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信頼の王国  作者: 志々十勒
創世記─これまでとこれから─
12/26

反撃の狼煙─八柱陣─

ファウストが号令を放った瞬間、八柱は“自分の持ち場”へ意識を切り替えた。


 軍事、監察、財政、市場、制度、外交、警備、そして影。


 それぞれの軸が、一本の思想へ収束していく。


◆ツバキ(監察)


 ツバキが一歩、前に出た。


「噂の出所を断ちます。意図的な“世論の操作”である以上──足跡は残ります」


 報告書を指先で叩く。精悍な顔でファウストに告げる。もはや入れ替わっただけの王に対する忠義ではなかった。


彼女もあの質疑応答の場にはいたのだ。


 立場上、王への忠義と個人感情は切り離して、一歩下がって俯瞰する。それが自分と割り切っている。


いまさら性格を変えられる程に若くはない。だがこの王は支えてやりたい。


アーサーンほどの才はない。私は私に出来ることをやる。


「敵は“恐怖の拡散”に賭けた。なら、我々は“信頼の反証”を提示する」


 王政の理念は暴くのではなく証明するもの。

 ツバキの視線には、そう書かれていた。


◆ワルター(市場)


 すかさずワルターが続いて笑みを浮かべる。


「なら噂が商品になる前に、情報の値を操作すればいい」


 市場図を円卓の中央に置き、静かに、しかしよく通る声量で、速度で言った。


「我々は恐怖で商うつもりはない。正確さで“安堵”を売りましょう」


 情報を武器にせず、安心の値段で市場を制する。


◆ムータラ(財政)


 ムータラが数字とにらみ合う。


「ふむ、揺らいだ物流は、地方ごとの赤字に跳ね返る。だが…裏返せるか」


 慣れた手つきで手短に指示を出す。


「ワルター殿の案に乗ろう。揺れる市場に国家保障をかける。“不安を国家が買い取る”。これで敵の利益は潰れます」


 謁見前の数字の対談は無駄ではなかった。国と民の数字が揃う。ムータラはワルターを見て軽く口角を上げる。


 領主クーサンの心臓を、金で止める。


◆アーサーン(制度)


 アーサーンが眼鏡を押し上げる。


「まず一点目。ツバキ殿、クーサンの心臓は金で止められても、燻りは残っている。西街道へは調査隊の派遣を願えますか?牽制します。」


アーサーンの言葉にツバキは頷く。


「二点目。数日以内に“緊急流通保護規則”を公布できます。法が追いつけば、敵の利益は違法化される」


 彼は淡々と言い切った。


その制度化の才にワルターは感嘆する口笛を吹く。十分天才じゃないかコイツ。


「結論。理念政治とは、遅くない法です。証拠が揃い次第、即座に法に変える」


 法は、真実より遅い必要はない。


◆ラシュマ(外交)


 静かに目を開く。


「国外に『治安不安』の印象を持たせるのは避けねばなりません。外交筋には“計画的対応中”と通達します」


 その声は穏やかだが、鋭い。


歴戦の交渉技能が対外国に楔を落とす。


 前王が恐怖の末、至った抑制政治。止められなかったのは側近だった自分たちが不甲斐ないからだった。


今度は間違えない。王を支える為、我らはいる。


「フェルシアは揺らいでいない──それだけで貿易は守られる」


 もう二度と外から崩させはさせない。


◆シド(軍事)


 シドは立ち上がり、短く言った。


「…軍の出動はしない。」


 ファウストを除く誰もが一瞬驚く。


「兵が動けば、恐怖が真実になる。王が迷っていると見せることになる」


 大将の声は剣より真っ直ぐだった。


「我々は“民の不安”とは戦わん。敵だけを斬る」

 軍は示威ではなく、最後の刃だ。


「だが、一言。不安は魔物を産む。各々しくじるな」


かつての荒廃したフェルシアの記憶…忘れらずに目を閉じる。


◆マサヒト(影)


 壁際の男が、初めて口を開いた。


「クーサンは使い捨ての駒。操っている別筋がいる。動きを追う」


 それだけで場の空気がさらに冷えた。


「信頼を壊す者を、信頼しない。理念への敵は、“個”として狩る」


 影は理念の番犬。



◆ファウスト(王)


 八人の方針を聞き終え、ファウストはゆっくりと立つ。


「──“信頼を奪う戦い”を、俺たちはしない」


 その声は強く、揺らぎがなかった。


「制度、経済、法、市場、影……すべてで“信頼を守る”」


 王は胸に手を当てた。


「俺は剣ではない。俺はこの国の“証明”だ」


 八柱すべての眼差しが、同じ方向を向いた。

 彼らが守るのは領土ではない。

 王国の理念そのもの。


「次は──“第二の牙”を折る」


作戦室は、静かな戦場になった。


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