第一章 ニートの始まり
えー作者のかつおだしです。
この物語はニートの物語であり、少し歪んだ日本を書いております。
初めて小説を書いたので、こんなものかーと思いながら読んでいただけると幸いです。
少し、苦手な人もいるかもしれませんが今後とも続けていくのでよろしくお願いいたします。
ネットサーフィン。
インターネット上のホームページを検索しながら次々と閲覧して回ること。仕事で情報を検索することのほか、趣味であてもなく世界中のホームページを見て回る人たちも多い。という意味。(Yahoo!辞書より)。
つまり、俺は今、それをしている。
仕事でではなく、単に、趣味でもなく。
することがないからネットサーフィンをしている。そんな日々が続いていた。
俺の名前は、白久那貴畑。今年で十九だ。
世間一般で俺のことを、別名……、
ニートと呼ぶ。
だが、そんな自分を変えたいと思わない。
寧ろ、今の自分の方が楽で良い。
週四日、コンビニで働き、バイトが休みの日には外に出ず家でずっとパソコンをしている。
そんな生活、嫌いじゃない。寧ろ、快適だ。
あーあ、働く気無し。働くなんてまっぴらだ、ごめんよ。
真面目に働いている人に対しては失礼になるが、働く定義を懇切丁寧に教えてもらいたいものだ。
ま、聞いたところで何も変わらないがな。
お前もそう、思わないか?
Balloon>> そうだな。俺も働く気は無い。
この人は、俺のネットのトモダチ、バルーンさんだ。もちろん、俺と同じ、ニート。
この人とは何を話しても気が合う。俺も心からネットのトモダチと呼べる人だ。
White>> やっぱ、そうですよね。俺の親が「働け、働け」とうるさいんですよ。まったく、何とかなりませんかね?
Balloon>> ハハハ。だがなWhiteさんよぉ。言ってくれる内が、花だぜ。俺のところは何もいわねぇぞ。もう、見捨てられるZE☆
White>> いやいやぁー。良いじゃないっすかー。羨ましいー。
あ、ちなみにこのWhiteっていう奴、俺だから。
Balloon>> そういや、Whiteさんの経歴とか、知らないですね~。良かったら、教えてもらっても良いですか? あと、年齢も。
ん? 経歴? そんなもん知って得するのだろうか?
ハテナマークが頭から離れられないが、一応、打っておこう。
White>> 高卒で、十九っす。けど、急にどうしたのですか?
Balloon>> あ、いや。興味本位だよ。興味本位。デュフフ。今からちょっと秋葉原行って来るでござる。
White>> 確か、今日は『魔法戦隊ビジュアルメロン』の数量限定、メロンちゃん二分の一スケール、限定品のフィギュアの発売日でしたねー。
Balloon>> そうでござる。デュフフ、待っててよ~メロンちゃーん。
White>> マジきめぇ。それじゃあ、もう寝ます。
Balloon>>オヤスミー。
パソコンを閉じる。ちなみに、フィギュアに対して、まったく興味が無い。皆無、無論、絶無だ。
ゆっくりと布団に潜り込み、静かに寝た。
まったく、これからあんな物語が始まるとは予想なんてできるはずが無い。
①
体が重い。
脇腹が痛い。
足、攣りそう。
最悪だ、これが、いつもの朝の始まり方。
布団からゆっくり起き上がるとカーテンを開け、お日様を毎朝、体全身に浴びて、
よし! 今日も一日、ぐーたらしよう!
という、気分にするはずだった。のに……
曇りだった。
「はぁー、お日様ー。日光をおらに分けてくれー」
ごめんなさい。いろいろと過ちをしてしまった。
さておき、朝食を簡単に済ませるか、と思っていたら、残念なことに朝食用の食材がまったく無い。
「おいおい、コレは外に出る必要があるのかよ」
朝から動くのは白久那にとって苦痛だった。
だが、出ないといけないだろう。と思い、外に出た。
白久那はアパート住みだ。家賃は激安という香りにつられたので安いわけだが、このアパート何かと不便だ。
「おはようございます。白久那さん」
「あ、おはようございます。大家さん」
この人は俺が世界で二番目に心から信頼できる人だ。名前は確か、石原千恵さんだったっけ? いつもは「大家さん」としか言わないから忘れてしまっている可能性がある。
お年寄りなのだが、とっても優しい。優しすぎて結婚したいぐらいだが、もちろん既婚者だ。
「どこか、お出かけですか? 白久那さん」
「ああ、買い物です。少し、材料が足りなくて」
「そうでしたら、何か差し上げましょうか?」
心の中で、感動している。こんな惨めな俺に優しく差し伸べる手。ああ、温かい。あなたは聖母様でしょうか?
「ありがとうございます! ですが……こう、いつもいつも貰い過ぎて何かと申し訳ない気がします」
「あらあら。こういうのは何もいわずスッと貰っておくべきですよ」
びえーん、と号泣してしまいそうだ。もう、抱いてください。
「今回は、遠慮しておきます。また今度、よろしくお願いします」
「いえいえ、ではいってらっしゃいませ」
あんな奥様が欲しいものだ、と思いつつ、長生きしてください大家さん、と切に願った。
徒歩十分。近くに大きなスーパーマーケットがある。そこでいつも、白久那は食料品を買い占めている。
「ん~米あったっけ~? いや? なかったかな?」
一応、再確認。私、ニートでございます。
まるで、主婦のような考えをしているが、ニートでございます。はい。
続いて、野菜コーナーへ向かおうとした時、なぜか男性と肩がぶつかってしまった。
「あ、すみません」
「いえいえ、こちらこそって……お前……」
「お、大蔵……」
「は? 俺、高杉だけど」
「え? 身長高すぎ君?」
「てめぇ、調子にのるなよ」
「なぁんて、いつもふざけていたな。大蔵」
「最後まで押し切る気かよ。まったく、その性格直らないものか? 白久那?」
懐かしき友の高杉健作。昔は、部活動でトップの座を争っていたものだ。中、高校と同じ学校でサッカーをしていた日々。今となっちゃ昔話だ。
「なぁ、白久那。お前はまだ十九だろ。だったら……」
「サッカー、もう、やめた」
「な、何でだよ!!」
大きなスーパーマーケットでの野菜コーナーで怒声が店内を響かせた。周りの客はすぐさま俺たちから身を遠ざけた。いきなりの声のでかさに白久那自身も反応が少し遅れた。
「おいおい、サッカーバカ。大きな声をいちいち出すな」
「もう、俺のことで悔やまなくてもいい! だから、俺は……お前にサッカーを」
「やらない」
何を言われようが、自分で決めたことだ。説得なんてさせるものか。
「俺はもう、行くぞ」
「おいっ! 待て! っつつ……」
白久那は高杉に背中で対応した。
「すまなかった、高杉。もう、俺には構うな」
「ふざけんじゃねぇぞ!! お前に心配なんかした覚えはない!! だから、だから……」
「ありがとな。俺の親友」
そのままスタスタとお会計と書かれてあるレジまで直行した。
一度も振り返らずに。
背中は高杉に優しく語った。
もう、俺には構うな
と。
②
スーパーの袋を提げて時計を見る。
午前十時二十六分。
さて、今日も一日、することがねぇ。
だって、ニートだもん。ニート最高ー。
「あら、もう帰ってきたのですね?」
「あ、大家さん。はい、ただいま戻りました」
「白久那さん。さっきご主人が仕事へ行ったのですが少し、お味噌汁が余ってねー。よかったら、お少し貰ってはいただけないでしょうか?」
うひょー! きたよ! 大家さんの手作りお味噌汁。朝っぱらから元気が出るものがいただけるとは嬉しいね。大変ご満足。
「はい。貰わせていただきます! ちょっと待っててくださいー。今、何か器でも持ってきますー」
「はーい」
家に帰って何か適当な大きさの器が無いか調べていった。ったくクソッタレ! 手頃な大きさの器が一つもないってどういうことぞ! あーあ、初めてニートで損したわ。
そんな時、ふと目に入ったのがコップ。
「これでいいや」
食えりゃいい、何でもいい精神だし。
さぁて、さっそくお味噌汁をいただいてさっさと朝食を済ませるかって、思っていたら異様な光景が目に映ってきた。
大家さんに誰かが話しかけている……。
ドアの隙間からよーく見てみたが何者なのか見当がつかない。
わかるのは大柄な男三人組で、黒いスーツを着こなしている。
「は? 誰?」
大家さんの知り合いか? しかし、あんな怖い人たちと知り合いだったら逆にすごいな。
とりあえず降りて確認してみようと思った。
「大家さーん。その人たち誰ですか?」
「あ、白久那さーん。あのひとが白久那さんですよ」
「君が白久那君かね?」
「あ、はい」
背、高すぎ。
何メートルあるんだ? こいつ巨人族かよ。しかも、三人も。三つ子かよ、おい。
俺が答えると後ろのベンツ? らしき車から俺と同じぐらいの身長の男性がこれまた、黒いスーツで車から降りてきた。俺の身長が大体一七五センチぐらいだから……。
つーより、誰だこいつら? 濃い面しやがって。
「誰なんですか? あんたら」
「失礼しました。私たちこういうものでして」
と名刺を見せてきた。
ん~何々? 『ニート更生委員会』? 代表取締七支部所長 牧野竜司
は?
は? は?
は? は? は?
ニート更生委員会? え? ナニソレ?
「あのー『ニート更生委員会』というのは一体?」
「よくぞ! 聞いてくれた!」
俺と大家さんは、急に声を大きくした牧野にびっくりした。コイツ、急にテンション上げやがってどういうつもりだ?
「ニート更生委員会……とは!! いったいどういうものかご説明いたしましょう!!」
ごめん。テンション抑えて。
「まず、この世で働かない若者が急増しております!! それを社会では一般にニートと呼ばれます。ニートの増加は社会の老廃!! だからこそ、私たちニート更生委員会の社員がニートの家に訪ねてニートを更生する、つまり!! 仕事の楽しさを教えに行くのが私たちの仕事!! さて、本題に入りますが、白久那貴畑さん!! あなたは一年間以上、本職に就かずアルバイトのみで生活をしていた。まさに!! あなたはニートです!!」
「そうですが、何か?」
あと、最後のドヤァは腹立つぞ。牧野。
「まさにその行為は法律違反!! 第二八四三条に違反しております!!」
「はぁ? ふざけんな! でたらめだな。まったく……」
「コレを見てください。昨日の新聞です」
「昨日の新聞? 一体何がかかれてあるんだよ?」
そこには、信じられない記事が一面を飾っていた。
第二八四三条、ニート取締法施行。一年間、本職に就かなかった者はニートと扱われ厳重に処分致す。
なお、ニートの更生はこの法律に全権を託された「ニート更生委員会」が期間を定める権限を持ち、あらゆる権力によって侵害されることは無い。この権限は国家権力と相当するものであり、この法律に反する一般市民でも厳重に処分を致される。
「は……な、なんだよこりゃ。ふざけんじゃねぇぞ! 何でこんな法律が定まったんだよ!!」
「その下を見てみな、ニート君」
白久那は言われたとおりに記事の後半部分を見てみると、またもや信じられない文面が載っていた。
第二八四四条、社会貢献者利益法施行。ニート取締法と同時に施行された法律である。社会に五年間以上貢献した者は次のような利益を受ける権利を持つ。
その一、このまま、社会に貢献するのであれば、滅多なことが無い限り永久にリストラされない権利を持つことができる。
その二、家庭を持っている既婚者であれば、その夫婦は死ぬまで、電気代、ガス代、水道代などの公共料金の価格を一部カットする権利を持つ。なお、結婚していて働いていない方の者、つまりは夫、または妻も利益を受けることが可能である。さらに、子供がいる場合、満十八歳まで学費は全額免除、医療費も免除され食料費も一部、免除される。子供一人に対しては毎月、一万円の支給、二人目からは四万円、三人だと九万円、毎月、国から支給される。
その三、まだ未婚者でも利益が得られる。毎月、国から一万円支給され、一部の税金を免除する権利を持つ。しかし、結婚すればその権利は消える。なお、消費税の一部が減税される。
その四、なお、今、働いている者、もう定年退職した者でも近くの市役所などが調べ永続的に働いていた証明ができたのであれば利益を受けることが可能であり、既婚者、未婚者その双方どちらでもかまわないとする。
その五、特別に社会に貢献できたものは、もっと良いものを受けることが可能である。
これで、全文だ。アホくさい。としか言いようが無い。
高校で習ったことがある。これは単純な「アメとムチ」だ。アメを頂く人間は働く者、ムチで叩かれる者はニート。つまりは、ニートを完全に隔離しようとしたり、無理やり仕事をさせたりする。
いわば、拷問だ。
「な、何だよこりゃ……」
あまりのことに言葉が出ない。
それは、何故か大家さんもそうだった。
「あの、私は、一体どうなるのですか?」
新聞を見せてきた牧野は優しく言った。
「奥様は大丈夫ですよ。きちんと何かしらの利益は来ます」
「ならば、彼は……?」
「ああ、彼ですか」
彼とは一体誰のことか? なんて現実逃避がしたかったが逃げられるわけも無かった。
「彼はニートです。社会のゴミです」
「ゴ……ゴミ……」
「クッ」
唇を噛んでしまった。いや、拳も強く握っているようだ。
だが、
自分はこんなことをふと思ってしまった。
彼らの言うことは正しいのではないか?
いやいやいやいや。信じるな。バカか俺は。こんなもんクソくらえだ。
ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。
「おい、連行しろ」
「さぁ、来るんだ」
男三人が俺の腕を押さえつけてきた。
「放せよ!! 俺はまだ、信じちゃいねぇぞ!! 俺らには、いや、俺らニートにも権利はあるだろうがよ!!」
「あのね、白久那君。この世にはね益虫と害虫がいるんだよ。もちろんだが益虫は大切にする。さて、害虫はどうするかな? もちろん駆除するに決まっているじゃないか」
「俺たちを害虫に例えるなああ!!」
「ああ、うっせ。働かずしてえさ食べるゴミが。まったく反吐が出る」
「大体てめぇらも、おかしいとは思わねぇのかよ!!」
「はいはい、おらぁ。さっさと回収しろ」
まるっきり会話が通じない。それどころか会話を成り立たせようとする気が牧野には無い。
相手はたかがゴミ。社会にとって不必要なものであり人間とは捕らえていないようだ。
「あの、待ってください!!」
以外にも、大家さんが男たちの行動を一旦止めた。
「何ですか? 奥様。もしかしてこのゴミに何か未練でもあるのですか? でしたらどうぞ、一言おっしゃってください。私たちが押さえつけときますので」
「あ、あの。彼は確かにニートかもしれません。ですが、あなたたちのやっている行動は酷すぎます!」
「まぁ、そりゃそうですね。私たちは嫌われ者かもしれませんね」
「お願いします。どうかこの子にもう一度、チャンスを与えてやってください!」
「え、ちょ、ちょっと、何、頭下げているんですか? 頭を上げてください」
「その子を少しの間だけ見逃してくれるまで頭は上げるつもりはありません!」
目の前で男たちに頭を下げてくれている大家さん。クッ、情けない。まったくもって自分が情けなかった。こんなひとにわざわざ自分のために頭を下げるなんて……お礼を言う言葉がみつからない。
すると、牧野がこんな提案をしてきた。
「あー奥様。でしたら、一ヶ月の間見逃しましょう」
「本当ですか?」
「ええ本当です。ですから、頭を上げてください。お願いします」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
本当に俺も心から感謝しています、大家さん。もう、ニートやめて真面目に働くしかないか。
大家さんもゆっくりと地面につけていた頭を上げていった。
「んなこと言うとでも思ったか、クソババア」
「え」
もうすぐ正午になる時間帯に甲高く銃声が鳴り響いた。
俺はあとで気がついた。
もう、あの優しかった大家さんには会えないと。