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信頼の王国  作者: 志々十勒
創世記─これまでとこれから─
5/26

四人が同時刻についた理由―収束裏話 ─

◆影マサヒト ― “王の死角にいる剣”


 ファウストの公開質疑が終わり、王城の空気がざわめきに沈んでいく頃。


マサヒトはすでに動いていた。彼の行動を止められる者は、城内にほぼいなかった。


前王時代からの軍事担当──近衛大将シドは、何度もこの危険な男を排除しようとした。


だが、結局は実力を認めざるを得なかった。


「……あいつは確かに刃物だ。だが、王には剣先が向いていない。

 外からの刃だけを落とす、妙な“方向性”を持っている」


 公開質疑応答以降、ファウストに刃を向けてくる者が現れた瞬間、必ずその背後に回り込み、音もなく排除してきた男。


 その“忠義の質”を理解したシドは、マサヒトの独自行動を黙認する。


結果、

マサヒトは公式記録にも残らず、誰の視界にも映らず、しかし確実に王の動線に潜む剣として存在していた。


今日も彼はすでに王の謁見室の天井梁に腰を下ろし、揃うべき者たちを見下ろしていた。


「さて、どう転ぶ……?」


闇の中で、ひとりだけ“先に到着している”。



◆商人ワルター ― 財務長ムータラとの査定対談


同じ頃、商人ギルド長ワルターは、

王を値踏みするためにかき集めた数字の束を抱え、王城を訪れていた。


だが、彼の前に現れたのは予想外の人物だった。


宮廷財務長ムータラ。

前王時代から王室財政を一手に担う、数字しか信用しない男。


「……“資源供給改善案”とあるが、実質は王への牽制だな?下手な駆け引きは嫌いだよ、ワルター殿」


「ほぉ、話が早くて助かるぜ。で、俺と数字の話はできるのか?旧時代のお偉さんよ。」


 二人は重い扉の奥で、小一時間、

表に出ない“数字と利害”の論戦を交わす。


「…俺は数字だけを見てきた。でも“あの日の空気”は、数字じゃ測れねぇ。」


最後にムータラは深く息をついた。


「認めたくはないが……お前の数字は正確だ。

 嘘をついていない。“利”に忠実なだけだ」


そして、静かに続ける。


「この提案は、私は扱えない。

 制度の根幹に触れる。…内務卿アーサーンに回す」


ワルターは肩をすくめる。


「へえ。財務が扱えねぇ“制度案件”ってのは、王の根の部分だな?」


ムータラの眼が細くなる。


「……あとはアーサーン卿の判断に任せる。行け」


こうしてワルターは、

意図せず“正面ルート”へ乗せられる。


アーサーンがいる内務局へ、

ファウストに最も近い制度の中枢へ。



◆知識者コマ ― 異質な学術質問は外交へ回される


一方、コマが王へ送った質問状は、政治部署を完全に困らせていた。


「これは制度でもない」

「だからといって軍務でもない」

「しかし経済でもない」

「これは、哲学か…。いや、制度論……?」


最終的に辿り着いたのは外交局だ。


「これは私の領域か……」

前王の知恵の調整役として知られる老練な外交官ラシュマがその封書を開く。


数行読んで、静かに目を細めた。


『思想と制度の相互作用における王権の自立性について』


「……これは“質問”ではない。制度の根を問うている」


ラシュマは席を立ち、

秘書官に指示した。


「アーサーン内務卿のもとへ回せ。

 この男は王と直接話すべきだ」


その結果、


ワルターとコマは、まったく別の理由で

 “同じ内務局の控室”へ向かうことになる。



◆内務卿アーサーン ― 腐敗資料と、監察総括ツバキ


アーサーンは、数日かけて整理した“制度の空白”の資料を抱えていた。


監察総括のツバキだけには、その内容を見せている。


ツバキは書類を一瞥して言った。


「……これは、陛下に直接渡すしかありません。

 現段階で他の部署へ回せば、間違いなく揉み消される」


アーサーンは頷く。


二人は短い言葉を交わして、

そのまま王の謁見へ向かった。


そして内務局前の大広間の扉の前で──


・ムータラの推薦状を持つワルター

・ラシュマに送られたコマ


が、ちょうど同じタイミングで到着する。


アーサーンは二人を見て小さく息を吐いた。


「……なるほど。必要な者は、自然と揃うものか」


ツバキが苦笑する。


「腐敗が深いほど、本物は触れ合うのですよ」


ツバキの言葉に皮肉を混ぜて返す。


そして三人は王の謁見へ向かう。



◆そしてマサヒトは、最初からそこにいた。


三人が入室した瞬間、

天井の梁の上で黒い影が笑った。


「……ようやく揃ったな」


もちろん誰もその存在に気づかない。


ワルターは数字で王を量り、

コマは思想で王を読み、

アーサーンは制度で王を支える。


そしてマサヒトは、

そのすべてを“死なせないための防壁”として動く。


こうして、


四人は、意図せず、計算されず、

 制度と利害と歴史の“自然な流れ”で

 同じ部屋に揃った。


ファウストの歩みを支えるために。

そして、信頼の王国形成に異を唱える者達の初動事件を迎えるために。


未だフェルシアの感情結晶は不安定に淡く明滅している。

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