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4話、■■クリニック、鈴木さんのご友人との会話


「はい、では本日は鈴木さんの付き添いでご来院いただき、ありがとうございます。鈴木さんの現在の状態をより客観的・正確に把握するために、普段のご様子をよくご存知の立場から、お話を伺いたいと思います。」


「えぇ、よろしくお願いします。」


「鈴木さんが『人の顔が怖く見える』と訴え始めたのは約1週間前からとのことですが、それ以前に、鈴木さんのご様子に何か変化はありましたか? 例えば、ひどく疲労している様子、上の空である、怒りっぽくなった、とかです」


「無いです。この人、本当に普段から理性的な人で、ここまで強く訴えてきたのは初めてで、私も分からないんですけど、彼女は嘘はついてないと思うんです。」


「なるほど。はい、仕事や私生活において、鈴木さんが強いストレスを感じている、あるいは過労気味であるといった様子は見受けられましたか?」」


「私の感知する限りでは無いです。」


「鈴木さんから初めて今回の症状について相談を受けた時、具体的にどのような状況で、鈴木さんはどのようなご様子でしたか? 」


「夜、電話でした。この人、泣いてて。初めてだったんですよ。だから私動揺しちゃって色々聞いちゃったんですけど、本当に怖がってて、自分がおかしくなっちゃったんじゃないかって言ってました。」


「それはいつの出来事ですか?」


「水曜日だったので、4日前の夜です。4時間くらい話して、落ち着かせてから寝かせました。あまりにも、その、おかしくなったというより、本当に怖いものが見えてしまった、っていう感じだったのですぐお祓いを予約して次の日連れて行ったっていう感じです。」


「はい、では一緒にお祓いに行かれたとのことですが、その道中や現地での鈴木さんの言動に、何か不自然な点や、極度にパニックを起こすような様子はありませんでしたか?」


「パニックは無かったです。ずっと怯えてました。ずっと俯いてて、震えてて、『顔が見れない』とか『怖い顔の人が』って言ってました。こんなに頑張ってる人がこんなに怯えてて、可哀想で可哀想で、私も藁にもすがる思いで行ったんですけど、何も変わらなかったみたいで......」


「わかりました。はい、鈴木さんが今回『怖い顔に見える』と挙げられた方々と鈴木さんの間に、発症以前から何かトラブルだったり、強い葛藤があったというお話を聞いたことはありますか?」


「特に聞いてないです。お姉さんとも仲が良かったは聞いていますが、あまり自分の事は話さない人なので。」


「なるほど。はい。今回の訴え以外に、ここ最近で辻褄の合わない発言をする、会話中に急に意識が飛んだようにぼーっとする、独り言が増えたなど、普段と異なる行動を目撃したことはありますか?」


「うーん、そうですね.........、特には無いと思います。」


「では次に、ご友人から見て、最近急激に痩せた、顔色が悪い、といった身体的な変化は感じますか?」


「痩せた......と思います。顔色も良くなくて、割と笑う方だったので......、ちょっと見てられなくて」


「では次に、.........」



────────────

────



「本日はお話を聞かせていただきありがとうございます。

ご友人からのお話も総合して、鈴木さん現在の状況と今後についてご説明したいと思います。」


「はい」


「結論から申し上げますと、鈴木さんに起きている現象は、脳の視覚処理ネットワーク、その中でも特に人の顔を認識する特定の回路に異常が発生している可能性が高いと考えています。」


「......脳の、異常ですか。」


「はい。人間の脳には、目で見た視覚情報の中から『顔』だけを専門に抽出して認識する領域が存在します。ここに血流障害のような異常が生じると、風景や衣服は正常に見えるのに、顔のパーツだけが変形・欠損して見えるという現象が起きます。これを『相貌変形視』と言います。」


「そうぼう、へんけいし」


「はい。現時点で鈴木さんはこれに近い症状であると判断しています。ちょっと詳しく説明しますね。」


「はいお願いします。」


「まず、鈴木さんは客観的な病識を保てていて、症状は顔にのみ限局しています。したがって、統合失調症のような精神疾患ではなくて、こういった神経学的なエラーであると強く考えられます。」


「なるほど、」


「ただ、相貌変形視は通常、写真や動画等の二次元媒体では起きない、という特徴があるのですが、鈴木さんの場合は二次元媒体においても同様の症状が出ているので、やや特殊な症例と言えるでしょう。」


「特殊な症例、ですか」


「ええ。また、他の症状である嫌な声や嫌悪感は、この視覚異常からくる二次的な不安障害として解釈できます。」


「はぁ」


「なので、まずは可及的速やかに脳の物理的な状態を調べる必要があります。近くの大きい病院の神経内科宛に紹介状を作成しました。休日診療となりますが、今日、この後すぐに向かう事はできますか?」


「あ、はい。できます。」


「はい、では会計が済み次第、必ず向かうようにしてください。」


「あと、現在会社に申請されているという完全リモートワークへの移行は、刺激を回避し脳を休ませるための安全確保として、非常に適切な判断だと思います。検査結果が出て治療方針が確定するまでは、現在の環境を維持するようにしてください。必要であれば在宅勤務を要請するための診断書も発行しますが、どうしますか?」


「はい。お願いします。ありがとうございます。」


「はい。ということで、以上が現在の評価と今後の手順です。まずは脳の器質的要因を客観的データの観点から一つずつクリアしていくことが、最も確実なアプローチとなります。未知の症状でご不安かとは思いますが、一つずつ把握していきましょう。ここまでで、何かご不明な点はありますか。」


「あの、これは治りますか?」


「......。現時点でお答えすることは難しいです。まずは原因を確定させないことには、申し訳ないですが、私からは何も言えません。」


「あ、はい。分かりました。そうですよね。」


「はい、他に何かご不明な点等ありますか?」


「あ、はい。多分大丈夫だと、思います。すみません。本当にありがとうございました。」


「はい。ではまた何かあればお気軽にご相談ください。」



────────────────────────

───



「」



「大丈夫?あと30分くらいで着くからね」


「うん。ありがと」


「呪いじゃないってさ」


「うん。よかった、よかった」


「そこまで良かないけどさ、」


「私もう本当に私呪われちゃったかと思って、ほんとに、ほんとに怖くて......ズッ」


「そうね」


「よかった......ズッ.........ほんとによか゛った......ズッ.......う゛ぅ゛ぅ゛ぅぅぅぅぅうっうっうっ......う゛う゛ぅぅぅうぅっうぅっ.......」


「あぁ~、泣かないでよも~。こっちも涙出てきちゃうじゃん。こっちは運転してんだぞ~~」


「う゛ん。ごめ゛んね.........ズッ.............ありがと」


「い~よ~。も~いつからの付き合いだと思ってんのさ。良くなるまでとことん付き合うからね!」




────────────────────────




神経内科でのMRI精密検査の結果

鈴木さんの脳内に異常は発見されなかった。

鈴木さんには抗不安薬が処方された。


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