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信頼の王国  作者: 志々十勒
創世記─これまでとこれから─
9/26

迷いと決断

 報告書を受け取った瞬間、

青年王ファウストの心臓は痛いほど脈を打った。


『理念破壊の企図──至急、王の判断を仰ぐ』


 マサヒトの筆跡は、

 いつもの軽薄さを一切含んでいなかった。


机の上に置かれた文束は

市場の物流、制度の歪み、噂と見え隠れする影、実際の舞台、街道……。


四つの視点が一度に噛み合った“初めての危険”を示していた。一見ばらばらの異変が、一本の矢として自分に向けられている


ファウストは読み進むにつれ、

胸の奥にじわりと冷たいものが広がるのを感じた。



◆迷いと葛藤、そして決断


「治安悪化を…俺の責任に見せるため……

 クーサンは、民の恐怖さえ利用したというのか」


彼は拳を握り、ゆっくりと息を吐く。


「……これは、本当に“戦い”なのか?」


ファウストは報告書を読み進めるにつれ、

喉が乾くのを感じた。


 クーサンが火種。

 噂の流れが異常。

 制度の歪みが裏で補強されている。

 そして裏に見える他の敵対勢力まで観察を始めている状況──。


どれも単独なら、王国の中ではよくある騒ぎだ。


だが四方向が同時に揃った事象は、明確に“意思を持った攻撃”だった。


理念政治──

それは甘い夢ではない。安心を取り戻す為の

“信頼”という最も壊れやすいものを土台にする政治。


だからこそ、

最も狙われやすいのは理念。

最も壊れやすいのも理念。


「……最初から、“理念”そのものが狙われた。

 信頼を軸にした政治を選んだ以上、

 俺が失敗するのを望んでいる勢力がいる……」


胸に重く沈む。


自分はまだ若い。

先代王ゼロのような経験もない。


「……わかっていたつもりだったが……

 実際に攻撃された時の痛みは……こんなに重いのか」


そして、こういう時に限って

コマもマサヒトも“王の判断”を尊重して口を挟まない。


「……俺が決断するしかないのか」


王冠の重みが、ようやく現実として肩に落ちた。


紙を握る手がわずかに震えた。

しかし、その震えを見ていた者はいない。


王として最初に下す判断は、

迷いながらも“逃げない選択”であるべきだと、彼は本能で理解していた。



◆ファウスト、最初の判断──王として立つ


王執務室。


ファウストが覚悟を決めて立つ。ここで立ち止まるわけにはいかない。


ファウストは静かに鐘を鳴らし、

自らの側近三名──コマ・ワルター・アーサーン、そして前王時代の重鎮四名の緊急召集を命じた。


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