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信頼の王国  作者: 志々十勒
創世記─これまでとこれから─
20/24

八柱会議─知識者の助言─



 小さくコマが呟くと、今までなんの為に置いてあったのか、分からなかった水晶球が光を放ち、全方向から見える映像を映し出す。


コマは円卓中央に映し出す『魔法の水晶球型投影機』に現状を反映させ、側近の相互理解の一助を、この道具に担わせていた。


「いや、いやいやいや…。待て待て待て、コマ。違う、コマさん、…いやコマ様?コイツはなんだ?」


 いきなりの説明不足の状態での魔法道具の登場にワルターが待ったをかける。


「…瑣末なこと気にするでない。」


 迷惑そうにコマがワルターを制止するが、納得は出来ないワルター。


 周りの面々も同様ではあるが、現状の優先順位は確かに。


 コイツの詳細説明ではないと、ワルターも渋々引く。


 ファウストはコマの投影機に一瞬、驚きはしたがいち早く、より深く“問題の構造”を見ていた。


「ファウスト王が語るべきは、クーサンの善行の否定じゃありません。その裏に潜む『善行の裏に潜む者』を暴く必要もない。逆に乗るんです。」


ファウストはコマの意図を掴みかねる。


「乗ると……?」


「ええ。こう言うのです。」


水晶球にコマの戦略的助言が映し出される。


【応答会で王が“言うべき事”と“言わないべきこと”】


1. クーサンを否定しない。

→聴衆は“善意の物語”を信じたい。否定は最悪の手。


2. 王の職務=構造の改革を前面に出す。

→ 「私は個人の英雄譚より、千人単位の救済を考える立場です。」


3. 改革の具体策・時期・数字を提示。

→ “感情の物語”に対抗できる唯一の要素。これはコマの得意分野でもある。


4. 信頼を“王の一存ではなく、民と行政の共同”に置く。

→ 再光会の神学攻撃(信頼=神の権威否定)を逆手に取る。


「陛下は誠実にこれらを踏まえて発言をされれば良い」


 コマの助言に頷くファウスト。


 八柱の視線が集まる。八柱を見渡し、長く息を吐いた。


 ムータラはこの応答会によって動く予算を計算し始めている。


 隣でラシュマが対外への調整と広報の予定を立てる。


 ファウストは一度目を閉じて沈黙、


 周りの緊張の一番高まった場所で目を開いてゆっくりと言葉を乗せる。


「俺はまだ未熟です。ですが──未熟であることを隠す王に、国を任せるべきではない。


クーサン殿の行動は称えられるべきものです。


 しかし王の務めは、ひとつの村を単体で救うことではなく、街を、各領を…。国全体で“同じ悲劇を二度と起こさせない仕組み”をつくることです。


 確かに善意の行為は芽となります。


 私は王として、神殿の方々にも認められた民の英雄クーサンが足元から我が国を支えてくれる事、


 木々の救済を担ってくれる事、大変嬉しく思います。


 ですが、王の職務は木の一本一本では無く、豊かな森を育てることです。土壌を育む事です。


 英雄の存在も神殿の威光も当然、個人として誉れ高い一節で有り、誇らしい限りです。


 ですが英雄は一時の光。英雄を支える王は、千の影を拾う義務がある。」


 場に声が沈み、束の間の沈黙。そして力強い宣言。


「ならば──俺は、その義務を喜んで背負う王でありたい」


八柱の空気が変わる。


「…こ、これなら、宗教改革批判にもならず、ディークラウン派の罠にも乗らない。」


 ラシュマは感嘆の一言を漏らす。ツバキが冷静に分析する。


「王の正当性を“責任”と“構造改革”に置く。なるほど、理路整然としている。」


 アーサーンは安堵の息をつき、マサヒトは口角をわずかに上げる。


 会議の締めにコマは小さく笑い、冷たい結論を添える。


「陛下。相手は物語でファウストと言う未熟な王を“裁こう”としています。


 ならば陛下は、誠実な事実と未来への透明性で『語り部』を裁つ”立場でいればいい。」


 マサヒトは、その言葉を聞きながら何かを計算していた。


 コマがあえてそこには触れないのは、マサヒトの“裏の処理”を察しているからだ。


「なるほどねぇ、ようやく匂いが掴めたよ…『語り部』さんよ。」


 口元でボソボソとマサヒトが呟く声を聞きながら、頷くシド。


 愚直の剣シドも、マサヒトとは別角度から状況を整理し軍部としての最適解を探し始めている。


 八柱はそれぞれの役割へ散っていく。


 公開応答会は、王政の正当性を賭けた“第一の審判”になる。


 最後にさっさと散ろうと流れに乗るコマをワルターが捕まえて投影機の詳細を問いただすのだが、それはまた別の話であった。


ワルター「なぁなぁコマ、こいつ動かすたびに音が鳴るんだが?」


コマ「それは仕様だ。お前は黙れ」


ツバキ「……。」

 表情は変わらない。(この二人の温度差…ぷぷっ)


 王都の複合の円環都市の中心部で始まる公開応答会は多くの群衆が見守る中でまもなく幕を開く。


ファウストは胸の奥で、静かに一つだけ確信していた。


「ここが王国の分岐点だ」


 …恐れも焦りもある。だが、それ以上に“やるべきこと”が見えている。


 信頼の王国の揺れる未来への道筋の中で、各敵対勢力の複合の牙を内包した第二波はまもなく始まる。


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