表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

貴族の息子アトヘルツ

 めでたしめでたしっぽくなってから数日後。

 ナノセントは、貴族のドラ息子と差し向かいになってしまった。


 アトヘルツは、権力をかさに着まくる、貴族のろくでなしドラ息子だ。


 ライオネストとアトヘルツが竜騎士養成学校に入るまで、ナノセントもみんな同じ学校に通っていた。

 アトヘルツは、やせ形で肌色は白く、キツネ顔。典型的ないじわる顔をしている。


 ナノセントは、竜騎士演習場へ見学に向かう途中、人気のないところで、アトヘルツと鉢合わせた。




 *




「借金のカタになったんだってな!」


 アトヘルツは、自分より頭半分小さいナノセントを見下ろす。

 ナノセントは、歩きながら、無視して通りすがろうとする。

 しかし、向かってくる通行人を避けようとして、図らずも二、三回ディフェンスしてしまった時のように、何回も進路を阻まれた。


「……」


 ナノセントは、アトヘルツの噂を思い出す。

 恐喝とか暴行とか、事件をカネで揉み消したとか。鵜呑みにするわけではないが、何それ怖い。

 借金のカタのネタを振り続けるアトヘルツに、ナノセントは反論する。


「よく知らないけど、それはもう、払い終わったって……」


 ナノセントは、しまった、相手をしてしまった。と思うが、アトヘルツは水を得た魚の様に、ぴちぴち動いた。嬉しそうだ。

 どうやら、ナノセントの家に、理不尽な負債を吹っ掛けてきたのは、アトヘルツの家らしい。

 アトヘルツは、難癖を付けた。


「利息とか延滞料とか、色々と言い方はあるんだよ」


「えぇ~……」


 面倒なのに捕まってしまった感を出すナノセント。


 アトヘルツは、ナノセントの腕を拘束する。

 言い合いをする程度には、交流があった。しかし、ナノセントは不思議に思う。どうしてこの人は、人の嫌がる事をするのだろうか。

 にわかに腹も立つ。もしかして、人を怒らせようとしてるのだろうか……。


「嫌がる女の子の腕を引っ張っちゃいけないって、お母さんから教わらなかったの?」


「嫌がる人間を、カネと暴力で組み伏せてからが一人前だと言われてますが何か」


「……」


 アトヘルツの言ってる事は冗談なのだと、ナノセントは思う。

 が、ドラ息子貴族のお前が言うと冗談に聞こえない。とも思った。


 しかしこれでいて、アトヘルツは、本当にシャレにならないことはしない。

 貴族の権力を目当てに、アトヘルツに近寄る人は多いが、それ以外の人たちもいた。




 *




 バサッ


 突如、羽ばたきが聞こえた。


 ドカッ


 滑空してきた騎乗竜ライナーノーツが、アトヘルツに鳥キックをかましたのだ。

 ライナーノーツの後ろ片足を受けたアトヘルツは、きれいに横転する。

 うまく入ったのか、派手な動きの割に、大した怪我はない。


 都合よく現れた救世主に、ナノセントの、ライナーノーツへの好感度が加速する。

 ライナーノーツの背には、竜騎士ライオネストが乗っている。


「俺は無実です」


 ライオネストは、貴族の息子アトヘルツに主張した。


 このままライナーノーツを御せなければ、アトヘルツに噛みつくか、ナノセントに抱きつくか。ライオネストの、竜騎士としての腕は試された。

 ライナーノーツに乗ったまま、じたばたしてる。


「ライナーノーツ!!」


 ナノセントはライナーノーツの顔にしがみついた。

 ライナーノーツは落ち着いて、ぼふぼふ言う。落ち着いてるのか? ライオネストは警戒しながら、ライナーノーツから降りる。


 その時に目撃した、騎乗竜ライナーノーツと巫女見習いナノセントを見る、貴族ドラ息子アトヘルツが不憫だった。


 ライオネストは、当て馬とか報われない恋とか噛ませ犬とか、世の中の割り切れない物事に思いを馳せる。




 *




 騎乗竜ライナーノーツの影で、ライオネストはナノセントに言い聞かせる。


「またアトヘルツに絡まれてたの……。でもまぁ、あいつは本当に好きな人にも、ああいう風にしか構えない、可哀想な奴なんだよ……」


「……!?」


 ライオネストが持っていこうとする推理に、ナノセントは驚いて否定する。


「好きな子いじめって言いたいの? あれは単に性格が悪いだけじゃ……」


「まあ、そういう場合もあるけどね……」


 真相は闇の中だ。

 ライナーノーツの横蹴りからすでに立ち直ってるのに、まだそこにいるアトヘルツが、


「なななそんなわけなっない!」


 って喚いているが、真相は闇の中だ。

 アトヘルツのまわりには、一人、小股の切れ上がった良い人系ギャルがいた。アトヘルツの愚行に、「まったくもうバカなんだから!」と、一々愛のある目くじらを立てている。

 ナノセントは、早く保護者的なその人が、ここに迎えに来てほしい、と願っていた。


「でもナノちゃんは、ライナーノーツが好きなんだよね」


「え、……う」


 ナノセントは俯いて、「うん……」と小さく返事をした。


「えっなにこの……なに……両思いなんて滅びれば良いのに」


 ライオネストは言葉とは裏腹に、爽やかな笑顔で、ナノセントとライナーノーツを祝福した。


 ライナーノーツの顔に持ち上げられて、ナノセントのつま先は浮きあがる。

 恋の一方通行が錯綜しつつも、様々な思惑により、色々な物を越えて、道が通じる時があるのかもしれない。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ