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信頼の王国  作者: 志々十勒
創世記─これまでとこれから─
4/35

収束の前夜

 それは、奇妙な静寂を孕んだ一日だった。

公開質疑から数日。


王都フェルシアでは、早くも“あの日以降の空気の変質”が語られ始めていた。


人々が理由もなく落ち着かない。

諸侯が理由もなくざわつく。

商人たちが理由もなく動く。

理由はひとつしかなかった。


——青年王ファウストが、民の前で「場を制した」。


その影響は、まだ形を持たぬまま、巨大な波のように王国を進んでいた。


◆ マサヒト:影が報告する“最初の殺気”


王宮裏の奥まった一室。

外から見る者がいれば、ただの空き部屋。


だが、その室内には“影”が数名、無音で現れ、頭を垂れた。


「マサヒト様、あの日……刺客に近い反応が三。背後で糸を引いた者が二名。」


「二名か。」


短い言葉。だが、それは“死の予兆”を意味した。


「動きは?」


「ひとりは領地貴族。もうひとりは……王宮内の高位文官。」


マサヒトは舌打ちした。


「……始まったな。まだ刀の柄にも触れてねぇのに。」


影たちは息を飲む。

彼は続けた。


「お前ら、勝手に動いていい。

ただし——“王の視界に入る前”に必ず処理しろ。


陛下は敵意を受け取ると、真正面から歩いて行っちまうタイプだ。」


影たちは散る。


この国に、まだ誰も知らない“第二の王宮”が生まれていた。



ファウストの知らぬところで、

王に触れる前の敵意は、すでに刈り取られている。



マサヒトは空を見上げ、ひとり呟く。


「死にに行く姿だけは、俺様は許さねぇぞ、ファウスト王。」


◆ ワルター:王への“最初の商談”

王宮へ向けて送った「資源供給改善案」。


それは実質、

“商人ワルターからの最初の挑発”だった。

そして返ってきた返書は──


 ——『提案は妥当。ただし改善点が二つ』

 ——『財源の再配分と、流通経路の再設定検証が必要』

 ——『数字の前提条件を共有したい。近日中に面談を望む』


ワルターは返書を三度読み返した。


「……はは、やりやがったな。」


たった三日で

“王室収支”と“商圏地図”の構造に手を突っ込む返答が来るとは思わなかった。


普通の王なら

・丸呑み

・拒絶

・判断保留

この三択だ。


だがファウストは違った。

“利と制度の接点”に手を伸ばした。


これは初心者の王がやる動きではない。

ワルターは立ち上がった。


「いいだろう。……名乗りを受け取った。」

彼は笑う。


「こいつ、値がつかねぇ。

だからこそ……“買う価値”がある。」



◆ コマ:王の返答に学者の血が騒ぐ

コマの送った〈質問状〉。


内容は

「前例と制度の矛盾をどう扱うか」

という純粋な理論質問。

そして返ってきた回答。


——『制度は、民が理解できる“速度”でしか更新してはいけない。』

——『未来を目指すために前例を壊す時、国全体の理解速度を超えさせないこと。』

——『王の役割は“秩序の歩幅”を管理することです。』


コマは、返書を机に置いてしばらく動けなかった。


「……王が“歩幅”を語るのか。」


制度は急ぎすぎれば崩壊し、遅すぎれば腐敗する。

その“歩幅”を語れる政治家は歴史的にも稀だ。

コマは息をついた。



「面白い。本当に面白い。

では——その歩幅に私が耐えられるか、試してみましょうか。」



すでに観察者ではなかった。

完全に“巻き込まれる側”になっていた。



◆ アーサーン:制度が王を呼ぶ

アーサーンは王宮の一室で書類を閉じた。


王の返書たちを読み、

商人たちの動き、領地報告、内務局の情報を積み上げる。


「…王の返書は、わずか数行で制度の軸を掴んでいた。

 この若さで、あれを読める者が他にいるだろうか。」


そして浮かび上がるのは──

制度の「空白」だ。

空白は“悪意”を呼ぶ。


そして、

ファウストの判断軸は、その空白を埋められる。

アーサーンは立ち上がった。


「……制度が動きたがっている。

ならば、私が支えなければ。」


その歩みは重く静かだが、迷いはなかった。

彼は王への謁見を正式に申し出る。



◆ そして──四人が初めて揃う日


ファウストの執務室。


朝の薄光の中、

ひとり書類を前にしている青年王。


ノックが三度、響いた。


「陛下。商人ギルドの代表、ワルター様がお見えです。」


続けて別の声。



「陛下。知識者コマ殿より返書の確認と、対面での議論希望が。」


さらに別の声が混じる。



「内務局アーサーン、陛下にご報告がございます。」

ファウストは顔を上げた。


まだ、何も知らない。

自分が“歴史的な瞬間”の中心に立っていることも。


そして、第四の存在は——

すでに部屋の梁に座っていた。


「よぉ、ファウスト王。今日は“客が多い”ぞ。」


ファウストは目を細めた。


「マサヒト……また勝手に入ったのですね。」

マサヒトは肩をすくめる。


「お前を死なせないためだ。」


扉が開く。


ワルター、

コマ、

アーサーン。



三者三様の“歩みの気配”が部屋に入る。

——この瞬間、フェルシア王国を動かす四つの柱が揃った。


ファウストは静かに言った。


「……皆さん。

私には、国を動かす力はありません。

けれど、国を動かす“意志”ならあります。」


四人の視線が、若い王に向く。


「どうか力を貸してください。

制度を整え、未来を作るために。」


マサヒトが笑い、

ワルターが値踏みするように目を細め、

コマが興味深げに頷き、

アーサーンが静かに胸に手を当てる。


——この日、信頼の王国フェルシアは本当に動き出した。

——そして同時に、この瞬間から“敵”もまた確定した。


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