第二の牙:第二波の裏で蠢く者達
◆『語り部』──“第一波の成功”を冷静に観察
夜の路地裏。
語り部は灯りのない茶屋で、薄い湯を啜っていた。
「善意構造は……想像以上に早く根を張ったね」
彼は独り言のように呟く。
「市場三か所の同情噂、十の枝分かれ、五十の再伝達……
波形は完璧に“弱い善意”として循環している。
民の心は“王を断罪するほど強くはないが、寄り添う相手は欲している”。」
目を細め、湯気を眺める。
「さて王よ。噂の“源泉のなさ”に気付くとは優秀だ。
だが気付いても止められない。この噂は、民衆の“心の構造”そのものに寄り添う形で撒いてあるからね。」
語り部はさらに一言、軽く笑って付け加えた。
「君が口を開くのは想定内だ。
むしろ……“語る”という行動で、物語の舞台に自ら上がってくれる。
その瞬間が、第二波の開始だ。」
湯のみが机に静かに置かれた。
◆暗器ギルド『沈黙の引き金』──ファウスト政権の強度を“感情ではなく反応速度”で評価
L.O.S.Tの拠点、“無灯の廊”。
無数の影がひしめく中、一人の幹部『右腕』が淡々と報告していた。
彼らはお互いに名乗らない。互いを数字、現象、部位や部品等の単語で区別する。
「王政の感情圧は均一に制御されている。
噂への動揺は一部に留まり、統治構造は揺らぎなし。」
別の幹部『残像』の影が言う。
「だが、王が“直接市場に出る”と決断した。
これは強度確認の好機だな。」
最奥に座る首領格『朧月』が静かに頷く。
「王の弱点は、正面から物語に介入しすぎる点だ。
敵の言葉に反応する王は、いずれ“言葉の戦場”に引きずられる。」
影の女『幻惑』が薄い笑みを浮かべる。
「暴力ではなく、情報と感情の戦場…。
我らもそこに“薄い恐怖”を落とすだけで王の言葉に影が差す。」
『朧月』が一言。
「王の強度は高い。しかし、奴とて万能ではない。判断の速さ・精度・現場介入の比率……すべて“測る”のが我々の仕事だ。」
L.O.S.Tは敵対勢力の中で最も冷静だ。
この“王の直接介入”を、
彼らは王の統治方針の弱点分析に使う。
◆反逆の王冠(腐敗官僚)──想定外の王の早期反撃に不満
王城のとある密室。
薄い香の煙が満ちる中、三人の官僚が声を潜めて話す。
「…また王が動いた。噂が広がりきる前に“公開応答会”とは……!」
「勝手に前例を作る気か?あれを許せば、官僚の調整権限が軽くなる。
王が民の声を直接聞けば、我々の立場など…。許容できるものではない」
「問題はそこではないだろう。
“善意の構造噂”を利用して、王の威信を削る予定だったのに…王が主導権を奪った。」
不満と焦燥が混じった沈黙。
やがて一人が低い声で言う。
「暗躍しているであろう『語り部』に乗った作戦はそう悪くない。だが王が動くなら、我々も“政治的反撃”を組み込む必要がある。」
「議会に圧を入れるか?」
「あるいは…神の威を借りる。宗教派《再光会》を使う。」
三人の視線が重なる。
「あそこは“王より神を上に置く”。
このタイミングなら、王の行動を“神の秩序への越権”だと批判できる。」
不満は怒りに変わりつつあった。
◆再光会──沈黙から“神学的揺さぶり”へ
再光会の神殿。
石造りの地下室で、祭司長たちが並ぶ。
「青年王が“民の前で真実を語る”……これは褒められる行動ではあるが。」
もう一人が眉をひそめる。
「問題はその言葉の中に“神の秩序への解釈”が含まれる可能性があること。」
別の祭司が静かに指摘した。
「善意の領主クーサンの噂が正しいか否かは不明。
だが国民が彼に同情しているのは事実だ。
この状態で王が不用意に“人の信頼こそ秩序”と語れば…神の権威を薄めるだけ。」
祭司長が結論を下す。
「王が語る前に、我らも“神の代弁者の立場からの声明”を出す。
内容はこうだ。」
一つ、“善なる者が試練に遭う時、神はそれを見守る”
二つ、“人の力を過信せず、神の秩序を忘れるな”
三つ、“信頼の源は神の光にあり、王の言葉にあらず”
「この声明を民衆と議会に広める。これなら王が何を語っても、“神学的に正しい枠”で上書きできる。」
最後に祭司長は囁いた。
「王には敵意はない。ただ…配慮を忘れただけだ。
神の名のもとに、我らが秩序を正してやろう。」
彼らは動く。




