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信頼の王国  作者: 志々十勒
創世記─これまでとこれから─
7/24

胎動する悪意

 青年王ファウストの言葉が広場に響いたその時、


同じ空気を、まったく別の温度で吸い込んでいた者たちがいた。


彼らは決して群衆には紛れない。


しかし表には出ない程度に“確かにそこにいる”存在たち。


それぞれがそれぞれの理由で、ファウストの登場を“脅威”と受け取った。



◆廷臣連盟:反逆の王冠(ディークラウン)


前王時代の特権で肥えてきた廷臣たちは、静かに集まっていた。


彼らの部屋は豪華だが、そこで交わされる言葉は冷たく乾いている。


「あの若造が“民の信頼”などと口にしたのは聞いたな?」


「聞きましたとも。あれは危険です。

民草が目を覚ませば、我々の立場が揺らぎます。」


「……困る。非常に困る。」


 彼らは王に忠誠を誓っていたつもりはない。


忠誠を誓ったのは“自分たちの特権”であり、“立場の保障”であり、“甘い蜜の流れ”だった。


それを脅かす者が現れたと理解した瞬間、

彼らの反応はただ一つ。


「青年王を“統治の未熟者”と見なす文書を作れ。王評議会へ正式に提出する。


まずは王の足場を法的に揺らすのが先だ。」


別の廷臣が、ひどく柔らかい声で言う。


「評判が落ちれば、その後は自然と崩れます。

民心を取る? そんな夢物語、潰すのは簡単ですよ。」


 反逆の王冠(ディークラウン)は早くも“制度を利用した静かな圧迫”の準備へと動き出していた。



◆暗殺者ギルド:通称L.O.S.T(ロスト)

正式名称∶そっと消える(ラーキング・オブ・)静かな引き金(サイレント・トリガー)


表の商会ギルドの裏で息づく影の組織。

彼らは力を金に変え、金を命令に変える者たち。


組織の頭領は、細い声で呟いた。


「青年王、か……。

正直に言えば面倒だ。規律を持ち込む王は、裏の飯の種を潰す。」


側近が問う。


「動かしますか?」


「いや。いま刺せば、王側の誰かが“必ず気づく”。あの若い王、妙に勘がいい。

しかも今日、会場に“戦場慣れの鉄臭い鋭い目”をした男がいた。」

(※これはマサヒトのこと)


「まずは王の周囲の“空白”を探せ。

誰が近くて、誰が遠くて、誰が裏切りやすいのか。

王に刃を向けるなら、王の手を離れたところがいい。」


 闇に潜み闇に消える影の者たちは「今ではない」と判断した。


それは逃げではなく、戦略。

彼らはすでに“王が最も隙を作る瞬間”を探し始めていた。



◆地方領主クーサン:蠢く私兵


遠く離れた領地の城館で、

小太りの地方領主クーサンは、怒りで顔を赤くしていた。


「王が民と話を? ふざけるな!

民と対話する王が生まれれば、領主の権限が薄まる!」


膝をつく家臣が怯えながら問う。


「……では、どうなさいますか?」


「決まっておる!

“王は地方の実態を理解していない”と噂を流す。

私兵たちには、街道での小競り合いを“王政の失策”に見えるよう仕向けろ!」


「ですが……王の新体制が固まれば、逆効果に──」


「固まる前に潰すのだ!

青年王はまだ若い。揺らせば迷う。迷えば権威は地に落ちる!」


 クーサンは、自分の利益のために国を乱すことに何の躊躇もない。


王を倒す気はないが、王を“弱らせ続けたい”。

その動きはやがて、国中の不満を煽る火種になる。



◆宗教派《再光会》──沈黙の裁定者


神殿の奥深くで、祭司長たちが膝を揃えた。


「青年王は“信頼は人の間に生まれる”と言ったそうだ。」


「それは……神の前に人の意志を置くということですか。」


「神の名に基づく秩序が揺らぐ。」


 彼らは表向きは温厚。

だが“教義の権威”を揺らす存在には、とてつもなく冷酷だった。


「王は敵ではない。だが、“教義の上書き”だけは許さぬ。

まずは王に近い者へ接触し、神の意志を軽んじるなと釘を刺す。」


「逆らえば?」


「その時は神の名において“奇跡”を起こすまでだ。」


言うまでもなく、それは政治的圧力を意味していた。

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