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信頼の王国  作者: 志々十勒
創世記─これまでとこれから─
10/24

八柱会議

 緊急召集の鐘が鳴ってから十数分。

王宮の作戦室には、重い空気が沈んでいた。


 旧側近四名と、新側近四名。

 “ゼロ王政権”と“ファウスト政権”が、ここではじめて同じ円卓を囲んだ。


 シド大将は無言で背筋を伸ばし、

 ラシュマは静かに目を伏せ、

 ツバキは報告書に指を置き、

 ムータラは眉間に皺を寄せて数字を走らせている。


 対する新側近は──

 アーサーンがやや緊張した面持ちで資料を整え、

 ワルターは表情の裏で状況を値踏みし、

 コマは静観しつつ王の姿勢を見つめ、

 マサヒトは何も言わず壁際に立ちながら会議全体を観測していた。


 そこに王が入室した瞬間、場の温度が変わった。


◆ファウストの宣言


「……皆、集まってくれてありがとう」


 青年王の声は震えていなかった。

 しかし、彼が握る報告書が少しだけ折れていることに、

 ツバキは気づいた。


「今日は“西街道攪乱事件”について、

 旧側近と新側近の情報を統合し、初動方針を決める」


 王はあえて飾らない表情で言葉を続けた。


「……今回の事件を、“理念への攻撃”と断定する」


ファウストの発言に場が震えた。


マサヒトの瞳が静かに動く。

コマは沈黙で目を細める。


ワルターは驚き、アーサーンは無意識に書類の端を押さえた。

いま王が口にした“理念への攻撃”はつまり──制度の根幹を動かす判断だ。


シドは“軍事として何を守るべきか”を瞬時に整理し、

ラシュマは外交危機の可能性を考える。


ツバキは内部規律を疑い始め、

ムータラは黒字が赤字になる未来を直感する。


◆場が動いた瞬間


 円卓に低いざわめきが走る。


 “理念”を基準に判断する──

 それはゼロ王にも、そう多くはなかった決断方式だ。


 先代側近たちは一瞬の驚きと、かすかな警戒。

 新側近たちは王の覚悟を測るように息を整える。


 ファウストは続けた。


「皆の報告がなければ……俺はただの“治安事件”だと片づけていた。

 街の恐怖、物流の歪み、噂の流れ……

 どれも単体なら見落としていた」


 その告白に、ラシュマが軽く目を見開く。

 ムータラは少しだけ姿勢を改め、

 ツバキは静かに王を見直した。


 “王が自ら弱点を認めた”

 それは、理念政治において最も強い信号だった。


◆王が背負う覚悟


「……俺にはまだ見えていない領域がある。

 だから今回の判断は──

 皆の“認識の総合値”で行う」


 ファウストは報告書を静かに置いた。


 その一言で、

 旧側近は「任された」と理解し、

 新側近は「共に立つ」と覚悟を固めた。


 空気が、初めて八人の“同じ方向”へ流れた。


◆旧側近の一声が会議を締める


 最初に口を開いたのは、意外にも近衛大将シドだった。


「……王よ。

 覚悟を示された以上、我らは迷わぬ。

 ならばこの会議──“反撃の初手”と心得る」


 その言葉で場が決まった。


 ツバキが監察報告を、

 マサヒトが影の観測を、

 ワルターが市場側の動揺を、

 アーサーンが制度面の弱点を並べる。


 集まった断片は、一本の線に収束し始めていた。


◆反撃の始動


 ファウストはゆっくりと席を立ち、八人を見渡した。


「……牙の野放しは、王国の理念には反する。

 ここから先は──“信頼を守る戦い”だ」


 その瞬間、部屋の空気は戦場の緊張へ変わった。


 会議室の空気が、さっきまでの“八つの壁”から、“一本の軸”へと変わっていくのが分かった。


誰も言葉にはしない。

だがこの瞬間、初めて八柱は“同じ敵”を共有した。


「これより反撃を開始する」


ツバキが口火を切る。


「まず噂の流れを断ち切ります。出所を特定し、逆流させる」

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