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信頼の王国  作者: 志々十勒
創世記─これまでとこれから─
22/24

公開応答会・開幕、揺れる“第一の審判”

 フェルシア国の王都ラージル。


大陸に張り巡らされる血管である大街道の交差する円環都市群の中心。経済的にも軍事的にも重要な地点と言える。


 ここはそんなフェルシアの王都最大の円形集会場。そこに今日、民と王と異なる“語り手たち”が集う──


 ファウストの即位演説、質疑応答会が開かれて記憶に新しい。


 外側の石壁にはすでに群衆が溢れ、ざわめきが“熱”と“疑念”を混ぜて渦を巻いていた。


 今日は王が民の質問に直接答える日──

だが、この場に“純粋な民”はどれほどいるのか。


それを知る者たちが、次々と会場へ足を踏み入れていく。


中央に置かれた感情結晶が静かに明滅する。



◆“語り部”側の刺客、会場入り(空気の毒)


 最初に姿を見せたのは、一見ただの吟遊詩人。

しかし腰に下げた古い巻物の管には、感情誘導の仕込み文言が封じられている。


「王の言葉がどれほど清潔か……試してみようじゃないか。」


薄く笑い、彼は群衆へ紛れた。


その近くには、いくつもの“小さな囁き役”が散らばっている。


語り部の特徴だ──戦うのは剣ではなく“言葉の雰囲気”。


◆ディークラウン派の刺客(正論の刃)


旧貴族の紋章を胸元に隠した紳士が三名。

見た目は上品な市民だが、“質問者の順番を買収した者たち”だ。


「王の未熟さを丁寧に指摘する……。感情ではなく“理性的批判者”として、な。」


視線は冷たく、すでに勝利を信じている。


◆再光会の神官たち(信仰の枷)


白い法衣の神官らが、民の中へ散っていく。

彼らは直接攻撃しない。


“偶然その場にいただけの善良な信徒”という顔で、

王の言葉に合わせて、ざわめきの温度を調整する役だ。


「王が神の恩寵から外れていないか……。

 見極める必要があります。」


彼らは“信仰による圧”を加えることで、

どんな言葉も“神の視点”で裁こうとしていた。


◆物語の主人公にされたクーサン(狡賢い小悪党)


会場の外、ひとり離れて立つ男。


──クーサン。


民に“偶像”として祭り上げられ、

王を脅かす英雄譚の中心に勝手に据えられた男。


だが、本人はそのどれも望んでいない。


「オレは…ただ生存率を上げる為、善人の皮を被っただけだったんだ。制度の穴が塞がれ窮地に立った時の言い訳だったんだ。

 それがなんで…こんな風に争いに…。」


民の声が聞こえる。


「クーサン様が王を正すのでは?」

「王より先に民側に立って、救ってくれたんだ。」

「神殿も認めている。」


彼は思わず苦い顔をした。


──誰が物語を書いている?

──誰が俺を動かそうとしている?


あの日、接触してきた『語り部』の言葉に正体は分からない嫌な予感がよぎる。

だが、一つ確信があった。


今日、この場が“自分の意思とは違う場所”にされる。


「…逃げ道だけは探しておこう。」


そう小声で呟いた時、

背後から音もなく近づいた気配があった。



◆マサヒト、裏処理を開始(裏の応答会)


「……ようやく動いたか。」


闇色の影のように現れたマサヒトが、静かに言った。


クーサンが驚いて振り返ると、彼は淡々と告げる。


「クーサン。お前の周りに“物語の糸”が張られている。今日はそれが一気に引かれる日だ。」


「い…糸?」


「せいぜい気をつけろ。お前を“英雄にしたすぎる連中”……そいつらが一番、お前のことを見ていない。」


それだけ告げると、マサヒトは音もなく消えた。


裏通路へ入った彼は、すでに複数の“偽物の市民”を

順番ごとに特定し、処理ルートへ流し始めていた。


表の会議とは別の、

“裏の応答会”がマサヒトの手で動き始めた。



◆反感情派・次の牙と波(零度の沈黙)


──反感情(アンチ・アフェクト)派の異常な沈黙


会場の片隅。


誰も気づかないほど小柄な老人が座っていた。

年齢不詳の黒ずんだ瞳。


 神殿の装束の再光会でも、貴族の紋章ディークラウン派でもない。


 ただ、世界の“感情”そのものを軽蔑するような目で、王と民の会話の場を眺めている。


小さく呟いた。


「……信頼を信じた王か。それもいずれ折れる。

 折れれば、我々の勝ちだ。」


第二の牙として用いた“語り部”の手腕に一定の評価を持って、さらに次の牙を研ぐ。


──反感情派。


世界から“感情圏”を除去するという価値観を持つ、

最も静かで、最も危険な勢力。


その老人が、地面にそっと白墨で円を描いた。


円の形は“歪んだ感情遮断紋”。


そして老人は微笑む。


「第一の審判……良い舞台が整った。」


その瞬間、会場の空気に

“何かが一つ欠けるような違和感”が混じった。


──開幕の鐘が鳴る。


ファウスト王が入場する。

群衆の歓声、期待、不安、疑念……

複雑な感情が渦を巻く。


感情結晶は次々と色を変え、嘘と熱を同時に映し始めた。


そしてその中には、仕込まれた声、人為的な沈黙、

扇動の震え、冷たい観察者の視線──


全てが入り混じっていた。


マサヒトが裏で動き、

クーサンが踊らされて揺れ、

刺客たちが配置につき、

第三波が静かに口を開く準備を整えていた。


公開応答会──

これはただの政治イベントではない。


信頼の王国を試す“複合の牙”の衝突。

その第一撃が、いま幕を開く。


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