14話、■■村強盗致死事件_参考人供述調書(録音反訳メモ)
■■村強盗致死事件 参考人供述調書(録音反訳メモ)
場所 ■■大学 人文学部応接室
日時 2019年10月03日
参考人概要
職業 ■■大学 人文学部長
氏名 平山■■
(以下、録音音声文字起こし)
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「では、平山さんにお伺いします。伊藤先生が本学を退職されたのは、3日前の、9月30日ですね。」
「はい、そうです。正確には8月の前半に退職願が提出されて、9月末日付で辞職を承認した形になります。」
「年度の中途で退職で、さらに2ヶ月弱での退職願の提出というのは、大学教員としてはかなり異例ではありませんか? 引き継ぎ等もあると思いますが。」
「はい、もうおっしゃる通りです。ただ、その、ちょっと、色々ありまして.........」
「?あぁ、大丈夫ですよ。この録音は捜査目的以外には使わない形になりますので。」
「あ、はい。では、.............その、怖い、という話が出まして。」
「怖い、というと?」
「......。その、警察の方にこんなことを申し上げるのは非常にためらわれるのですけど、自分がおかしくなってしまった、と言う言葉では到底説明がつかないというか.........その、まるで.........伊藤先生が何かに取り憑かれてしまったようになった、という表現以外、どう説明していいか分からない形で、」
「?、伊藤先生の行動が急に変化したという事ですか?」
「はい、その、言いにくいんですけど、伊藤先生は去年の2月にお子さんを亡くしておりまして。シングルマザーでした。元々は美人な方で、学生に良く好かれる要領の良い先生だったんですけど、事件から1カ月ほど酷く憔悴したと思ったら、伊藤先生の研究室の学生から『伊藤先生がフィールドワークから全然帰ってこない』などと言う報告が挙がってきましてね。」
「なるほど。それで伊藤先生がおかしいという学生の意見が多く見られた。ということですか?」
「そうですね......。どちらかというとその時点では、伊藤先生を慕っていた学生達から『休ませてあげて欲しい』とか『病院に行かせてあげて欲しい』と心配する声が多くてですね。心配だったので近くのクリニックの予約をしたり、少しの間休みを設けたりと色々したんですけどね。私も子を持つ身なので、想像もできないほどの辛さと言うのも分かりますし。」
「良ければそのクリニックの名称を教えていただいても良いですか?」
「あ、はい。えっと■■クリニックです。そこの道をずっと行って曲がった所の......」
「はい、ありがとうございます。続けて伺っても大丈夫ですか?」
「はい。それで、初めのうちは注意で済ませていたんですけど、今年度の始めくらいから本格的に、おかしくなってしまいまして、長かった髪をバッサリ切って、右手は包帯でグルグル巻きになっていたり、いつの間にか全ての歯が義歯になっていたりと、明らかに常軌を逸した感じになってしまいまして。」
「その問題行動から退職に繋がったと。」
「それも...あると思います。ただ、授業については前と同じように行っていましたし、意思疎通も依然と同様に問題なく出来ていたので、最初は怖いというよりも心配という声が多かったですし。」
「では、退職の直接的な原因は何ですか?」
「......。本当に、オカルトみたいな話になって申し訳ないんですけど、その、伊藤先生の顔が怖くて、ですね。」
「顔ですか?」
「はい。私もそう見えてしまったことがあって、時々トラウマになるような顔に見えまして。」
「ちょっと似顔絵を描いてもらっていいですか?」
「はい」
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「こんな感じです。目と口が無くて丸い穴みたいになってて、首を右に傾げてる感じです。」
「ええと......それは、比喩ではなく?本当にこのような顔をしていたという事ですか?」
「......。わからないです。時々こう見えました。ちゃんと見るといつもの伊藤先生に見える時もありました。ただ、最後の方は私自身もずっとこう見えていという形です。」
「.........。比喩ではなく、目と口が欠損し、穴のように見えたと。申し訳ありませんが、これを客観的な事実としてどう調書に録取すべきか測りかねます。本当に、あなたや周囲の人間全員が『物理的にそのように見えた』と主張されるのですか?」
「その、信じられないとは思うんですけど、多くの学生が見ていますし、私含め教授陣もそう見えていました。泣き出してしまう学生や悲鳴を上げる学生も決して無視できない人数いましたので。
ただ、会話自体は普通の伊藤先生なので、顔が時々怖いく見えるという理由だけで辞めさせるわけにもいかず、なんとか業務を進めていたという形ですが、最終的に学生達に影響が出てしまっていたので.........」
「集団的なパニックや錯覚の可能性はありませんか?伊藤先生は何か香水やお香のようなものは持ち込んでいましたか?」
「わからないです。少なくとも私はそういうものは見たことがありませんが、そういう事かもしれないです.........。当時の彼女の行動からすると、たとえそういう事をしてもおかしくは無いと思います。」
「そうですね。はい、では顔がこのように怖く見えるという話から退職に繋がったということですか?」
「大きくはそうです。その、とても話しにくい話ですが、私の方から本人に状況を伝えた形です。彼女には申し訳ないと思っています。先生にはマスクやサングラスをしてもらったりと試みたのですが、学生が怖がってしまいまして、どうすることもできず..........」
「学生が怖がる、というのはどの程度ですか?」
「後から聞いた話ですが、最初は、彼女の研究室の学生が2人不登校になってしまって、顔が怖いと言って。その後、彼女の講義を受けていた子が次々に伊藤先生の顔が怖いというようになって、気づいたら出席が半数近くにまで減ってしまっていて、という形です。」
「なるほど、学生達が恐怖で勉学に影響が出ていたと。退職に至る経緯は理解しました。では、時系列を少し戻します。去年の8月頃の伊藤先生の動向について詳しく伺えますか。」
「?、去年の8月頃ですか?」
「はい。」
「そうですね、去年の夏は結構フィールドワークに行っていたみたいで、お盆休みもしっかり取らせたので、あまり把握していないですね。」
「伊藤先生のお盆休みは具体的に何日から何日まで取得していましたか?」
「えっと、ちょっと待ってくださいね。えっと、その時期の休務中の業務は私がカバーしておりましたので.........。そうですね、8月11日から8月の19日まで丸々一週間ですね。」
「この期間、伊藤先生がどこに何をしに行っていたかは知っていますか?」
「いえ、プライベートについては全く。知らないですね」
「はい、わかりました。」
「次に、この本について何かご存知ですか?画質が悪くて申し訳ないですが、この■■村伝承 身代様という本です。」
「んん............。すみません、全てを把握しているわけではないので、今ここでは分からないという回答になってしまいます。ただ、彼女の研究室にはこういう古本だったり郷土史のような類は、それなりの量あったはずです。」
「なるほど。伊藤先生が使われていた研究室は現在どうなっていますか?」
「退職したまま、まだ手をつけていません。次任者が決まるまではそのままにする予定でした。いきなりだったので多分パソコンとかもそのままだと思います。」
「なるほど、分かりました。その研究室の中を拝見してもよろしいでしょうか。あと、そこに残されているパソコンや研究資料について、警察への『任意提出』をお願いしたいのですが。」
「パソコン.........は大学の備品ですから大丈夫だと思いますが、彼女の個人的な研究資料まではちょっと.......私の一存では決められないですね。」
「そうですね........。今回は、お話した通り強盗致死事件の参考として伺ったわけですが、実は録音の件しかり本部はこれを重大な事件として見ています。」
「はぁ」
「なのでもし任意でのご提出が難しいとなれば、我々としても裁判所に令状を請求し、強制的な捜索・差押えを行わざるを得ません。大学としても、パトカーが乗り付けて立ち入り捜索が行われるような事態は避けたいと思いますので、どうかご協力いただきたいです。」
「......。分かりました。学長と相談して提出させていただこうかと思います。」
「はい。よろしくお願いします。」
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「ご協力感謝します。のちほど、ご提出いただく物品の目録と、任意提出書にサインをお願いします。また、本日お話しいただいた内容については、我々の方で供述調書として書面にまとめます。また数日後に再びお持ちしますので、内容を確認の上、署名と指印をお願いすることになります。」
「......承知しました。」




