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友達になったら、もっと気さくな関係になれると思っていた。彼女と図書室で過ごす毎日が理想していたものとは違っていて、友達になれた当初の舞い上がっていた気持ちが、どんどん萎んでいった。
「こんにちは。今日は何の本を読んでるの?」
「えっと、今日はね……」
本の紹介を終えた彼女は、僕の言葉を待つことなく本の続きを読み始める。そしていつもの時間になると別れを告げて帰って行くのだ。
僕は今までと変わらず、彼女の一挙手一投足を見つめるだけだった。ただちょっと声を掛けることを許されただけの存在みたいだった。
友達になった意味って?
つい教室で一緒に騒ぐ友人たちと比較してしまう。友人たちとは違い『彼女は女の子なんだから』なんて時代にはそぐわない理由で自分の心をはぐらかしても納得ができなかった。
根本的に違うのだ。
まず彼女には友達がいないのだから。昔貰ったメモ帳をたいそう大事に、懐かしそうに使っているくらいなのだ。だからきっと、彼女も久しぶりに出来た友達とどう付き合って良いのか探り探りなのかもしれない。
彼女が帰った図書室の、閲覧用の椅子に体を預けて天井を眺める。掃除の手を抜いているのだろう。ぶら下がり式の蛍光灯と蛍光灯の間に蜘蛛の糸が弛んでいた。埃をつけた状態で、風もないのに揺れている。
まるで僕たちみたいだ。ノートや教科書で煽ったら、簡単に切れてしまいそうだ。
「どうにかしたいよな……」
進展しない関係に独り言ちながら、何気なく蜘蛛の糸に向かって息を吹き掛ける。
蜘蛛の糸はワンテンポもツーテンポも遅れながらゆっくり浮き上がると、空気抵抗を受けながら元の位置に戻った。
ちょっとやそっとじゃ変わらない。けれど力加減によっては簡単に切れてしまう。仲良くはなりたいけれど、どこまで踏み行っていいものなのか。
「あーっ」
頭をかきむしる。答えのない問題を解いているみたいだ。誰かと一緒に、そこまで考えて止めた。思い浮かんだ友人たちの面々は気の良いやつばかりだ。けれど繊細な彼女と会わせるのはなんか嫌だった。
「なるようにしかならないのかなぁ」
全く読みすすめることの出来ない本を閉じる。本をもとの位置に戻し、溜め息と共に第二図書室を後にした。
そうだよ、この手があったじゃないか!
昨日の放課後、おもむろに立ち寄った文房具店で彼女の使っているメモ帳と同じキャラクターを使った別の絵柄のメモ帳を見つけたのだ。
「これで話せる」
初めて話しかけた時と同じ手ではあるが、シチュエーションが違う。藁をも掴む気持ちで即買いした。夜も眠れず待ちに待った放課後、意気揚々とやって来た第二図書室前。いつもは物音ひとつ聞こえてこない室内から、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。驚きを隠せないままそっと中の様子を伺うと、彼女と女子生徒の背中が見えた。
なんで彼女以外の人がいるんだ? しかも楽しそうに……
室内に入れずにいる僕を見つけた彼女が「大庭くん」と手を振った。それと同時に背中を向けていた女子生徒が振り返る。
印象にはないが見たことはある。確か、
「隣のクラスの……」
出てくるのはそこまでだ。
「結衣だよ、江川結衣。大庭くんととなりのクラスなんでしょ? さっき結衣から聞いたの」
「どうも」
江川さんは僕と目をあわせたまま、無表情で頭を軽く下げた。




