第二話 ため池の白蛇
F○と神話が好きな人、すいません。
勇者が来てからしばらくたったある日、何もすることがなかったから、私は庭を散歩することにした。
「涼しくなってきたなあ…。」
そういえば気付かなかったが、庭の片隅には小さなため池のようなものがある。小さいうえに庭の隅にあるため、人がいるのも見たことがない。
「なにかいるのかな?」
単なる気まぐれだ。
池のほとりに来たが、案の定何もいない。
「水が綺麗だなー」
「人間、ここを何処だと心得る」
何か聞こえた。しかも結構可愛い声。
「人間風情が領域を荒らすなと言っているのだ!オイ、聞こえているのか?こっちを向け!」
辺りを見回してみるけど何もいない。
「貴様の足元だ、あ、し、も、と!」
足元を見ると、小さな白蛇が私を見上げている。
「えーと…?」
「やっと気づいたか。」
すいません、私に蛇の知り合いはいないんですが…
「何、まさか我を知らぬのか?」
「知りません」
きっぱりと言うと、白蛇は私に哀れみの視線をむける。
「無知とは哀れなものだな…まさかリヴァイアサンの名すら知らぬとは。」
…今、「リヴァイアサン」って言った?
「リヴァイア…さん?」
「うむ!我こそが魔界の海を統べるリヴァイアサンである!ちゃんと敬語を使うんだぞ。」
レミはほおをつねってみた!しかしなにもおこらない!
「嘘だッ!」
「嘘ではない!我は本物だ!」
私が知ってるリヴァイアサンはこんなちんちくりんな一メートルもないような蛇じゃないぞ!?
「う…い、今は本来の力が出せないだけで…ごにょごにょ…」
「…なにかあったんですか?」
三行で説明してもらうと、どうやらこういうことらしい。
・昔、海を荒らして暴れてたら魔王様に退治されてしまった
・そのときに交わすことになった契約により、緊急時以外は力を使えなくなってしまった
・力を失ってちんちくりんになってしまったので危険だという理由から魔王様が庭の隅を提供した
「自業自得じゃないですか。」
「魔王の感性がおかしいのだ!何だ平和主義って。しかも倒された相手に情けをかけられるなど恥を晒して生きながらえているようなもの…」
最強の生物のプライドってやつですね。
「しかし、魔王も酔狂な奴だ。人間を二人も城に住まわせるとはな。」
「私とフォルツのことですか?」
「なかなか面白いことをする。…して、人間。貴様はなぜ此処に居る?」
このちんちくりん、かなり踏み込んだ質問をしてきやがる…恐ろしい。
「私は…魔王様に助けられた恩を返したいだけですよ。」
「そうか。もっと『世界を滅ぼしたい!』とかいう阿呆な理由かと思っていたが、存外真面目なのだな。」
人間をなんだと思っているんだ。
「で、何で私に声をかけてきたんですか?」
「特に意味は無い。」
なん…だと…。
「用がないなら呼ばなくていいじゃないですかーっ!」
「仕方ないだろう!こんなところに来る物好きがいないのでな…その…話し相手がいないのだ。」
「…は?」
思わずポカーンとしてしまった。え?要するに寂しかったと?
そう思った途端にこの白蛇が可愛く見えてくる。
「そんな哀れみのこもった目で見るな人間!」
「いや…だって最強の生物とも言われるリヴァイアサンが寂しいとか、なんか考えただけでおかしくて…」
「まだ我を愚弄するか!」
次の瞬間、リヴァイアさんが私の首に噛みついた。恐らく頸動脈のあたり。
「いっ…」
ドクドクと血が流れる。痛い。そして座ったまま仰向けに倒れる。
「フン、この程度で死ぬとはやはり人間は脆いな…ん?」
「…まあ私の場合は蘇生するんですがねー。」
「…は?」
まあ目の前のただの人間が不死持ちとか普通思わないからびっくりするのはわかるけどね?
「ただの人間ではなかったのか?」
「まあそんなところですかね。」
まだ信じられないのか、私の体によじ登って首をまじまじと見つめる。あの…くすぐったいんですケド…。
「傷一つないのだな…」
「一応痛いんですよ?」
「それは…すまなかったな。我にも過失があった、謝ろう。」
バツが悪そうに言う。
「…そんなことより、その「人間」とか「貴様」とかやめて下さいよー。私にはちゃんとレミって名前があってですね…」
「人間は人間だろう?我は人間と対等の位置に居るつもりはない。人間なぞ下の下の下の下の下の下の下だ」
「厳しいですね。」
ぷいっとそっぽを向くしぐさが可愛い…
「…何だその子どもを見るような眼は」
「可愛いです」
「うるさい」
目を輝かせる私とは反対に、うんざりした様子のリヴァイアさん。
「全く…変な奴に関わってしまったな。」
「もう来てほしくないんですか?」
「そういう意味では…」
「じゃあどうしてほしいんですか?ちゃんと言ってもらわないと困りますよ。(ニヤニヤ)」
「う、言えばいいのだろう!」
「そうですよ、正直が一番ですよ(キリッ」
「その…できればまた、来てほしい。」
ツンデレ!?
「ツンデレキタ!かつる!」
「なぁっ!?な、何を言うか!?」
吸血幼女といい、ツンデレ神話生物といい、ここは天国ですか?
「高飛車も良いけどツンデレ可愛い…!」
「我が可愛いだと!?目が腐っているのではないか!?」
「腐ってませんよー鏡見た事無いんですか?可愛いですよリヴァイアさん。」
「くそう…我が本来の力を出せれば貴様など消し炭にしてやるのに…」
いやいや、そんなに睨んでも無駄ですよ…むしろそのくりくりした目で見つめられるとかご褒美((自重
そんなこんなしているうちに、日が暮れてきた。
「あれ、もうこんな時間か…」
「帰るのか?」
「そうですね。あまり遅くなるとリヴィアが心配しますし。」
「リヴィア…?姫君の事か?」
姫君?
「噂をすれば姫君が人間を探しに来たようだぞ。」
ほんとだー。何かよく見たら凄い速さで飛んできてるけど大丈夫かな?
「れみぃーーーーーっ!」
「ごふっ…」
ですよねー。高速の頭突き喰らって池にダイブしますよねー。
「寒っ…。」
「こんなところで何やってるの?」
「突き落としたのは姫君だがな。」
『姫君』という言葉を聞いて、リヴィアの動きが止まる。
「…。」
「リヴィア、どうしたの?」
そのまま何も言わずにどこかへ走り去ってしまった。
「リヴィア?ちょ、ちょっと待ってよ!」
「恐らく魔王のところだろう。」
なんでリヴィアが魔王様のところに行けるのさ?
そう思って首をかしげていると、
「姫君は今まで隠していたとは不覚だったな。人間、我を連れていけば魔王に謁見できるが、行くか?」
「…リヴィアが魔王様のところに居なかったらから揚げにして食いますよ?」
色々ふに落ちない点もあるが聞いている時間は無いし事態は急を要する(気がする)ため、とりあえずリヴァイアさんを腕に巻きつけた後、リヴィアの後を追って走り出した。
「とりあえず魔王様の部屋の前に来たんだけど…」
何かごっつい人が前に居るよぉ…
「下っ端が何の用だ?」
「我に任せるがいい。」
困り果てて目を向けると、リヴァイアさんは自信満々の表情を見せる。
「雑魚にかまっている暇はない、魔王に会わせろ。」
「…ここを通すわけにはいかないな。」
「な…わ、我はリヴァイアサンであるぞ?」
「そのちんちくりんな姿で大ボラを吹いたものだ、見逃してやるから早く去るんだな。」
そんなやり取りをしていると、中から声がかかる。
「あー、その二人入れちゃっていいですよー。一人と一匹か。」
「…は?」
「私とリヴィアの友達ですから。」
「ま、魔王様のご友人でしたか!失礼しました。」
「…任せろって言ったのは何処の誰でしたっけ?」
「ぐっ…我の溢れ出るカリスマに気づかない奴が悪い!」
魔王様の部屋ってもっとこう…豪華なものだと思ってました。案外シンプル。
「ほへー」
「田舎者丸出しだな、見とれるなこんな殺風景な部屋で。」
とか言ってるけどリヴァイアさんも口あけてキョロキョロしてませんか?
「どうしたんですか?こんなところに来て。」
「あ、リヴィアがそちらに来てませんか?」
魔王様が座っている椅子の後ろに目を向けると、リヴィアが体育座りしている。
か、かわいい…じゃなくて、ホントにいたよこの子!
「ここに居るよ。ほら、隠れてないで出てきなさい?」
「だってぇ…」
「リヴィア、隠していたのは君なんだから、ちゃんと謝りなさい。」
優しいながらも厳しい口調で促す魔王様。姫君って言ってたし、本当にこの二人親子なのかな?
「でも…」
「魔王、何も姫君だけに非があるのではない。」
「は?君がリヴィアに謝るのは当然のことじゃないのかい?」
すっごくいい笑顔なのに目が笑っていませんよ…。
「…まあ、君も事情を知らなかったから仕方ないんでしょうけど。」
ため息をつく魔王様。ふつくしい…。そしてよほど魔王様が恐ろしかったのか、リヴァイアさんが腕に巻きつく力が強くなった気がする…。
「…と、話がそれましたが、この期に言ってしまうのも良いですかね。」
「まお…お父様、ちゃんとレミィにはわたしから言う…。」
ホントに親子なのか。でも、確かに目元とか似てる所はあるよね。逆にすっきりしたかも。
「だまっててごめんね…?レミィには言ってなかったけど、私、まお…お父様の子どもだったの。わざと隠したんじゃなくってね、いつかちゃんと話せるときになってからって思ってたら、いつの間にかこんなに時間が経っちゃったの。」
しょんぼりとしながら震える声でリヴィアが告げる。何かきっかけがあれば泣いてしまいそうだった。それでも私に心配をかけたくないのか、一生懸命に私の方を見て話してくれている。
かわいい。…どう見ても私変態です本当にありがとうございました。
上目遣いとか反則の極み。
「でもリヴィア…様?って魔王様の娘さんなんですよね?敬語使わないと不敬って事になってしまうんじゃあ…」
「あ、別にいいよ。むしろ君や勇者君にはいつも通りリヴィアと接してもらいたいから。」
リヴィアも魔王様の後ろでコクコクと頷く。
「うちの使用人や兵士たちは忠誠心があるのは良いんだけど、必要以上にリヴィアの事まで敬うから、寂しい思いをさせてしまってね…。しかも何故か急に『私、お姫様にならない!』とか言って兵士と一緒になって鍛錬し始めるし…その上才能見出されちゃってそっちの道に行く羽目になるし、おしとやかに魔法とか教えるつもりだったのに…もう私にどうしろと?…コホン、ちょっと愚痴が出てしまいましたね。」
ちょっとどころか話の半分以上愚痴だった気が…。
「魔王はそういう奴だ、諦めろ。」
「とにかく、これからもいつも通りリヴィアと一緒に居て良いってことですよね?」
「そうなるかな。くれぐれも、娘に変な虫が付かないようによろしく頼むよ?」
「魔王、主旨が変わっておらぬか?」
言えない…既に私という変態に目をつけられているなんて口が裂けても言えない…!
「まあ、歴代最強魔王の娘となればそう簡単に手を出そうと考える者などそういるまい。」
「歴代最強?」
「うむ、少なくとも八代程見てきたが、我に勝ったのは今の魔王だけだ。我が保証する。」
得意げな顔をするなよこのツンデレめ!かわいいんだよ!
「そうだよ!お父様ってすごいんだよ!」
自信満々のリヴィアを見て癒される私と魔王様。
「顔がニヤけておるぞ…」
流石に最強の生物といえども親バカと変態…ではなく、可愛い物好きには付き合いきれないらしい。
「そうだ、人間、少し魔王と話があるのでな、ちょっと魔王の肩に乗せてくれぬか?」
「ここで話せばいいんじゃないの?」
「機密事項なのだ。」
渋々魔王様の肩にリヴァイアさんをのせる。事情が把握できないんですけども。
「機密?そんな話あったっけ?」
「ほら、魔王様だって知らないって…」
「とにかく、しばし部屋から出て行ってくれぬか。」
「分かりましたけど…リヴィア、行こうか。」
「うんっ」
満面の笑みかわいい。
「魔王、一つ相談があるのだが。」
「何ですか?娘はやらないよ?」
「そういうことではない。」
頼まれることなんてあったかなあ、と首をかしげる魔王。
「何、難しいことではない。単にあの池を出たいというだけだ。」
「海に出たら食べられちゃいますよ?」
「いや、あの人間をもっとよく観察したいと思ってな。それに人間の最終兵器でもある勇者もいる。奴の周りには興味深いものがたくさん集まる性質かもしれん。」
魔王は少し考えた後、
「分かりました。」
と、肯定を返した。
「そのかわり、と言っては何ですが、リヴィアやレミさんに危険のないようにお願いしますよ。むしろリヴィアは貴方が盾になってでも守れ。」
「フ…愚問だな。人間二人と吸血鬼を守護することなど造作もない。」
そういって、一人と一匹は不敵な笑みを浮かべる。
「決まりですね。」
「おそいね。」
「何を話しこんでるのかな?」
そんなことを話していると、ドアが開いた。
「レミさん、一応貴方にも確認を取っておきますが、リヴァイアサンがあなたを行動を共にしたいとのことで…。」
「は?」
「先程我が決めた、嫌なのか?」
別に、そういうわけじゃないですが。寝耳に水すぎて自体が把握できないよ…。さっきはまた来いって言ってたくせにー
「嫌でないのなら決まりだな。」
いつの間に私の肩によじ上ったのか、リヴァイアさんが私の頬を舐める。…そしてそれを見てあまりおもしろくなさそうな顔をするリヴィア。どうしたんだろう?
「よろしく頼むぞ、レミ。」
「え、今なんて…」
デレた?デレ来た?
なんか今ので事態の把握とかもうどうでもよくなっちゃったよ。
「ともかく、こちらからもよろしくお願いしますね、リヴァイアさん。」
「…我はリヴァイアサンであって、リヴァイア『さん』ではないのだが…。」
なんか言われたけど気にしない。だってリヴァイアサンさんって語呂悪いし、いくら本物って言われても、見た目がどう見ても威厳感じないし。
「わたしはよろしくないーっ!」
リヴィアが不機嫌な理由がちょっとわからないんですが。
というわけでフォルツ君に事情を説明しないとね。
少女説明中…
「リヴィアが魔王の娘?」
「うん」
「魔王子持ち?」
「うむ」
「てかその蛇何?」
少女再度説明中…
「なるほど分からん」
「分かれ」
かなり混乱しているようだ。主に私の肩に乗っている蛇に対して。
「リヴァイアさんについては、まあ仕方ないよね」
「我の溢れ出るカリスマが分からないとは…」
「俺も伝説で聞いたことはあったけど、魔王が倒してたのか。」
まあ、そういうことになるかな。
「…勇者、あまり我を見くびらぬ方が良いぞ。確かに今は力が出せぬが、本来の力さえ出せれば貴様など」
「はいはいけんかしないでねー」
ごたごたが収まって一段落ついた後、私はぼうっと夕焼け空を眺めていた。魔界であろうが日本であろうが、夕焼けがきれいな事に変わりは無いんだね。
「…またおかしなのが増えたなぁ。」
そんなことをつぶやきながらも、今日の事を思い出してクスリと笑う。
「でもやっぱり楽しいな。」
「何を言うか、一番おかしなのはお前の方ではないか。」
あら、聞かれてたか。
「ただの人間だと思っていたが、まさかあんな特殊な者だとはな。それとも、すべての人間が不死なのか?」
人間は脆いって言ってたくせによく言うわ。
「それにしても、当分は退屈しなさそうだな…早く死んでくれるなよ。」
「善処しますよ。」
そういって私は苦笑する。
今日は色々あって大変だったなあ。