋ですよ!…で、何か用事ですか?」
全く、デリカシーないんだからー。
「用事っていうと…まあ、率直に言えばリヴァイアサンが居なくなったんだよ。」
「え」
「君なら知ってると思ったんだけど、涙目で部屋ひっかきまわしてるあたり君も居場所は知らないか。」
やれやれ、と大袈裟に溜息をつく司書さん。
「全く、レミちゃんに泣いてもらうなんて羨ましいにも程がある…。」
「何かいいました?」
「イヤ何でも?」
「?」
時々司書さんはよくわからないことを呟く。私がよく聞いていないだけかもしれないけど。
「ここに居ないとなると…そうだね、姫ちゃんと一緒に居るのかな。」
「リヴィアと?」
「うん。どうやらまた姫ちゃんが出掛けたみたいでね。」
「そうなんですか。」
リヴィアと一緒なのか、ならよかった。
「まあ、その姫ちゃんが行方不明なんだけどね。」
…え?
「リヴィアが?」
「うん。」
「行方不明?」
「みたいだね。」
やばい…じゃないですか。
「だから探しに行くんだよ。ほら、着替えて。」
「わ、わかりましたけど…じゃあ着替えますから出てって下さい。」
「ずいぶんと冷たいんだねえ?」
「えー、まさか見たいんですかぁ?」
私がわざとらしく聞くと、司書さんは手に持っていた本で私の頭を軽くたたいた。
「いたっ」
「全く、人を変態みたいに…。」
ふう、と大袈裟な溜息をつくと、部屋から出て静かにドアを閉めた。
「で、司書さん、リヴィアの居場所に心当たりはあるんですか?」
「うん。とりあえず早く姫ちゃんを連れ戻さないと。魔王も心配してる。」
「じゃあ急がないとですね!」
「…早く着替えてくれるかなあ?」
忘れてた。
啖呵を切ったものの、流れがこちらに来ていないのは明らかだった。
「うう…どうすれば…。」
「さて、どうする?降参か?」
「だからあきらめないって、いってるじゃないですか!」
足のふらつきを抑えて、走り出す。
「馬鹿の一つ覚えだな!」
バハムートは槍を構えるが、リヴィアの行動は先ほどとは違った。
「おくのてです!」
リヴィアは素早く残ったナイフを投げる。
「自棄になったか?」
バハムートの足元にカランと音を立ててナイフが床に転がる。そして、リヴィアは懐から三本目のナイフを取り出す。
「それでいいんですよ…それで。」
リヴィアは高く飛び上がり、三本目のナイフを構えてバハムートを切りつける。
「わたしのかちです!《磁力強化》!」
「…磁力?」
リヴィアが呪文を唱えると、二本のナイフが引き寄せられるようにバハムートに突き刺さる。
「ぐっ…!?」
不意を打たれてよろけるバハムート。其処にリヴィアが思いっきり後頭部に蹴りを入れる。
「どうです、ひざをつかせましたよ。」
倒れたバハムートの背を踏みつけながら、リヴィアは二コリと笑う。
「…ククク」
「さあ、いえにかえしてください。」
「…そうだな。中々、面白かった。」
ニヤリと笑う二人の間に、リヴァイアサンが割って入る。
「バハムート!姫君にもしものことがあったらどうするのだ!姫君もだ!竜王に挑むなんて無謀な真似を…傷は浅いようだが…。」
リヴィアとバハムートを交互に見つつ小言を言う。
「楽しくなってつい、な」
「こんなけが、すぐなおるよ?」
「それでもだ!そんな恰好で帰ってみろ、魔王が卒倒するぞ!?」
リヴァイアサンがリヴィアの胸元を示す。傷はとうに塞がっていたが、服は破れ、白いシャツには血が滲んでいる。
「あ…。」
「あー…。」
「全く…」
リヴァイアサンがやれやれ、と首を振った。
「まあ、はなせばわかるひとってことがわかったんだし、いいじゃないですか。」
「そういう問題ではないとっ」
「相変わらずそういうところが変わらないな。もっと気楽に考えられないか?」
気楽そうに言う二人を見て、リヴァイアサンは大袈裟に溜息をつくのだった。
私が司書さんに連れてこられたのは、何か、ものすごく…神殿的な何かだった。
「ここに、リヴィアがいるんですか?」
「そうだよ。」
柱の陰から様子を窺うと、リザードマンが巡回しているのが見えた。かなり厳戒態勢のようだ。
「どうするんですかこんな見張りが多い中!」
「こうするんだよ。」
司書さんが柱を蹴り飛ばすと、大きな音を立てて柱が倒れる。
「な、何やってるんですか司書さん!」
音を聞きつけて、わらわらと小さめの竜があつまってくる。小さめと言っても、人間と同じぐらいの大きさだ。キーキー言いながら、私達を取り囲むが襲ってくる気配は無い。
「あー、やだやだ。こんな言葉も喋れないような馬鹿な奴らの相手だなんて、こっちが馬鹿になっちゃうよ!」
司書さんが大袈裟に言うと、言葉のわからない仔竜たちにも馬鹿にしていることが解ったのか、牙をむいて唸り始める。
「どうするんですかこれ!?完全に怒らせちゃってるじゃないですか!」
「心配しないで、キミはそこでドーンとしてればいいんだから。」
焦る私をよそに、司書さんはあくまでも余裕の表情だ。
「君らも死にたくないんなら、今すぐ竜王の居場所に連れて行け。逆らったらどうなるか、わかるな?」
いつもよりちょっとトーンの低い声。
「そんな簡単なこともできないのかい?それとも…まだ、解っていないのか。」
怒ってるときの声だー…と思っていたら、仔竜達はサーっと道を開ける。
「へぇ、物わかりはいいみたいだねぇ。関心関心。」
そう言いながら、私の手を引いて先に進もうとする司書さん。
「わわっ、引っぱらないでくださいよ!」
慌てて司書さんに合わせて歩き出すが、急に強く引っ張られ、つんのめってしまう。
「なんですか一体…」
「あのさあ…僕に手を出さないだけじゃ意味ないのが解らないの?それとも本当に死にたい?この子は僕の連れだよ?」
恐らく仔竜が私に吐いたのであろう火球を手に受け止めていた。ジュッという音と、肉の焼けた様な匂いが漂う。
「火傷してますよ!?」
「こんなのすぐ治るよ。全く…キミに怪我がなくてよかった。」
司書さんが手を見せると、確かに、つるつるしている。
「痛くないんですか?」
「ちょっと熱いけどね。」
それじゃ、と司書さんは竜達に向き直った。
「竜王…イヤ、バハムートはどこだい?」
もう何が出ても驚かないっす、はい。
「魔王が困ってるんだよ。早くしてくれないかな?」
すごい良い笑顔で司書さんが竜達に声をかけると、どこからか人?が現れる。
「リヴィアの知り合いか?」
「…姫ちゃんを知っているのかい?」
「大変なんだ、今すぐ来てくれ!」
ふむふむ。どうやら大変なんだね?
「姫ちゃんを知ってるあたり何か怪しいけど…まあいいや、居場所を知ってるなら教えてよ、急いでるんだ。」
手足に鱗のある少年は、わかりました、と頷き、私と司書さんをさらに奥まで連れて行った。
「…いやに騒がしいな。」
「なにもきこえませんよ?」
「聞こえないか?恐らく人間でも入り込んだのだろうな。」
人間、と聞いて、リヴィアの目が輝く。
「レミィがおむかえにきてくれたのかなっ!」
「人間の知り合いがいるのか?」
「あのっ!レミィはですねっ!にんげんだけど、すっごくやさしいし、いろんなまほうつかえるんですよっ!」
リヴィアがワクワクとした様子で言うと、リヴァイアサンは顔を綻ばせる。
「まあ、帰ったら魔王の説教だろうがな。」
「…きこえないです。」
私達が連れられてついた先では、リヴィアとリヴァイアさんと…知らない男の人が楽しそうに話していた。
「…元気そうですね。」
「うん…びっくりするぐらいにね…」
楽しそうに話していたリヴィアが、こちらに気がついたのか、駆け寄ってくる。
「レミィっ!」
リヴィアが飛びついてくる。おや?服が破けているような…
「こんなにとおくにきたのはじめてなのっ!」
「服はどうしたの?転んだの?」
リヴィアはあさっての方を向いて誤魔化そうとする。
「え、えーと…。」
「まあ詳しくは帰ってから話そうか。姫ちゃんも疲れただろうし。」
あら?司書さんが珍しくやさしい。
「そ、そうですね!」
「もちろん、魔王も一緒にね。」
うん、鬼だ。
「じゃ、じゃあかえりましょう、リヴァイアさんも、バハムートさんも。」
何であの男の人までついてくるんだろ?まあ其処らへんも説明あるよね。
「それにしても、リヴィアが無事でよかった。」
あれ?リヴァイアさんもリヴィアも、何で私から目をそらすんだ?
城に帰ると、魔王様が門の前で待っていた。
「お帰りなさい、リヴィア。おいしいケーキがありますよ。」
「ケーキ?やったぁ!」
「ちゃんと手を洗うんですよ?」
「はーい!」
リヴィアがたったかと城の中に入るのを見届けてから、魔王様はリヴァイアさん達の方に向き直り、にっこりと笑う。
「さて、とりあえず話は中でゆっくりと聞きましょう。ゆっくり、ね。」
魔王様、怖いです。
なんて言うか…その…すごーくゴージャスな部屋に通されたよ…
「さて、リヴィアも着替えたことですし、今日何があったのか、ゆっくり教えていただきましょうか?」
「我はリヴァイアサンを連れ戻そうとしただけだ。我が友をこんなところで飼い殺しにさせておくわけにはいかないからな。」
「無関係のリヴィアに怪我をさせておいて言う言葉か?」
「魔王、抑えて。」
す、すごーく険悪なムード…。
「確かに、姫を攫ったのは私だが…」
「リヴィアに怪我をさせたのも貴方じゃないのか!?」
魔王様が机を叩く。珍しいなぁ、こんなに魔王様が怒るの。
「ちょっとまって、おとうさん!たしかにわたしはバハムートさんにさらわれたけど、わたしがけがしたのは、けっとうをもうしこんだからだし…あの、その…だから、あんまり、おこらないで…」
「決闘?」
「あの…どうしても、リヴァイアさんをおとうさまからひきはなしたいって、いってたから…それならいっそおしろにきてもらえばって…それで、りゅうぞくのひと(?)って、つよさをしょうめいすればしんようしてもらえるって、ほんでよんで…それで…」
リヴィアなりに考えたってことね、ふむふむ。
「だってさ。姫ちゃんも良く考えたねぇ。こわかったでしょ?」
「たのしかった!」
その場に居る全員がやれやれ、と溜息をつく。
「フフッ、魔王、姫は中々良い戦士になるぞ。」
「困ります…」
「良いじゃないか、勇ましい王ほど民にとって頼りになる者は無いよ。キミだって率先して前線に立つじゃないか。」
「女の子なんですからもっとおしとやかに…ハァ…」
魔王様はがっくりと肩を落としたが、バハムートさんと司書さんは楽しそうだ。
「…で、バハムート、これからどうするのだ?」
私の頭の上からリヴァイアさんが声をかける。
「うーむ、特に考えてはいないが…」
「人間がいるのが嫌なら帰っていただいても構いませんが。確か、人間を嫌っていましたよね。」
魔王様が臨戦態勢過ぎる。言葉の節々に棘どころか有刺鉄線張ってる感じ。
「バハムートさん、にんげんってひとくくりにしないで、ためしにここでくらしてみたらいいんじゃないかなぁ?」
「ほう…?」
「…それでは、貴方もここに残る、ということで良いでしょうか?」
「そうだな。…どうせ、リヴァイアサンと同じような契約を結ばせるのだろう?」
「当たり前です、二度もリヴィアが攫われてはおちおち眠っていられませんからね。」
魔王様がそう言うと、バハムートさんは椅子から立ち上がってリヴィアの手を取る。
「なっ!?リ、リヴィアに触るんじゃない!」
「私が負けを認めたのは姫だ、主人は姫に任せようと思うのだが。」
バハムートさんすっげえ勝ちほこった笑顔してる。
「ケイヤク…!」
なんかリヴィアもやる気だしてるね。ぶつぶつと小声で「けいやく…けいやく…」と呟いている。某白いアイツか
「…全く、初めての魔獣契約がまさか竜王とは…」
「光栄に思うがいい。」
バハムートさんってちょっとリヴァイアさんに似てるなぁ。このドヤ顔とか。
「その、けいやく?ってどうやってするの?」
「姫はそこで立っていればいい。」
「?」
バハムートさんがリヴィアに跪き、リヴィアの手を取る。
「我、竜王バハムートは魔王の娘・リヴィアを主とし、主の許可なしには九割の魔力の行使を封じることを誓う!」
高らかに宣言すると、リヴィア達の周りに光が満ちる。
「…えと、これでいいんですか?」
「これで完了だ。よろしくな、姫。」
リヴィアの前に、パタパタと羽を羽ばたかせて、竜…というかでかいトカゲが飛んでいる。そう言えばリヴィアの手首にブレスレットが付いているぞ。
「あれ?これは…?」
「それが付いている限り、契約は履行されるよ。逆に言うと、それを外したり、壊したりすると、バハムートの魔力は解放されちゃうから気をつけてね。まあ、純粋な魔力でできてるから、そう簡単に壊れるようなものじゃないけど。」
司書さん詳しいな…。
「おとうさんもつけてるの?」
魔王様はそっと手袋を外す。右手の中指に、シンプルな指輪がはまっていた。
「わぁ、かっこいい!」
目を輝かせるリヴィア。魔王様も微笑ましそうに見ている。
「…リヴィア、くれぐれも気をつけるんですよ?」
「私が付いているから心配は無用だな。」
「貴方が心配の種なんですよ。」
「何故だ?」
魔王様は今までよりさらに真面目な顔をして言った。
「まだリヴィアは子供です。些細なことで癇癪を起こすこともあるでしょう。ですから、リヴィアの命令に貴方がただ従うだけではいけないということです。」
「愚問だな。」
リヴィアは話について行けないのか、私の髪の毛をみつあみにして遊んでいる。
「とにかく、姫のことは私に任せるがいい。」
自信満々に自分の胸を叩くバハムートさん。かっわ!かっわ!
「…で、そこの人間はなぜ私を見つめてくる?」
「かわいい物は見つめる主義なので。」
「姫、本当にいい奴なのか…?」
呆れ顔も可愛い。
その後、バハムートさんを抱えて楽しそうにお城の案内をしに行ったリヴィアを見送ってから、私は図書館に向かった。
「ししょさーん、お仕事ありますかー?」
「今は無いよ。あ、おいしい紅茶が手に入ったんだ。まぁ、魔王から貰ったものだけど。…飲む?」
「頂きます!」
紅茶は大好物なんだ。
「リヴァイアサンは?」
「あ、一緒に居ますよ。」
私が言うと、リヴァイアさんが肩からぴょっこりと顔をのぞかせる。
「キミも飲むかい?」
「一杯、貰おう。」
「解った、じゃ、座って。」
椅子に座り、リヴァイアさんをテーブルの上に乗せる。紅茶のいい匂いが漂ってくる。
「いい匂いですねぇ。…そう言えば、リヴァイアさんには人型の姿って無いんですか?」
「何故今聞くのだ。」
「気になったんですよー。バハムートさんだって人型持ってるし、司書さんだって元は龍でしょう?」
リヴァイアさんは少し考えた後、ぴょんと机から椅子の上に飛び乗った。
「あまり好きではないのだが、見たいと言うなら少しだけだぞ。」
リヴァイアさんが羽で身体を包むと、小さな男の子が現れた。
「…えーと、リヴァイアさん、ですか?」
「うむ。」
…やばい、かわいい。
「あ、あまり見るでない!」
「かわゆい…」
リヴィアよりもちっちゃい男の子になるとは思わなかった。
「だから嫌なのだっ!」
そう言い放つと、すぐにいつもの姿に戻ってしまう。
「あー、勿体ない」
「何がもったいないだ!」
不満タラタラなリヴァイアさんを遮るかのように司書さんが紅茶を持って入ってくる。
「はい、紅茶。冷めないうちに飲みなよ。」
あれ、何だかさっきよりも機嫌が悪い様な…
「司書さん、何か、怒ってますか?」
「別に?」
司書さんがつーんとそっぽを向くと、何処からともなく本が飛んで来て、司書さんの頭に当たる。
「いでっ!な、何するのさ!」
『全く、単純な奴だ…。』
「う、うるさいな!」
紅茶を飲みながら、雑談を楽しむ。
「それにしても、また騒がしくなるねえ。」
「そうですね。」
リヴィアも喜んでたし、一件落着してよかったよかった。
「またうるさくなるだけだけど。」
「良いじゃないですか、にぎやかで。」
「まあ、そうとも言うかな。」
新しい仲間はちょっと癖が強そうだけどね。