竜騎士ライオネスト
ナノセントは竜が大好きだ。
こうして演習場で、竜たちをストーキングするほど大好きだ。
国内には数多くの養成学校や、牧場がある。
そして世界中に、人気のある騎士と竜がいる。
赤い火竜に、燃える闘志を持つ熱血攻撃型竜騎士。
黒い鱗に金の瞳を持つ大型竜と、銀髪のクール重騎士。
水色の海竜と、薄い金髪のエロカッコイイ女性竜騎士。
騎士と竜は、基本的に決まったパートナーと組む。
個々の能力よりも、相性重視だった。
強い絆を持つパートナー。ナノセントは、そういう竜騎士には、ほど遠い。
竜フェチの巫女見習いでしかない。
*
ナノセントが空を見上げる。うららかな快晴だった。
ナノセントが現在、見学している演習場は、一般人も自由に出入りできる所だ。
こうして観客がいるのは、竜騎士にも騎乗竜にも、励みになるのかもしれない。
とは言え、大抵の常連さんは、関係者寄りの一般人だった。
ナノセントも、幼馴染みが竜騎士でなかったら、この演習場に来ていない。ましてや通い詰めるなど。
ナノセントと幼馴染みとは言え、最近は疎遠だった。
こないだの祭典試合で久し振りに会って、仲良くさせてもらってる。
休憩の時間が来て、幼馴染み、ライオネストが、ナノセントの姿を見つけた。
*
騎乗竜ライナーノーツの乗り主ライオネストは、明るい色の髪と瞳をしている。
均整のとれたかっこいい容姿で、笑うと愛嬌のある印象だ。
竜騎士として鍛えられた体。
ハツラツとした表情は爽やか。
スポーツの一種となった大会試合に出れば、賞金荒らし。
人々の覚えもよく、国からの栄誉や名誉を縦にする。爆発しろ。
人格の評判も良い。上の者からは可愛がられ、下の者からは慕われる。
家が隣ってだけなのに、昔と変わらず親しげに、ナノセントに声を掛けた。
「ナノちゃーん!」
ライオネストは、誰にでも気さくな、良い奴だった。
ナノセントの知る限り、女性人気もマアマアだったが残念。現在のライオネストは、行きつけのパン屋さんにジレジレしているヘタレだ。
毎日通うとは、いじらしい奴。
ナノセントは、ライオネストを痛ましい目で見る。
人によってはストーカー認定されてしまう頻度だが、一定の節度は保っているようだ。ナノセントは、知人のよしみでセーフとした。
社会的地位の充実者とは言え、恋の奴隷でしかなかった。
お前にも手に入らない物があるとは。
憎めない奴……。
ナノセントは、こちらへ向かってくるライオネストに、声を返す。
「ライオネスト」
「やだな。昔みたいにライちゃんって呼んでよ」
「くねくねするな」
ナノセントは、身をよじって、おばちゃんみたいに手の平をパタパタするライオネストを、少し厳しい目で戒める。
ライオネストは昔から優しい性格だった。それはむしろ……、
「私にお姉ちゃんがいたら、ライちゃんみたいだったのかな……」
「えっ、やだなもうっ……」
ナノセントの遠い目をした寸評に、ライオネストは満更でもない。
「ナノちゃんがライナーノーツのお嫁さんになったら、俺の義妹みたいになるんだよね」
まさかの、お姉ちゃんノー否定。
ナノセントの心は、かすかな衝撃と生暖かな優しさが、ないまぜになる。
ちなみにライオネストが通ってるパン屋さんは、黒髪ショート大変健康な爽やかお嬢さん。のはずだ。
なんだかんだ言って、ライオネストは、異性の好みまで好感度が高い……。
*
ナノセントが、騎乗竜ライナーノーツと婚姻を結ぶかも、しれないかもね。という情報は、乗り手であるライオネストにも届いている。
ライオネストは、自分のまたがっている騎乗竜ライナーノーツをなでる。
騎乗竜ライナーノーツは、白地に黒いブチ模様。手足が四足地面について、尾が長い。
黒いツノは細く真っ直ぐ、左右対称に生えている。
騎乗竜ライナーノーツは、ライオネストから、やや長い首をなでられて、落ち着きを取り戻した。
ちょっとそわそわしていたのだ。
ナノセントは、ライナーノーツの様子を見る。装備は手入れが行き届いて、かっこいい。
乗り主のライオネストは、
「ライナーノーツも、ライちゃんになるよ」
「あっ本当だ」
などと世間話をしながら、じりじりとナノセントに寄りたがるライナーノーツを制御している。
ナノセントは、騎乗竜っていうのはそういう物なのか、という風に見てるけど、そういう風じゃないよ! いつもはもっと動かないんだよ! とライオネストは苦心する。
ライオネストは、騎乗竜ライナーノーツの様子と、ナノセントの興味津々な様子を見て、好意的な提案を繰り出した。
「ナノちゃん、乗ってみる?」
パンパァンッ、と自分の両膝を手で叩いた。
「こいつも、ナノちゃんなら大人しく乗せてくれると思うよ」
「え? そ、そうなの……? 乗っても良いの?」
ライオネストの言う意味を判断しかねているナノセントだが、騎乗竜には乗ってみたかった。
そのとき、騎乗竜ライナーノーツが、ささっと素早く身を低くする。
「……」
「……ねっ!?」
少し間をあけて、ライオネストはナノセントに笑顔を向けた。
「ねっ!? って。ライちゃんも今、ちょっとびっくりしたよね? 竜ってかしこいね!」
「う、ん……、そうだ、ね」
ライオネストは、何だかぎこちなく相槌を打つ。
*
乗り主ライオネストは、ナノセントが足を揃えて横乗りをするのを手伝った。
交流会などで、小さい子を乗せた事があるので、すぐに安定した位置を取らせる。
ライオネストは確認するように、「よし!」と呟く。
それが合図だったかのように、ライナーノーツが身を振った。
絶妙に上下した背中の動きで、ライオネストは、「ひゃんッ」と、妙な悲鳴を上げて吹っ飛ぶ。
ナノセントはライナーノーツの首にしがみついて、落とされなかった。
あとライオネストの甲高い悲鳴にびびって、悲鳴を上げ損ねた。
騎乗竜ライナーノーツは、数歩、ライオネストから距離を取った。
てってってっ
そして小気味よさそうに、尻餅をついたライオネストを見返す。
それはまるで、「背中に乗せた、この生き物は、自分のものですから! ひとにはあげませんから!」と誇示してるようだ。
騎乗竜ライナーノーツと乗り主ライオネストの、目と目で通じ合う様子に、仲が良いんだな、とナノセントは思う。
うんもーう、って感じのライオネストは、ライナーノーツを追い払うように、手を振った。
「良いよ……。行っといで」
「えっ」
ナノセントは、流れについていけない。
ナノセントはライナーノーツの背に乗って、遠乗りへ向かわれたのだった。
遠のくライオネストに、ナノセントは目で説明を求める。
それは、やんわりと無視された。
ライオネストはにこにこーと、お見送りに手を振った。
「え~……」




