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第五話 司書さんの因縁

 今日もいい天気、掃除日和だ。最近忙しくて図書館の掃除できてなかったし、たまには顔出しに行かないとね。

「何でこんなことに…」

ドアを開けると、図書館は図書館と思えないようなすさまじい空間に変わり果てていた。しばらく見ないうちに、図書館内は本が積み上がり、いくつかの山を形成している。

「う、うわぁ…」

本を一冊動かそうとすると五冊山から崩れ落ち、五冊山に戻そうとすると二十五冊崩れる。

「無限ループ怖い…」

「いやぁ、悪いねぇ。掃除してもらっちゃってー。」

私が悪戦苦闘している間に、司書さんがやってきて椅子に座る。

「手伝うとか、ないんですか?」

「僕がやるともっと汚くなるよ?」

予想はついていた。そもそも普通に生活して行く上でこんな状態になるのだから、掃除、整理ができるとはとても思えない…

「…じゃあ、埃立つんで避けてて下さいよ。」

「おやおや、僕を追い出すのかい?」

「掃除しないんでしょ?」

そう言って、司書さんをドアの外に押しやると、一息ついた。

「さってと、やるかー。」

再度本の山と格闘し始めてすぐ、なにか本では無いものが見えてきた。

「まさかとは思うけど…」

かすかに動くそれはまさしく、人間の腕だった。

「い、急いで掘り返さないと!」

すぐに《身体強化》を唱え、腕を山の中から引き抜いた。少し本が散らばったが、気にしない。どうせ片付けるのは私なんだから。

「はぅ…あ、ありがとう…」

本の山から出てきたのは、見慣れない女の子。

「あ、えーと…」

たしか新入りの…。だれだっけ?

「ルフレ。」

「ああ、ルフレちゃんね、よろしく。」

忘れないようにと、ルフレちゃんの顔をまじまじと見つめる。かわいい。

「そういえば、こんな山に埋もれて、何かあったの?」

「本、読む。積む。囲まれて出られなくなる。あるよね。」

「その理屈おかしいよね。」

そんな事を言っていたら、ルフレちゃんのお腹からきゅるぅぅ、と小さな音が鳴った。

「二日ほど、見つけてもらえなかったからかな…」

「早くご飯食べてお風呂入っておいで、うん。」

そういうと、ルフレはおぼつかない足取りで図書館を後にする。

「はぁ…」

まだ手つかずの本の山があるのを見て、レミは大きなため息を吐くのだった。


 夕方になってやっと、図書館のドアが開いた。

「お、終わったぁ…。」

よろよろと外に出ると、何かに躓いて派手に転んでしまう。

「いったたた…何よ一体…?」

「それこっちのセリフだよ…」

転んだ私の下敷きになっていたのは、司書さんだ。なぜに?

「もー…せっかく気持ちよく寝てたのに…。」

「廊下で、ですか?」

「うん。だって僕が出歩いてると皆怖がるし。」

「あ…」

申し訳なさそうな顔をしていると、司書さんがわしゃわしゃと髪を撫でてくる。

「わわっ」

「キミはこういうの気にしなくて良いの。好きに言わせときゃいいんだから。」

「でもなんか納得いきませんよぅ、司書さんはこんなに良い人なのに。」

「レミちゃんのくせに、気のきいたこと言えるんだね♪」

たまたま手に持っていた、古ぼけた本を思いっきり投げつけてやった。

「いたっ!…ん?これ、どこで見つけたの?」

「本の山の中にありましたよー?」

司書さんは、改めて本を手に取り、懐かしそうな顔をして見つめる。

「懐かしいなぁ、これ、僕の友人の遺品なんだ。」

「そんなものを無くすんですか?」

ものすごく高そうな装丁だけど…何も書かれていないように見える。

「その本、真っ白じゃないですか!」

「ん?ああ、これはね、見えないようになってるんだよ」

「見えないようになってるとは?」

司書さんは本を広げて私に見せる。もちろん文字は見えない、が、にゅるりと半透明の物がせり出してきたのは見えた。

「お、おば、お化け!?」

『全く、人間は騒がしいな。』

「十三代目魔王のネーベルだよ。僕の友人。」

…紹介が雑すぎるでしょう。えーと、ネーベルさん、だっけ?

「んで、ネーベルがこの本に憑依して、文字を消したり戻したりしてるってわけ。」

もう何も驚かないよ、うん

『全く、子供の育て方を間違えたか…?人間どころか、勇者まで味方につけるなんてな。』

「子供?いま子供って言いました?」

まさか、魔王様のお父様?

「そうだよ、結構魔王に大甘だったしねぇ。」

『うるさいぞ死に損ないめ。』

「君がさっさと成仏しないからだろう?」

なんか険悪なような仲の良いような不思議なムードが漂う。

『そんなことより、私を無くすとは何事だ?ニーズホッグ?』

ネーベルさんが少しドスの利いた声を出すと、司書さんが硬直する。

「な、何のことかなぁ?」

『全く…相変わらず整理ができていないからこうなるんだぞ?』

あ、こういう細かい所が魔王様に似てるなぁ。リヴィアもマメに成長するのかな?


 その日、城には珍しく客が来ていた。

「なるほど…失踪した知り合いを探しているのですか。」

「…ああ。もし居場所に心当たりがあれば、教えてもらえるとありがたい。」

フードを目深に被った男は、静かに言った。

「ただ、貴方が何者なのかわからなくては始まりません。フードを脱いでいただけますか?」

「その程度で良いなら幾らでも。」

男がフードを取り、外套を脱いだ。すると、男の背中に生えた、大きな鳥の翼が目に入る。


「…名はフレスベルグ、ニーズホッグは何処に居る?」


談笑していると、形容しがたい轟音とともに、図書館のドアが吹き飛ばされる。

「ニーズホッグは此処か?」

「なかなか礼儀正しいようだね、君がドアをノックできるなんて思っていなかったよ。」

司書さんと突然現れた男は知り合いらしい…。

「消えたと思ったらこんなところで人間と談笑か、良い御身分だな。」

深い蒼の双眸が私に向けられる。心なしか殺意が籠っているような…。

「え、えーっと…」

オロオロしているあいだに、男は私のすぐ傍まで来ていたようだ。頭を掴まれ、一瞬のうちに引きちぎられる。

「フレスベルグ…今、何をした…?」

「見えないのか?」

ニーズホッグに見せるように、レミの頭を床に転がす。フレスベルグの身体は、返り血で真っ赤に染まっていた。

『こいつか、お前の言っていた腐れ縁って言うのは…』

「全く、凶暴で困る…。」

ニーズホッグはレミの頭部を拾い上げ、少し顔を顰めた。

「レミちゃんは関係ないだろう?」

レミの頭部を元あるべき場所に乗せ、フレスベルグの腕を掴む。

「さて、どうしてもらおうか。」

「たかが人間一人で、そんな顔をするなんてな…。お前が人間に執着するとは、驚きだ。」

歪んだ笑みを浮かべるフレスベルグ。目に光は無く、狂気が彼を取り巻いているようだ。

「君には関係ないだろう?今、虫の居所が悪いんだ。」

「…司書さん、私なら大丈夫ですから、あまり怒らなくても…。」

首を押さえながら立ち上がる。よかった、ちゃんとくっついてるね。

「!?何で生きて…」

明らかに動揺しているようだ。まあそうだよね。

「よそ見をしてる場合か?」

「ぐっ!?」

動揺している男の脇腹に司書さんは思いっきり蹴りを入れる。不意打ちが効いたのか、大きく距離が開く。

「レミちゃん逃げて!」

「あ、は、はい…」

なんかこんなに慌ててる司書さん見るの初めてだなぁ。ってそれどころじゃないよね、うん。


 その頃、魔王も走っていた。

「何で図書館に居るって言っただけでどっか行ってしまうんでしょうね?」

「そう易々と居場所教えてよかったのか…?あまり良い雰囲気はしなかったのだが…。」

リヴァイアサンはあくまでも冷静だ。

「せっかくここまで探しに来たようですし、ニーズホッグの友人でしょう?」

「魔王、お前は人が良すぎるぞ…。」

図書館に向かって走っていると、曲がり角から飛び出してきた人影と衝突する。

「きゃあっ!」

「おっと、危ない危ない…レミさん、どうしたんですか、貴女が廊下を走るなんて…」

「なんか、羽の生えた人が…」

「魔王?」

魔王は、バツが悪そうに顔を背けた。


 図書館内に駆け込むと、司書さんと、床に膝をついている男がいた。

「くっ…」

「わかった、だろう?君は、勝てない。」

図書館内はもう大惨事。本棚は倒れ、椅子や机はあちこちにひっくり返って散乱している。

「司書さん、大丈夫ですか!」

「逃げろって言わなかったっけ…?」

司書さんが私に駆け寄ろうと背を向ける。

「司書さん!」

「《転移》。」

気がつくと私は男にナイフを突き付けられていた。

「え…と、これは、どういうこと、ですか?」

「ニーズホッグ…これがどういう事か、わかるな?」

「抵抗すれば、刺す…か」

私が死なないのはこの人だって見てるはず…なのに、何で司書さんを脅せると踏んだんだ?

「フレスベルグ、悪いことは言わない、無駄なことは止めろ。」

「本当に無駄かどうか、試してみるか?」

そう言って、私の腕にナイフを突き立てる。あの、痛いんですけど…。

「っ……!」

明らかに怯んでる司書さん。

「無様だな、ニーズホッグ…」

すっごい青ざめた顔で勝ちほこられましても…。

「魔王、止めないのか?」

「いえ、とても面白いことになってるなあと思いまして。」

訳が分からなくてキョドっていると、

「ニーズホッグは血が流れるのを見れないみたいだからね、多分フレスベルグさんもなんだと思うよ。」

そういう事か…って何で自分もダメージ受けてんのさ!

「気持ち悪いから早くそれ(血)止めて!流れてるの見るのも駄目!」

「死体の血液を啜るとか言われてるのに…」

「それとこれとは話が別なんだよ!」

何なんだこの戦い…てかお互いに切り傷少なかったのってそれか!血がダメだから切れないのか!

「というわけでお願いだから早く何とかして!」

「何とかしろって言われたって抜いたら噴水ですよ確実に!」

「は、吐きそう…」

刺しといて何なんだあんたはぁっ!

「えー…これ、どうしたらいいんですか?」

「抜けばいいのではないか?」

「やめてー!」

仕方ない。ナイフに手をかけて、勢いよく引き抜くと、案の定、噴水のように血が噴き出す。私も見ていてあまり気持ちのいいものではない。

「うわ、うわ、どうしよう!」

私が慌てて傷口を抑えたりしていると、司書さんがその場に倒れ込む。私の後ろに居たフレスベルグさんまで倒れ込んで来た。まあ、丸く収まったっちゃ収まったのかな?


「お二人の間に何の因縁があったのかは知りませんが、今後こういうことがあったら怒りますよ。」

もう怒ってるよ…

「わかった、わかったからそのナイフしまって?ね?」

「仕舞いません。」

魔王様が軽く手を振ると、ナイフは司書さんの顔の横の壁に深々と突き刺さる。

「全く…貴方も貴方ですよ?話し合いで解決して下さい、良いですね?それがダメなら他の肩に迷惑のかからないところでやりなさい。」

魔王様ってすごい…ほぼ初対面のフレスベルグさんも、どう考えても正座なんてしないと思ってた司書さんもまとめてお説教してる…

「君のせいだぞ」

「…お前が勝手に消えるから。」

「黙りなさい、まだ話は終わっていませんよ?」

「流石にこれ以上は酷ではないのか…?」

それから二時間程、魔王様たちはそこから動かなかったという。



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