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信頼の王国  作者: 志々十勒
創世記─これまでとこれから─
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各々の初動

各々の初動─


 マサヒトは彼の“危険”を見ていた。


戦場で死線を超えた者は、他人の死に様だけは嫌でもわかる。感情圏の歪みを感じる。


 ファウスト王の言葉が正しいか誤っているのかなんて、どうでもいい。


 問題は、あの真っ直ぐさは必ず敵を生むという事実だ。


「お前、今日死のルートに足を滑らせたぞ、ファウスト王。」


 ただし、そこで捨てて置おけないあたりがマサヒト。


 危険を理解していながら、あの一本軸のある無謀さに妙な執着が生まれてしまった。端的に言えば気に入ってしまった。


コイツの創る未来が見たくなった。


―お前が死ぬ未来は見えたが、

 その未来を変えてやる価値がある。



 彼は“王を守る”のではなく、


 このままではファウストの死ぬ未来を無理矢理ねじ曲げるために動き出した。


 公開質疑の直後、群衆が散り始める前に裏路地へ移動し、自分の持ってる情報網のすべて…影の配下、町の情報屋の噂網を総動員で駆動させる。


「…まず敵を洗え。


今日、あの青年王を刺したがってる阿呆が何人いた?


しっかり裏取りと危険性が高いなら各々の判断で動け」


 表向きは“観察”、実際は“死の未来を潰すための防御線準備”がファウストの知らないところで即座に構築されていく。


あっという間に王の周辺に“誰にも認識されない防壁”が出来上がっていた。


「さてと、俺様の判断が間違ってないと納得させてくれよファウスト王様」


 路地裏から音もなく影に溶け込むように消えるマサヒト。


 同じ頃、ワルターは商人ギルドを動かし、王室の収支、領地との税流、廷臣の商圏などのファウストまわりの数字をすべて収集していった。


 ―あの青年王、恐ろしく値踏みがしにくい。俺は情緒では動かない。数字と利益だけを見る。


 だが…俺の“嗅覚”が、今日の出来事は“商売の地面が丸ごと揺れる予兆”だと言っている。


 だからこそ情報をかき集める。

守るためではなく、生き残るため。


 あの青年王、感情に左右されず、かといって冷徹でもない。


 利害を切り捨てながらも、民の反応を確かに拾っている。


「損得だけでは計れない王が現れた。こいつを放置したら市場がひっくり返る。ここは乗るべき場面だ」


 利の観点から分析。うずく人情…。


 前王時代、若かった俺は数字だけを信じて痛い目を見た。あの母親の抱えた子供のやせ細った腕。非難と涙が胸奥を疼かせる。


 …チッ、二度とあんな失敗はしない。


 まずは王へ正式に接触する前段として、「資源供給の改善提案」という名目の文書をすぐさま飛ばした。


これは実質、“名乗り”と牽制だ。


 政治の世界に強引に踏み込まないが…はたしてどうだ。


 俺が最初に王が本当に数字を読めるかどうか試させてもらうぞ。


 そして、王が“本物”だと確信した瞬間、俺は躊躇なくあの青年王の味方につく。


どうしてもニヤついてしまう表情を抑えながらワルターは先行きを予測するのだった。


 コマは最初から観察者目線で俯瞰して見ていた。


しかし観察だけして満足する性分ではない。


 知識者特有の慎重さと、知への興奮との間でしばらく揺れる。


 調べられる限りは調べた。ファウストの過去の発言、出生や系譜、前王時代の政治方針との剥離した際の独自理論。


王ファウストの思想の“骨”を見抜こうとする。


 自分なりの彼の在り方。“ファウスト論”を構築した。


 コマは“前例を越える刺激”を、予想を超える観念を常に欲していた。


あの場のファウストの言葉は学術的にも政治的にも「未踏の領域」、つまり埒外だと即座に判断した。


いままでも歴史を紐解けば、前例を壊す者はいくらでもいた。だが“理由を提示したうえで、他者の腑に落ちるやり方で壊す者”はほとんど見たことがなかった。


「これほど前提を壊す王がいるのか。


ああ、こいつは面白い。私の知識体系の穴を埋めてくれるやもしれぬ。」


 コマは王の理念領域と理論構造に興味を抱いた。


研究対象として王に近づく事を決意した。


そしてある夜、


「これは前例の外側だ」と確信した瞬間、王へ直接〈質問状〉を送った。


それは政治でも商でもなく、

“思想と制度の関係性”についての純粋な問い。


その問いへの判断、切り返しでコマは腑に落ちてしまう。


いずれ

「この王は間違いなく成すべきことを成す」


知識者として支えざるを得なくなった。



ファウストの姿勢、言葉にもっとも静かで、もっとも深い理解を示したのがアーサーンだった。


 彼は自分を凡人と評価する。

なので最も慎重で、最も論理的で、最も重い決断をする。


 自分は制度そのものを実際に動かす立場なので、早々に動くと制度歪みに直結する。


 すぐにでも王のもとへ馳せ参じたい。


だが──


 意図的にしっかり見極め“動く”そう判断した。


 あの日から内務局で数日、心をどこかに忘れたまま静かに記録を整理し続けていた。


 彼は制度という枠から王を見ていた。


 しかし整理すればするほど、今の制度の空白が浮かびあがってきた。


 「これは…。」


 ある書類の行を閉じた瞬間——腐敗と汚職の温床を見つけてしまう。


 ファウスト陛下には判断軸が必要であることを痛感してしまった。


「ファウスト陛下は制度を腐らせない。私が行かなければ制度が軸を失う。陛下は制度に命を流し込む側の人間だ。」


だから、彼は自分の立ち位置を決める。


──制度を守りたいなら、この王を支えるしかない。そう判断し、王に謁見を求める。


 彼にとって王の為に動くのは、王を支える義務ではなく“正しさ”そのもの。


 “制度が王を選ん”と言っていい瞬間だった。


彼らはファウストの元に集う。


 それは想定されたようにきっちりとしっかりと収まるところに収まった状態の様に動き出す。


 この王の歩みに自分が必要なら、歩くべき位置はもう決まっている。


信頼の王国フェルシアは動き出す。

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