八柱会議
緊急召集の鐘が鳴ってから十数分。
王宮の作戦室には、重い空気が沈んでいた。
旧側近四名と、新側近四名。
“ゼロ王政権”と“ファウスト政権”が、ここではじめて同じ円卓を囲んだ。
シド大将は無言で背筋を伸ばし、
ラシュマは静かに目を伏せ、
ツバキは報告書に指を置き、
ムータラは眉間に皺を寄せて数字を走らせている。
対する新側近は──
アーサーンがやや緊張した面持ちで資料を整え、
ワルターは表情の裏で状況を値踏みし、
コマは静観しつつ王の姿勢を見つめ、
マサヒトは何も言わず壁際に立ちながら会議全体を観測していた。
そこに王が入室した瞬間、場の温度が変わった。
◆ファウストの宣言
「……皆、集まってくれてありがとう」
青年王の声は震えていなかった。
しかし、彼が握る報告書が少しだけ折れていることに、
ツバキは気づいた。
「今日は“西街道攪乱事件”について、
旧側近と新側近の情報を統合し、初動方針を決める」
王はあえて飾らない表情で言葉を続けた。
「……今回の事件を、“理念への攻撃”と断定する」
ファウストの発言に場が震えた。
マサヒトの瞳が静かに動く。
コマは沈黙で目を細める。
ワルターは驚き、アーサーンは無意識に書類の端を押さえた。
いま王が口にした“理念への攻撃”はつまり──制度の根幹を動かす判断だ。
シドは“軍事として何を守るべきか”を瞬時に整理し、
ラシュマは外交危機の可能性を考える。
ツバキは内部規律を疑い始め、
ムータラは黒字が赤字になる未来を直感する。
◆場が動いた瞬間
円卓に低いざわめきが走る。
“理念”を基準に判断する──
それはゼロ王にも、そう多くはなかった決断方式だ。
先代側近たちは一瞬の驚きと、かすかな警戒。
新側近たちは王の覚悟を測るように息を整える。
ファウストは続けた。
「皆の報告がなければ……俺はただの“治安事件”だと片づけていた。
街の恐怖、物流の歪み、噂の流れ……
どれも単体なら見落としていた」
その告白に、ラシュマが軽く目を見開く。
ムータラは少しだけ姿勢を改め、
ツバキは静かに王を見直した。
“王が自ら弱点を認めた”
それは、理念政治において最も強い信号だった。
◆王が背負う覚悟
「……俺にはまだ見えていない領域がある。
だから今回の判断は──
皆の“認識の総合値”で行う」
ファウストは報告書を静かに置いた。
その一言で、
旧側近は「任された」と理解し、
新側近は「共に立つ」と覚悟を固めた。
空気が、初めて八人の“同じ方向”へ流れた。
◆旧側近の一声が会議を締める
最初に口を開いたのは、意外にも近衛大将シドだった。
「……王よ。
覚悟を示された以上、我らは迷わぬ。
ならばこの会議──“反撃の初手”と心得る」
その言葉で場が決まった。
ツバキが監察報告を、
マサヒトが影の観測を、
ワルターが市場側の動揺を、
アーサーンが制度面の弱点を並べる。
集まった断片は、一本の線に収束し始めていた。
◆反撃の始動
ファウストはゆっくりと席を立ち、八人を見渡した。
「……牙の野放しは、王国の理念には反する。
ここから先は──“信頼を守る戦い”だ」
その瞬間、部屋の空気は戦場の緊張へ変わった。
会議室の空気が、さっきまでの“八つの壁”から、“一本の軸”へと変わっていくのが分かった。
誰も言葉にはしない。
だがこの瞬間、初めて八柱は“同じ敵”を共有した。
「これより反撃を開始する」
ツバキが口火を切る。
「まず噂の流れを断ち切ります。出所を特定し、逆流させる」




