アフタヌーンティーの紅茶は少し苦い アフィアver
お昼を過ぎてサンルームには、ガラス越しの日差しは柔らかく、スコーンの上に淡い影を落としている。
三段のティースタンドを前に、私は背筋を伸ばした。
先生やレオンに何度も言われてきた通り、肘の位置を意識しながらカップに手を伸ばす。
「……入学前よりは、ましになりましたね」
横から聞こえた声は、相変わらず素っ気ない。
レオンは一つひとつ、私の所作を確認していく。
そのたびに、小さなアドバイスや注意が飛んでくる。
「“まし”って何よ。もう少し言い方があるでしょう」
ジト目を向けてそう返しながらも、内心では少しだけ胸を張っていた。
前よりは、確実にできている。
それくらいは、自分でもわかる。
スコーンを割る。
音を立てないよう、慎重に。
「そこです。割り方は悪くありませんが、もう少し静かに」
「……ジャムを取る順番が逆です」
チクチクと小言は続く。
でも、不思議と嫌ではなかった。
前は、もっと言われていた気がする。
最近は、指摘の数が少しずつ減っている。
それに気づくたび、
私はこっそり嬉しくなる。
昔は、マナーなんて気にしたこともなかった。
けれど、貴族として生きる以上、マナーは必須だ。
今、カルガリア家は注目を集めている。
その中で、娘の振る舞いが悪ければ、家の印象まで落としてしまう。
だから、私は完璧なカルガリア家の娘になるしかない。
レオンに指摘され、それを一つずつ直すたび、
理想の淑女に少しずつ近づいている気がした。
カップを持ち上げ、紅茶を一口含む。
昼用のブレンドは軽くて、少しだけ苦い。
カップを戻した、その瞬間だった。
「……綺麗です」
思わず、顔を上げる。
レオンは一瞬、目を逸らしていた。
まるで、言ってはいけないことを口にしてしまったみたいに。
「今、褒めてくれた?」
そう聞くと、彼はみるみる顔を赤くした。
「い、いや……違っ……これは、その……」
急に腕で顔を隠し、わたわたし始める。
――こんなに焦ったレオン、久しぶりに見た。
いつもはクールで、何でもそつなくこなすのに。
かわいいやつ、と思いながら、
私は思わずくすりと笑ってしまう。
レオンは咳払いを一つしてから、表情を引き締めた。
「……いえ。ですが、まだまだです」
「お嬢様が目指している“完璧な淑女”としては、及第点にも届きません」
きっぱりと言い切る。
いつものレオンだ。
私は少しだけ唇を尖らせ、それから息を吐いた。
「厳しいね」
それでも、不思議と嫌な気はしなかった。
さっきの一言と、あの表情が、胸の奥で温かく残っている。
レオンがいるから私は目標に近づける。
私はカップに視線を落としたまま、続ける。
「レオンにそう言われると、
もう少し頑張ろうって思えるわ」
それは、感謝の言葉。
それ以上でも、それ以下でもない。
レオンは何も答えず、
ただ、少しだけ優しく笑った。
そしてティーポットを持ち上げ、
私のカップに静かに紅茶を注ぐ。
「冷める前にどうぞ」
声は、いつも通り冷静だった。
彼は、私と向かい合って座ることはしない。
一歩引いた位置で、執事としての距離を守って立っている。
それでも。
厳しい言葉の奥に、私を大切に思う気持ちがあることを、私は知っていた。
日差しの中で伸びる影は、並んでいるのに、少しだけ離れている。
紅茶は、少し苦い。
でも、その苦さは嫌いじゃない。
温かな紅茶の苦味が、
口の中に残っていたチョコレートの甘さを、静かに溶かしていった。
19時にレオン視点をあげます。
違う視点のアフタヌーンティーは少し甘めで苦くなっているので、ぜひご覧ください。




